基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ルールを変える思考法 (角川EPUB選書) by 川上量生

著者である川上量生氏のブログが大好きだ。はてなポイント3万を使い切るまで死なない日記 と 続・はてなポイント3万を使い切るまで死なない日記 ここ最近はあまり更新されていないみたい。でも更新されればどの記事も面白く、しかも幅が広い。経営について語れば「経営者のような輩が語る内容はすべて嘘だと思って読もう」と思いつつも理屈はわかりやすく、納得させられてしまう。ゲームについて語ればまるで自分が体験したかのように面白い。その上短編小説まである(しかも出来がいい)。

特にかわんご回顧録 ドワクエ戦記シリーズ(かわんご回顧録 ドワクエ戦記その1 - はてなポイント3万を使い切るまで死なない日記)は一番のお気に入りで、金を持った大人達が本気でゲームをやるとこうなるのか、というのをまざまざと見せつけてくれた。フィクションを地で行ってる大人たちだ。さあ、とくれば本書も面白くてしかたがないかといえば、ブログほど面白くはない。というか、ブログとかインタビューをほぼ全部読んでいると思うので初めて読んだなあという話がほぼないせいかもしれない。

やっぱり本になってるからか、内容が硬いし、真面目だ。ゲーマーとしての経歴とビジネスで考えていることを抱き合わせで読んでもらうというコンセプトらしいが、コンセプトに沿って話が進んでいくばっかりに面白い実の部分が削ぎ落とされてしまっていたりする。そもそもゲーマーに経営者は無理だという前提があるので最初っから最後まで無理がある。なんでこんなコンセプトで押し切ってしまったのか。

もちろん自身の経営判断を例に理屈をとって説明していく過程はいちいち納得できる。自分自身もしくはごく少数の成功体験をさも普遍的法則のように語るビジネス書のくくりに入る本としてはやはり例外的に面白いんだけど(つまらなかったらここで紹介しない)。

常に後ろ向きというか、経営上の困難についてだったり、そもそも経営者になってしまったことだったり、自分のやってきたことについて疑問を持っている感覚がわりといい。「ニコニコ動画も、もう売ってしまおうかな」と悩んだ話とか。一つの巨大なプラットフォームになっているのだから、それを手放すなんてギャグでもいっているのかと読んでいて思ったが、運営中に「こんなサービスはいらないんじゃないか」という疑問が出てきたのが理由だという。

1つめの疑問はニコニコの無料コンテンツが、日本のコンテンツ産業を破壊するのではないかということ。もう1つは「ニコニコ動画にはまりすぎる人間がたくさん生まれることで、日本という國の国力を損なってしまうのではないか」という疑問。「でかい疑問だなあ」と思いつつもニコニコ動画ぐらい規模がでかくなるとそうした悩みも現実的なものになってくるということか。

でもそもそもワールドオブウォークラフトに費やされた人類の時間は593万時間を超えているという話も幸せな未来は「ゲーム」が創る - 基本読書 あるし、ニコニコ動画がなかったら別の中毒性のあるものについて時間が湯水のように費やされていくだけではないかという気がする。ワールドオブウォークラフトに費やすのとニコニコ動画に費やすのとどちらが有意義かなんて、考える道筋がない。

実際にこれに対して氏が悩んでいたのか、それとも100%演出なのかはたまた70%演出なのかといったことは別にどうでもいい(確かめるすべがないから)。でも川上氏かどうかにも限らず、実際に自分の判断のひとつひとつが大勢に影響を与える立場になれば、自然とネガティブな要因について考えるものだと思うんだよねえ。経営者なんて心労多くしてある地点で一生困らないほどの金を稼いでしまえば、あとは慈善事業みたいなもんでしょう? しかも妬みや恨みは人一倍うけるようになるしさ。

日本だと金持ちはなぜか庶民から金を搾取しているやつら、常に優遇されている勝ち組、みたいな妬みが入ったるするけど、金持ちの方が税金はいっぱい払ってるわ、寄付はしなけりゃイメージが悪くなるわ、金持ちが人を雇えば職が生まれるわで貧乏人より金持ちのほうがよほど社会には貢献してるはずなのに不思議だ。お金なんて所詮価値の単位でしかないからあんまり金持ちだとか貧乏だとかにこだわってもしょうがないけどね。

でもだからこそいろいろネガティブな感情も持っているはずなのだけど、なぜかそうした面はあまり表に出てこない(だが僕が見てないだけの可能性は高い)。そうしたネガティブ方面な嘆き、経営者になんかならずに初期のウルティマオンラインをずっとやっていればよかったかもしれないといまだに後悔する、みたいなのがリアリティを持って感じられるのだ。

だがニコニコ動画というプラットフォームは、これが日本にない状態が想像もできないぐらい巨大な存在になっていると思う。あれだけたくさんのの無料コンテンツが生まれ、生放送という文化が根付き(良かれ悪しかれ)、今またブロマガという形で文章の日本に「静的なパッケージとしての文章(本)」ではなく「更新や変化を続けていくコンテンツとしての文章」に対して課金の道をつけようとしている。

もちろん一人きりで全てを発案してきたわけではないにせよ、「常に新しい文化の道筋を生み出してきた」といえるのではないか。その創造性には頭がさがる。というか経営者相手にこんなことをいうのは随分危うくて嫌なのだけど、そのやり口と実行力、そして何より博打を打って毎度次の博打を打つように回収していく継続力を率直に尊敬している。

そうした試行錯誤がどういう理屈の上に成り立って出てきたのか、一個一個の事業判断がどういう前提の元行われているのかをいちいち理屈付けて説明してもらえる機会ってそう多くはない。もちろん本書だって、その時握っていた情報をすべて明かすわけでもなければ、本当のことを言っている保証も何一つないわけだけれども、少なくとも読んでいる限りではリアリティがあるというのが重要なのだ。