基本読書

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島本和彦『熱血時代~アオイホノオからの30年~ (少年サンデーコミックス〔スペシャル〕)』

ぐああめちゃくちゃ面白かった。島本和彦ファンは必読。ファンじゃない人は……これを買うとハマってしまうだろう。

島本和彦デビュー30周年記念本? 30年間の歩みを、本人へのインタビューと各年代を代表する作品の印象的な一話と共に振り返っていくのだが、この構成が上手い。島本和彦という作家の30年の軌跡、これを読むと島本和彦作品における変わらない部分と、変化を起こしてきた部分が浮かび上がってはっきりする。スポーツからヒーロー、SFからガンダム、009に手塚治虫、さらには少女漫画とありとあらゆるジャンルを描いてきたその幅の広さはこうして並べて整理されると圧巻だ。

島本和彦がデビューした時の講評? のコメントを出している漫画家が赤塚不二夫楳図かずお松本零士藤子不二雄と大物すぎて驚く。島本和彦自身のコメントも「ストーリーまんがの中に、キラリと光るギャグのセンス、それがボクの持ち味です」と自分から言っていてデビュー時から凄い(笑)ギャグとはいってもデビュー時にいきなり自分の持ち味を堂々と書けるのは凄いなあ。

そしてまさに「ストーリーまんがの中に、キラリと光るギャグのセンス」が島本和彦漫画の核にあって、ずっと変わらない部分なんだから最初から自分の売り物を把握しているともいえる。もちろん共通しているのはそれだけではない……そのヒーロー物にもSFにもガンダムにも共通している部分こそが、僕が島本和彦作品が好きな理由なのだ。

具体的に挙げていこう。実験的なところ。この本に収録されているインタビューを読めばわかるが、コマ割り、演出、漫画手法、パロディまで含めてとにかく多くのことを実験してきたのが島本和彦だった。題材も、さっきこうして並べて整理されると圧巻だと書いたが、それでもまだ足りない(笑)。オンセンマンとかいうわけのわからない作品まで描いている。よくこれだけ一人の人間が描けるものだな、といった幅の広さなのだ。

どうしてこれだけ広い作品が書けるんだろう。根底にあるのはどんな作品にでも感動できる島本和彦さんの姿勢にあるのは間違いないように思う。感動というか、尊敬か。石森章太郎手塚治虫松本零士などの島本和彦先行作家は言わずもがな、現代の作品なら熱心に同人誌を描いているプリキュアまで幅広くハマり、貪欲に実験しようとする姿勢だろう(単に依頼されたものをバシバシ描いているだけといえるかもしれないが)

あとは抽象的な話だけど、島本作品のキャラクタの根底にあるものって「にんげんってダメな部分がある」っていう諦念なんじゃないかと思うんだよね。Gガンダムみたいな作品でもそうで。ダメな時はとことんダメなのだけど、ふとしたことをきっかけにとんでもない熱意を見せる。そうした振れ幅の大きさがシームレスに自然に描かれていて、ギャグになってもいる。

そのダメさととんでもない熱意って、逆のものだと思うんだけど、でもどっちも妙に「わかって」しまうのだ。ダメな部分には当然ながら共感する。僕も大概ダメ人間だから(笑)でもなんの根拠もないがそれが乗り越えられる、っていう部分が、ギャグ調であっても真面目調であってもなんだか勇気づけられるのだ。

そうした人間の肯定の仕方が好きなのかもしれない。たとえば燃えよペン第一話で、漫画家の先生である炎尾燃は大切な物を失った時の集中線を描くために俺の大切な物を破壊しろとアシスタントに頼むのだが、どれだけ壊してもこれだ! という集中線が出ない。最終的にかっちょいいバイクのγ50を燃やされるのだが、そこでアシスタントをぶん殴る(笑)

本の感想ではなく島本和彦語りになってしまっているけれど、あまり趣向からは外れていない。本書には島本和彦先生の30年が詰まっているのだから。いくらでも書けそうなのでここらで強引にまとめてしまうと、偉大な作家をまとめた偉大な一冊である。特にインタビューの分量が結構あって、島本せんせの漫画だけではわからない、漫画への真摯な思いが伝わってくる。

本当に、漫画を描くのが楽しい人なのだなあ。

そう、楽しかった。遊ぶ時間だけがなかった、ずっとマンガ漬けで。でもマンガ描くのが遊びだから。

熱血時代~アオイホノオからの30年~ (少年サンデーコミックススペシャル)

熱血時代~アオイホノオからの30年~ (少年サンデーコミックススペシャル)