基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

新しい市場のつくりかた

これはおもしろい。iPhoneも、Kindleのような電子書籍事業も、Facebookも、つまるところ新しい市場を日本は作ってこれなかったわけですが(もちろん国内向けは別として)それはなぜなのか、新しい市場を作るにはどうしたらいいのかを分析した本になっています。それが何なのかといえば、任天堂横井軍平さんが言っていた枯れた技術の水平思考ということになるのかなと思うんですが、これをちゃんとわかりやすく説明してくれているので良い。

ようは技術がいくら優れていてもたとえばテレビが5センチ薄くなった! と言われてもなんら嬉しくなくて、「5センチ薄くなったおかげで家の中でこんなことができるようになる!」という新しいライフスタイルの提案が必要だという話です。技術を発展させ、より技術力の高い物を作るのではなく「まったく新しい文化を開発する」ことこそが、新しい市場のつくりかたなのですな。

喩え話としておもしろかったのがウォッシュレット。ウォシュレット、温水器とポンプがついたシャワーなのでエジソンの時代には技術的に可能ですね。しかしこれが一般的に鳴り始めたのは1980年台で、随分と開きがある。まあ当たり前ですけど「トイレした後に水でおしりをあらってもらいたい」欲望というか、問題が発明されていないと誰もウォッシュレットを使いたいとは思わないわけで。

市場のつくりかたには4段階あるといいます。ひとつめが当然問題を発明すること。ふたつめがそれを技術的に達成できること。みっつめにその技術を生かせる環境があること。よっつめにその新しい問題が広く人々に認知されていることです。だからまあとにかく今まで誰も問題にしてこなかったところを問題にするというステップが重要になってくるわけですが「そもそもどうやって問題を問題と認識できるようになるわけ?」というのが気になる。

本書ではこれについて、意図せざる知識獲得が重要だとときます。会社員には会社員の、研究者には研究者のフィルターが存在する。余談ですけど人は知ることや自分の立場によって行動が制限されていきますからね。赤ちゃんは最初親の真似をして、それがどういう意図を持つのかもわからないで笑う。しかしそのうち笑う意味を知ってしまったら、あとはその意味通りの笑いしかできなくなる。

誰もそれを制限されているなんて思わないですが、しかし制限されていることに気づかない制限が一番巧妙なのでしょう。問題に思わない問題も同じような構造を持っていると思うわけです。だからまあ自分と違う考えの人、自分と立場が違う人、自分と違う欲求を持っている人などさまざまな人と交流をして、必然的偶然、知識のかけざんをしようというのが本書の結論でせう。

ぶっちゃけ僕は人と話すのはあまり好きではなく情に薄い傾向があるので他人ごとのように読んでいましたが、しかし真面目に市場をつくろうと思ったらまあ一番真っ当で地道な方法のように思えますね。ワークシフトやMAKERSなど、これからの新時代における働き方を考えている人たちはみんなこの「協働」、を言います。それによって幅広い知識が生かされた多様な製品がつくれるのだと。

でもできれば、自分自身の中に幾つもの視点を持って、意図的に知識からの制限を自覚し、外せる人間に個人としてなりたいなあと人見知りの僕等は思うわけでした……。知識だけはいかんともしがたいですけどね。

新しい市場のつくりかた

新しい市場のつくりかた