基本読書

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The Smartest Kids in the World: And How They Got That Way by AmandaRipley

世界の教育を実際に自身の目と、生徒たちの目、それから先生への聞き込みによって生の情報を一覧する一冊。基本的に米国と他国(本書ではWorldといいながらポーランド、韓国、フィンランド+アメリカの四カ国しかみていないが)との比較考察によって米国がいかにダメか、どこを参考にすべきか、そして他国のどこがダメでどこが優れているのかといったことをみていく。これがけっこう面白い。考えてみれば僕も教育なんて日本とオーストラリアでしか受けていないわけで、その他の国の教育を意識したことがなかった。

日本の教育はおおよそ韓国の物と近い。というか、韓国がちょっと前の日本と瓜二つだ(今どうなのかはもう離れてしまったので知らない)。良い大学に入れば良い会社にはいれて、良い会社に入れば良い人生をおくることができる。だからみんな必死になって22時、テスト間際は24時近くまで勉強することになる。もちろんそんなこと公立の学校ではやらないから、ほとんどの学生は塾のようなものに入っている。

あー……自分の受験生時代を思い出すな。行きたくもない塾に強制的に入れられ、夜の22時まで勉強とか懐かしい(笑)ただしほとんどいかないで(自由意志で入れられているわけではないのだからいくはずがない)、デカイ本屋で延々と椅子に座って本を読み続けていたけど……。でもあの時が人生で一番つらかった。今仕事がまったく苦ではないのもあの頃の鬼畜的な塾生活があったからであろうとは思う(だからといって許容出来るものではない)。

本書で出てくるポーランド、韓国、フィンランドはどれもアメリカからの留学生の体験をおっていく形で語られていく。その中でもやっぱり韓国はひどいんだよね。留学生君が教室にいって授業を受ける(高校)時に一番最初に驚くのが、「先生がきてもなんの反応もしないでしゃべり続けているし、みんな授業が始まった瞬間に寝てる!!」ってこと。先生も特に注意しないし、「こいつら、なんなんだ!?」と留学生が驚いていて笑ってしまった。笑い事じゃない……。

ようは夜遅くまで勉強しているから精も根も尽き果てているのだろうというのだが、いやあどうだろうね。それだけが理由ではないと思うけれど……。もうとにかく韓国の異常な教育環境にたいして「ありえない!」「恐ろしい!」「持続不可能だよこんなの」と非難の嵐ではある。留学生君は結局「こんな国にいられるか!」と出て行ってしまうんだが、出て行った先の中国の大学で「ここに来る前は六ヶ月間韓国の高校にいたんだ」というと、「わお、本当に申し訳ない。韓国の高校になんて、誰一人行くべきではないんだ」と言われるなど散々な有り様だ。

一方で世界的な学力テストの結果(PISA⇒暗記を問うものではなく、学問を課題解決に活かす力の能力テスト)はやはり韓国は高い(2009年のもので読解2位、数学4位、科学6位)。またポーランドも教育改革が効果をなしたのか、このPISAランキングではアメリカを抜いている。フィンランドが教育大国であるのは有名で同ランキングで上位を占めている。韓国の教育はハムスターホイールと称されるが、そんなに大変な思いをしても学力ランキングではフィンランドと大差ないのだから悲しい(フィンランドは勉強時間も他国と比べて少ない。)。

フィンランドの教育環境ははたからみていると理想的にみえる。フィンランドでは教育は信頼関係の上に成り立っていて、先生の裁量(教え方など)が大きく、生徒の自由度も高い。親の余計なおせっかいもなく放任主義が当たり前で、過度な競争もない。テストはEssayが中心で、アメリカや日本で行われるような当たり前の選択式テストは「小学生の頃限定のテストだ」とフィンランド人からの印象になる。

自由にされている代わりにテストでは簡単に落とされるし、失敗は全部自分の責任だ。フィンランドの子どもは自分たちの時間を自分たちでマネジメントする必要に駆られる(日本は……いや、言うまい)。イギリスの労働党のトップなどは、もしアメリカンドリームを掴みたかったらフィンランドに行くんだ、とまで言っている。他のどんな国と比べても、フィンランドは貧乏な人間が豊かな教育を受けることができるから。

本書の特徴は先生たちの環境まで含めて観察している点で、たとえばアメリカでは先生になるためには多くの規格化された、教えることにはほとんど関係のない勉強、テストを経ていかなければいけないのに対してフィンランドはそうした教育トレーニングプログラムはほとんどすべて選択式である、といったように。

面白いのが、どこの国も(フィンランドでさえも)みんな自分たちの国の教育に満足していないということだ。韓国なんかは言うまでもない気がするが、世界でもっとも教育環境がよさそうなフィンランドでさえもそうなのだ。テストの前はやっぱり勉強するし(なぜかフィンランドではテストがないというまとめサイトをみたが、何かの勘違いだろう)そのせいで生徒たちは韓国や日本と違うものの、強いプレッシャーを受ける。

大学の入学テストは六時間にも及ぶ長いもので、いくつもあるテーマの中からひとつ選んで長いエッセイを書かなければならない。トイレにも先生が同行して不正行為をしていないかチェックする。けっこう厳しいのだ。

ポーランドは教育改革がすごい勢いで進展し、そのおかげで学力がこれまたすごい勢いで上昇した国だが、そのあまりに急激な変化は先生や生徒たちを振り落とすような勢いで進行したせいで未だに評判が悪い。生徒の両親の多くは農家であり、大学にいってまでべんきょうしてほしくないという家庭の事情もあってなかなか厳しい物がある。一方数学の授業では基本的に電卓を使わないでみな暗算をするなどのルールのおかげで、めざましい数学力がついている。

しかしひとついえるのは急激な成長を遂げた(子どもは悲惨だが)韓国、教育改革によって同じく成長を遂げたポーランド、自由と相互信頼を貴重に教育システムを作り上げたフィンランドと、それぞれのやり方で教育効果を「動的に変化させることができる」ということだろう。フィンランドでさえも1970年代の教育改革以前の状況はアメリカと似たりよったりだったのだ。

成績はよくても悲惨だったり、あるいは理想的だったり、改革が成功したのはいいものの実体的にはなかなか追い付いていなかったりといろいろある世界の教育環境だが、参考になるところの多い洞察に満ちていた一冊だった。200ページぐらいだしね。たいへん読みやすかった。

The Smartest Kids in the World: And How They Got That Way

The Smartest Kids in the World: And How They Got That Way