「もしドラ」はなぜ売れたのか?というタイトルで『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が売れた理由を著者の岩崎夏海さんが自身のブログで解説している。メルマガとはいっても連載形式で、これが面白いのだ。他の記事は時々面白く、時々とんでもなく微妙な話があるので(特に経済関連の記事は酷い)新書一冊分の値段をひと月に払うことを考えると、ちょっと考えてしまうのだが、この連載は面白い。
メルマガ(ブロマガ?)の内容をどれだけ書いてスルーされるのかが微妙なところなので、要素だけ抽出するとこうなる。1.アカデミックな価値を持つエンターテイメントが求められていたこと。 これはダ・ヴィンチ・コードが大ヒットしたところから節目が変わり始めたという。新書ブームもきた。これは僕の考えの付け足しだが、たぶん皆どんどん時間に追われていて、「有意義な時間を過ごせない」ことへの恐怖が募ってきているからではないかと思う。
2.もしドラが出版された2009年はメガヒットが生まれやすい時代であった。これに対して岩崎夏海さんは3つ理由をあげていて、不況、インターネット、それから価値観の多様化がそれにあたる。不況によって確かなものしか買われなくなり、SNSが広がりはじめた時期なので口コミが盛んになり、価値観が広がりすぎて細分化しすぎた結果、再統一が行われはじめた時期だった。どれひとつとして確かな話ではないが、まあだからといってあり得ないと完全に否定してしまうほど荒唐無稽な話でもなく。まあ、あるかもな、ぐらいの内容だ。
3.アーカイブからの引用。これもまたダ・ヴィンチ・コードをお手本にしていて、アーカイブ(ダ・ヴィンチ・コードで言えば当然ダ・ヴィンチの作品であり、もしドラで言えば当然ドラッカーのマネジメントである)からの引用をあからさまにするということ。『「アーカイブを引用する」というものである。つまり、そのコンテンツの中に、先行する何かのコンテンツがそのまま出てくる――そういうコンテンツこそが、本質的な魅力あるコンテンツとして、多くの人の胸を打つと考えていたのだ。』*1
面倒くさくなってきたのでここから大雑把にまとめてしまうと、岩崎夏海さんはそうしたアーカイブからの引用、その知られざる側面を、意外なものと組み合わせる(ダ・ヴィンチ・コードで言えば殺人、もしドラなら野球部女子高生マネージャー)のが良いとダ・ヴィンチ・コードから分析してみせる。そういえば、マクロスの河森正治監督も「歌とロボット、異質なものを組み合わせることで掛け算の面白さが生まれる」とインタビューで語っていた。そういう意味で言えば、ドラッカーと女子高生は異質な物の掛け算といえるだろう。
また主人公を17歳の女子高生にしたのも、それが大人になりきるでもない、かといってロリコンや後ろめたさをあまり感じないちょうどいい年齢であり、顧客の多くが男性であることからきているという。なるほどよく考えているなあ。ちなみにここまで書いておいてなんですけど僕はもしドラ読んだことありません……。だから作品がどうったかという視点は皆無。ダ・ヴィンチ・コードは途中まで読んでつまらなくて読むのやめました。
で、ここまでが連載第六回、現時点での最新なのだ。ここまで読んで思ったのはどの要素をとっても「読まなくてもわかる」要素だということ。タイトルからドラッカーのマネジメントを引用した作品であることは明らかだし、タイトルに入った女子高生とさらに表紙に描かれた女の子で主人公が女子高生の女の子であることもわかる。
本は内容を楽しむためのものだが、だからこそ「買う前には内容がわからない」。自分が今からお金を払うものについて、僕らは常に情報が不足している状況にある。100万部売れた作品がイコール最高の作品ではないのはそういうことだ、と僕は思っている。100万部売れる作品は100万人に「買ってみよう。中身を確かめてみよう」と思わせただけの話だ。
だからこのもしドラがなぜ売れたのかの著者自身の分析を読んで思ったのは、「魅力的なパッケージ」が重要だよなというアタリマエのことで、ここから先気になるのは「パッケージングと内容の売上に対する重要度の比率はどんなもんだろうか」ということだ。現時点の連載では、パッケージング10割としか思えない(笑) 今後の連載で題材を野球にした理由や、内容の分析にまで入ってくるのかもしれないので、それを楽しみに待つ。
*1:メルマガより引用