基本読書

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本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」 by ジェイソン・マーコスキー

Amazon本社でKindle開発の現場責任者として携わり、プロダクト、エンジニアリング、プログラムマネージャーをそれぞれ担当しKindleのエバンジェリスト(伝導者)として任命され、Amazon退社後Googleへ、そして今は読書関連のサービス会社を設立しているとまあなかなかな経歴を持つ男である。原題は『BURNING THE PAGE THEEBOOK REVOLUTION AND THE FUTURE OF READING』ということで、基本的には読書の歴史をたどって、いかに電子書籍が産まれたか、そして読書や電子書籍リーダーは今後どうなっていくのかを探る一冊になっている。

最初は技術がわかる人間として雇われていたのだし、今も最高技術責任者としての立場で会社をやっている。そうした技術的な面での解説や、Amazonで腕をふるったわけだから内部事情的な部分を赤裸々に語ってくれるのかなと楽しみにしていたのだが、まあかなり一般的な解説書に落とし込まれてしまっている。本の歴史はどうだとか、電子書籍の起源はあーだとか、クラウドに本を保存するとはどういうことか、そもそもクラウドとはなんぞやなどなど。知っている人間からすればその辺はもうえーからと思う所からしっかりと語ってくれているので振り返りにちょうどよかったが、ある程度把握している人間には退屈な本だろう。

しかしこうして歴史を振り返ってみると、いろいろと思い起こされることもあるなあ。Kindleがやってきた時の日本のWeb記事には笑ってしまうようなものが多かった。やれ「電子書籍が紙の本に比べて劣っているところ10選」とか、はたまた「電子書籍が普及するはずのない5つの理由」などなどの出たばかりのKindleの欠点をあざ笑うような内容の記事があがる。「出たばかりで何もかもがうまくできるはずのない、一電子書籍リーダーのKindleの欠点をあげて電子書籍全体を否定するなんてバカじゃなかろうか」と思わずにはいられなかったことをよく覚えている。

その後Kindleストアのコンテンツが充実し、これに対抗するようにして日本の電子書籍市場もそれなりに活性化し、端末やアプリの性能が向上するにつれてもう誰も電子書籍が普及するはずがないなどとのたまうこともなくなった。結局いくらその利便性や、今後紙の本に置き換わっていくであろう利点の数々を言葉で説明されたりしようが、手元にまさにそれそのものがなければ伝わらないことが多いのだろう。iPhoneが初めて出た時だって、僕は話に聞いている限りではまったく欲しいと思わなかったが友人が持っていたものを触らせてもらったら一瞬で欲しくなってしまったし、実際に体験しないとわからないことも多い。

著者と同様に僕も紙の本は今後その数を減らしていく一方だろうと思う。そりゃもちろん物理的な書籍が優れているところなんてそれこそ10も20もあげられるが、当然ながらマイナス面もあり、電子書籍はそうしたマイナス面を完璧にフォローしているか、していくことができるだろう。紙の本はだんだんとベストセラーや一部の高級感をウリにする物のみが刷られるようになっていき、何十年か先には高級アイテムと化し、インテリアとしての機能に特化されていくだろう。電子書籍にもマイナス面があるが、こちらは一般化と洗練によっていずれ段々と克服されていく(といいな)。Amazonが潰れたら我々が買った本はどうなるんだとか、ファイル形式がそれぞればらばらすぎるだろとか、ソフトウェアの劣化など根本的な問題も含めて。

もちろん本書は振り返りや現状整理だけの本ではなく、FUTURE OF READING 、読むことは今後どう変わっていくかをメインテーマの一つとしている。極端なアイディアでいえば、記号化や解読を介さずに、コンテンツを直に体感する。文字を読むのではなく脳と脳がつながり、作者のナマの体験を体感できるような読書。また読書はソーシャル化を今後いっそう深め、端末で読み終えた瞬間から他者のコメントが読めたり(あるいは読んでいる最中にニコニコ動画のようにコメントが挟まれるかもしれない)、読むだけではなく書く側もオンライン上で一体となり何度も推敲を重ねていくような時代になるだろうとも言う。

こうした未来予測はいくつもなされており、まあそうだなと思うものもあればそうはならないだろうと思うようなものもある。前者でいえば面白かったのは電子書籍リーダーはいずれ端末の画面の広さの制約を受けない「超小型プロジェクター一体型」になるだろうという指摘。これなら必要なのはネットワークの接続機器と超小型プロジェクターだけなので親指サイズの大きさに小型化でき、壁に投射しようが机に投射しようが好きな大きさで読むことが出来る。ふーんなるほどなー。これは面白いかもしれないな。指輪サイズだったら持ち運びも便利だ。

後者はまあいろいろあるが(SFじみたものもあるし)、原作者のような概念は今後希薄になっていくだろうという指摘などは正しくないと思う。だいたい歴史を生み出してきたのは個人としての天才であり、創作においても魅力は集団制作というよりかは個人の才能の発露だからだ(映画のような元より集団制作と元より個人制作な小説や漫画は異なるが)。

蛇足になってしまうがAmazonの内部事情的なところに触れられている部分もないわけではなく、たとえばKindle開発記などは分量はそう多くないものの自分たちが歴史を変えるんだという興奮があってやはり面白い(別に彼らがはじめての電子書籍リーダをつくったわけではないが)。またやっぱり辞めているからか、直接的な愚痴ではないものの揶揄するような話もいくつかポロッと書かれている。たとえばAmazon社内に存在していたペゾスの崇拝者達の話は、彼がどんな話をして、どんなふうに笑ったかを話題にし、ペゾスが読んだ本をみんなが読み、否定する人間が皆無だったこととして語られている。

それからKindleプロジェクトが立ち上がってすぐの頃はまだしも、現状はペゾスとのミーティングを設定するのが異常に困難な説明も面白かった。第一秘書(秘書それぞれに個室がある)を通して第二秘書を通して第三、第四を通してやっとミーティングが出来ると思ったら第四秘書が伝え忘れていてすでに出かけた後だった──ということがありえると特に否定的なニュアンスもなくただの事実として語られているが、まあいろいろと不満もあったのだろう。Kindleで採用されているファイル形式についても不満があったらしく、当時は言えなかったなどと書かれており、いやいやそれはなんとか体を張って止めてもらいたかったな。

まあ、内部関係者だった著者でなければ語れない部分はそう多くないし、そこまで鋭いと思うような指摘もなく、絶賛するような内容の本ではない。それでも本の歴史、電子書籍の利点と欠点に広く触れられており、本とはなにか、電子書籍とは何かを考える上での基礎的な一冊としては良いと思った。僕は紙の本で読んだが電子版の方が、中にハイパーリンクが貼られていて直接飛べるようになっているから良いと思う(何しろこういう本だし)。

本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」

本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」