基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

思考都市 坂口恭平 Drawings 1999-2012 by 坂口恭平

ゼロ円ハウスや突然失業してもこれさえ持っていれば生きていける!!──『ゼロから始める都市型狩猟採集生活/坂口恭平』 - 基本読書独立国家のつくり方 - 基本読書でその普通とはまったく異なる世界への視点を提供してきた坂口恭平さんですが、この『思考都市 坂口恭平 Drawings 1999-2012』はまさにその異常な視点の源泉たる脳みそが何を考えているのかを明らかにしている一冊だと思います。端的にいって素晴らしい一冊だし、坂口さんという人の今までやってきたばらばらな経験がこの本に結実している。

ゼロ円ハウスも都市型狩猟採集生活も独立国家も、その根っこにあるのは、現実には幾通り物見方があるということで、その表現形式が都市型狩猟採集生活になったり、独立国家という発想になっていっただけだった。ようは「現実を異なるレイヤーで観ること」、たとえばホームレス視点で都市を眺めれば、無料で金になったりゴミとして捨てられているものでもつかいでのある恵みの都市になる。

本書で言えば、団地に住んでいた坂口さんと7歳下の弟は野球がしたかったけれど二人では出来なかった。なので、住んでいたアパートを野球場に見立てることにした。アパートの側面でピッチャーとバッターにわかれ、アパートの一階部分に球があたれば一塁打、二階なら二塁、三回なら三塁だ。壁に跳ね返ってそれをとったらアウトになる。ようは考え方次第でつまらないただの駐車場も野球場に早変わりするということ。

その視点を都市に向けたら出てくる本は都市型狩猟採集生活、政治に向けたら独立国家、家に向ければゼロ円ハウス、ということになる。なるほど、たしかにそうだ、と思うことしかり。かなりホームレスに入れ込んで取材しているのも坂口さんの仕事の特徴で、家や都市の恵みといった観点もホームレスから着ているのですね。

本作はそうしたすべてを統合したような一冊で、そう考える理由は著者が自分でそういっているというのもあるけれど、まさにドローイングを片っ端から見ていくことで「著者の頭のなかで何が起こっているのか」が、文章で読むよりもダイレクトに伝わってくるからなのですね。本書にはゼロ円ハウスの絵もある、ホームレス達のスケッチもある。ホームレスたちの家の詳細なスケッチもある。先ほど例に出した子供時代の「アパートの駐車場を野球場に見立てた」絵もあります。

そうした絵のひとつひとつが、「現実の世界を視点を変えてみる」ことの表現になっている。そして見て驚いたのですが、これが、言葉で読んだ時よりもすっと理解できるのです。ああ、なるほど。この人はこういうふうに世界をみていたのか。視点を変えて世界をみるってのは、こういうことだったのかと。だからこそ本作を「すべてを統合したような一冊」といいたい。坂口さんはこの絵のような精神世界を言葉にして今までの著作を書いていたのだと、突然わかるんです。

観て、記憶して、いったん頭のなかに保存したものを「一枚の絵として」表現してみせるそのスゴさ。芸術的というのともまた違う。記憶、思考したことを文字媒体で表現しようと思ったらリニア式に一個一個地道に情報を流し込んでいくしかないが、それを絵として表現するとこうなるのか、と純粋な驚きがある。一時期マインドマップとかが流行りましたけど、あれを絵の表現としてやるとこうなるのかな、て感じ。

僕にとってドローイングはとても大きな意味を持っている。というか、僕の仕事は全てドローイングのようなものだと考えている。鉛筆やペンでただの白い紙に痕跡を残す。これをずっとやってきた。僕がやっている表現方法は、執筆、音楽、美術、トークなどで、完全に分裂症とも言えるが、それら全てがドローイングなのではないかと思い始めている。(中略)固めず、かつ抽象的にならず、他者に迎合するのではなく、見たこともないような幼少の時からぼんやりと構想していたことを伝えたい。この統合することが不可能な感覚は、僕に三次元でなく4次元の空間を思い起こさせるのだが、そんなもの伝えられるわけがない。 ところが、ドローイングを描くと、ふっとその切片が見えるような気がするのだ。

本書の内容に関しては、「こういうドローイングがあります」という単純なまとめ方ができる素材ではないのですね。先程も書いたように、絵はいっぱいあります。犬の絵があったかとおもえば、モバイルハウスの絵があり、ホームレスとその家を事細やかに書いていった絵があるかと思えば実測図もある。それにちょこちょこと絵の説明書きが。しかし何より僕がびっくりしたのは「立体読書」の項目。

坂口さんは小説を読んで読書中に体験した空間のドローイングであると立体読書について説明していますが、一冊の本の中身が一枚の絵に凝縮されていて、そのいたるところに文字で注釈がついていて、もうなんかこれは書評でも要約でもレビューでもない、まったく新たな創造じゃないか、と思ってびっくりしたのだった。

絵を見せれば一発で僕が何をそんなに凄い凄い言っているのか一瞬で伝わるのだけど……言葉の無力さというか、適材適所というか、そんなものを感じてしまう。ただひとついえるのは、この本は価値のある一冊だということ。ええ、読んだらずいぶん、驚くと思いますよ。

思考都市 坂口恭平 Drawings 1999-2012

思考都市 坂口恭平 Drawings 1999-2012