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「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)

これはコンセプトが明快でシンプルな構成の本なのであまり紹介するようなところはないのだが、面白かったのでちょっとだけ。ようは、「この世には本が大量にあって全部なんか読んでらんないんだから、まずは読まなくてもいい本を知っておいたほうがいいんじゃない」といっているわけだ。そりゃもちろん読まなくてもいい本を知っているならばそれに越したことはない。

しかしなかなか難しいというか、当てはまらないものがある事に気がつくだろう。「ドストエフスキーはもう古いから読まなくてもいいよね」とは、基本的にはならないし。だから、本書で取り上げられるのは基本的にノンフィクション分野である。それも具体的に「これとこれは読まなくてもいいよ」と何百冊もあげたりするわけでもない。じゃあどうすればいいのかといえば、複雑系、進化論、ゲーム理論、脳科学、功利主義と大きく5つの分野に絞って「かつてこういう説があったけど、今は否定されていたり変化してこうなっているよ」というざっくりとした変化を追うのである。

たとえば、宇宙論について「ビッグバン以前」と「ビッグバン以後」があるとしたら、前者に関しては概ねぶった切ってしまってもええんじゃなかろうかと。ソーカル事件からはじまった『知の欺瞞』騒動など、当時の熱狂と混乱を思うと楽しくはあるが、それを一から丹念にひもといていくよりかは要約し、論点を整理し、後世につなげてくれている本があるんだったらそっちを読めばいいよねという話である。

だから本書には「読まなくてもいい本」ではなく「パラダイム変換の過程」が載せられており、同時に「読んでおいたほうがいいのではブックリスト」がついているので、実際の書名は『「これさえ読んでおけば現代ではそれなりに知ったかできる本」の読書案内』ではといった感はある。

もちろん、そうしてすっ飛ばされた部分を前提として、それに対する批判や別の仮説として現代の理論も成り立っているわけであって、「すっ飛ばして何の影響もない」わけでもない。今となってはまったく状況を正確に表していない過去の哲学書などが読んでいてわりと面白かったり、過去の人間が手持ちの情報を元にロジックを組み立てていく様などが読んでいて勉強になったりすることもある。だが、まあ、みんな学者でもないし、そんなに暇じゃないよな、というのが本書の前提なのである。

僕は複雑系はよくわからんけど進化論、ゲーム理論、脳科学あたりは頻繁に一般向けノンフィクションを読んでいるから、ここで挙げられている本もだいたいは「そうだなあ」と納得できるラインナップだった。なのでたぶん複雑系と功利主義もそれなりだろう。「読まなくてもいい本」を知ろうと思って買ったら「その分野を知るためには読んでおいたほうがいい本」を大量に知る羽目になったという罠本であるが。