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話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!──『人類史上最強 ナノ兵器:その誕生から未来まで』

人類史上最強 ナノ兵器:その誕生から未来まで

人類史上最強 ナノ兵器:その誕生から未来まで

『人類は今世紀中に滅亡するかもしれない。そのとき、私たち全員を死に至らしめるものは、おそらく〈ナノ兵器〉と呼ばれる軍事兵器だ。』という衝撃的な一文で幕を開ける本書はそのまんま、ナノ兵器について書かれた一冊である。ナノ兵器とはいったいなにで、何ができて、仮に戦争に用いられた時我々はどう対処すればよいのか。

なんとも微妙な点も多いのだけど、著者はもともとIBMやハネウェル社で超小型伝技術の研究開発リーダとして働いていた人で、知見としてはおもしろい部分が多い。なんとも微妙な点について先に明かしておくと、第一に、ナノテクは仮に各国が開発していたとしても未だ公になっておらず、本書で危険性を煽る技術の大半はまだ推測の域を出ないものであること。また、著者がシンギュラリティ(技術的特異点)やムーアの法則を信じ切っていてその前提で書かれている部分が多々あることなどである。

ムーアの法則は別に絶対不変の法則でもなんでもなく、シンギュラリティに至ってはろくな根拠がない空想的な仮説であり、そこを前提としてしまうと全体的にひどく薄ぼんやりした内容になってしまう。が、それはそれとしてナノテクノロジーは現実に存在する技術であり、その辺の解説と、(シンギュラリティを抜きにした時に)将来的にどの程度のことができるのかなどは普通におもしろい。実際に、ナノ兵器関連の技術レベルが上がっていけば人類を滅亡させかねない驚異は秘めているのだから。

今なにができて、これから先なにができるようになるのか

たとえば現在すでに、掌に収まってしまう小型のドローンは市販されているが、それをさらに小さく──現実に存在する飛翔昆虫であるホソハネコバチの139マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)程度まで小さくすることができたとしよう。それに致死量がたった100ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)のボツリヌス菌を搭載できると考えると、1000ナノグラム。つまり視認することさえも難しい大きさのナノロボット一体で理論上は10人殺すことができる。

証拠もほぼ残らず、殺したロボットは小さすぎて捕まらないのだから、仮にそれで死んだとしても恐らく殺人とは判断されないだろう。そのうえこれの重要なところは恐ろしく小さいところで、トランクひとつで何十、何百億といった致死性の高いナノロボットを持ち運びでき、都市一つを壊滅させることができるので、力のない国家やテロ組織の利用が容易で、世界に新しいパワーバランス・危機がもたらされかねない。

一方で、平和的な利用方法の希望も大きい。おおむね大きさが100nm以下の物質を指す、生体分子とほぼ同じ大きさのナノマテリアルと生体分子をくっつけて、病巣細胞内に薬物を運ぶ”スマートドラッグ”。遠隔操作が可能なナノサイズの探針、抗がん剤を運んで体内のがん細胞を狙い撃ちにするナノ抗がん剤などの開発が進んでいる。また、これは兵器に使われているので軍事利用になるが、ナノセンサー(兵士の健康状態、ガスの毒性検査など周辺のリアルタイム状況分析)の開発や、潜水艦の腐食を食い止めるナノコーティングによる素材の強化など”攻撃”以外の用途も幅広い。

まだ実用段階にはないが論文は出ているといった応用例も幅広い。薄くて軽量なナノマテリアル複合材を用いた防弾ベストや、防弾ベストに埋め込まれたセンサーの反応に応じて性質を変化させるナノマテリアル(衝撃や熱を検知してそれに応じて硬化し、負傷時には救急措置まで行う)の可能性も探られている。ナノ兵器関連の研究成果は機密扱いでめったに表に出てこないのだが、医療分野の論文から”今なにができるのか”がわかることも多く、たとえば『生体内のDNA折り紙ロボットによるユニバーサルコンピューティング』と題された論文によれば、生体内でダイナミックに相互作用する能力を持ったナノサイズのロボットを組み立てることができるという。

論文はその後、相互作用は論理出力回路を構成し、その出力状態によって分子の機能部分のオン/オフを切り替えることができると続くが、これが可能であればプログラムによってお互いに相互作用する群れをつくり、何らかの”目的”──何者かに被害を与えると言ったこともできることになる。医療分野(生体内)で出来て、兵器に応用できないという理屈はまあ、存在しないだろう。

おわりに

と言った感じで現実に存在する・あるいは今後10年〜20年で実現しそうなナノ兵器関連の技術を紹介しながら、”我々はこれがもたらすであろう破滅的な事態に、どう対処すればいいのだろうか”と話は続いていくのだけれども、そこは是非読んで確かめてもらいたいところだ。最初にも少し書いたように、実際には致命的なナノウェポンは現実には(少なくとも表向きには)現れていないわけで、空想じみていたり根拠に欠ける部分も多いのだけれどもそれはそれ。SFのネタ帳としてもいいだろう。