- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2015/11/28
- メディア: 新書
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森博嗣さんは継続的に本を出し続け、近年はアニメ化、ドラマ化が続く「売れている」方の作家であることから、「自慢の本か」「作家全体ががっぽがっぽ儲かる職業だと思われる」なんていう非難があるのではないかと推測するが、あくまでも「収支」の話である。原稿料がいくらで、印税率がいくらで、解説を引き受けたらいくらで、ドラマ化された時の著作権使用料がいくらで、映像化された時に増えた部数がいくらか──といったことを実体験を例にあげているだけだ。
金の話をするのは恥ずかしいことでも何でもないというか、それがなければ人生設計も環境設計も、それどころか「目標にするかどうか」すらわからないはずだ。それを専業にしろ兼業にしろ仕事にしようとするのであればなおさらの話である。『どちらかといえば、格好の良いことではない。黙っている方が文化的にも美しいだろう、と理解している。ただ、誰も書かないのならば、知りたい人のために語るのは、職業作家としての「仕事」だと思った。「使命」と書かないのは、正直だからである。』
「どうだ凄いだろう」と言っているわけでもなければ、「作家ってのは儲かって儲かってマジで困るわ」と言っているわけではない(条件良く儲かる(自分は)とは言っているが)。ただ、基本的には狭い出版業界とはいえどこもかしこもが同じ慣習や伝統やシステムに則ってやっているわけではないので、ここに書かれていることが全てだと思わないことは注意しておくべきだろう。たとえば『小説雑誌などでは、原稿用紙1枚に対して、4000円〜6000円の原稿料が支払われる。』という記述なども、この範囲に収まらない金額(下も上も)が存在することが推定される。
前提と注意事項
前提になっているのは、著者本人の状況でもある「100万部を超えるミリオンセラーがなくても、そこそこ本が売れれば条件のいい商売としてやっていける」という様々な情報にある。その流れで様々な儲け方があることが紹介されていくわけであるが、圧倒的執筆速度(とクォリティ)を継続的に発揮できる超人の話である。たとえば『6000文字というのは、原稿用紙にして約20枚なので、1枚5000円の原稿料だと、この執筆労働は、時給10万円になる。』との記述をみて「作家は凄い儲かるんだな! やったー!!」と思うのは勝手だが自分の実力は冷静に捉えたほうがいい。
面白さ
本書の面白さは、収支一点に絞った為に、「意外と作家ってのは儲ける手段がたくさんあるんだな」というところがわかるところだろう。もちろん小さなレーベルで編集者一人に切るか切られるかみたいなギリギリにいる作家には夢のまた夢のような儲け方(ドラマアニメ化、スポンサー付き小説、パチンコ化)が多いが、現代においては正直、出版社に投稿をして──というだけの時代でもなくなっていることを考えると、とりえる手段は意外とたくさんあることに気がつく効用は大きい。
コンスタントに、ターゲットを絞って書き続けられるのであれば、やりようはいくらでもある。それはたとえば既にプロであっても同じで、自分のサイトで配信すれば印税率100パーセントなので紙の本(印税率10%)と比較して10分の1の売上でも同じ利益が見込める。小説はそうやってサイトで配信して、作業風景や状況などを配信するメルマガ会員制のモデルなども考えられるだろう。
「編集者の仕事を軽視しているのか」と思うかもしれないが、何も編集者を抜かせといっているわけではなく、作家☓編集者☓デザイナ☓広報担当ぐらいの4人チームで出してもいいわけである。やり方なんかいくらでもあるのだ、という端的な事実が、作家の収支の広い部分を見渡すことが見えてくるのではないかと思う。本書にはそのあたりの「これからの出版」を語った章もあり、これがなかなか面白い。
まあ、でも「コンスタントに」書き続けるってことが、実際はいろいろと難しいんだろうなと思う。そんなに執筆速度が出ない(1年に1冊分がやっととか)の人と、1年に4冊ぐらいは出せる人だと、その差がそのまま収入の差に直結してしまう。さらに出し続けることのメリットは過去の作品(シリーズだとなおさら。これも直接的な続き物だと厳しいが)がまた売上を伸ばすことになるのでなおさらだ。
さて、それ以外の話でいえば──細かい部分で面白い話はいくらでもあって、たとえばコカコーラから依頼を受けて書いた小説の、印税とはまた別の契約料が凄い金額だったとか、そのへんは読んで確かめてもらいたい。
最近は村上春樹さんも『職業としての小説家』(金の話ではなくほとんどは技術的な部分の話だが)なんかを出していたりする。内容が重複する部分もあるが、作家業について別側面から書いたものとしては『小説家という職業』もどうぞ
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