- 作者: ウゴパガロ,Ugo Pagallo,新保史生,松尾剛行,工藤郁子,赤坂亮太
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2018/01/30
- メディア: 単行本
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本書の目的は法的に1つの正しい答えというものが手の届くところにあるのか、法制度が代替的解決を受け入れ可能か、または政治的決定が行われる必要があるかを決定することである。典型的な実例は軍事ロボット分野における自律的および準自律的兵器の区別、また、殺傷力の高い兵器を完全自動化することが許されるべきかの目下の論争において示される。
イタリアの法学部で法律学の教授をつとめるパガロ氏の論文をまとめたもので、話題としては一般向けであっても読みやすさといったものは(あまり)考慮されていない。気軽な気持ちで読み始めるのはあんまりオススメしないが(まあそもそも気楽に買える値段ではないけれども)、行為者性、答責性、法的責任、立証責任、責任、などなど無数の観点からロボット法の体系的をきっちり抑えていく(と少なくとも素人目からは見える)内容で、この分野に関心のある人はまず読んでおくといいだろう。
ざっくり全体を概観していく。
どの章も込み入った議論・歴史的経緯の説明が行われていくのでこの記事では深くは立ち入らずざっくりと全体を概観していくと、第一章では全章のイントロダクションが語られ、第二章「法、哲学、技術」ではロボットが引き起こす問題に対する責任を誰が負うかといった根源的な課題を問い、後の章に繋がる論点・法則を明確にする。
続く第三章「犯罪」では、ロボットを不当に傷つけた人に対する新しい犯罪類型、またロボット自体の犯罪行為に対する、新しい課題事項について検討を重ねていく。たとえば、ロボットの犯罪行為について、裁判で刑事責任を負う可能性がある者としては次のような3種類が想定される。1.犯罪を意図して設計・実装した場合、もしくは過失の場合はプログラマ。2.当該ロボットの製造者。3.利用者。たとえば命令を与えることのできるタイプの車でそこら辺の人間を轢き殺せと命令するなど。
だが自立性を増す現代のロボットにおいては、設計意図や操作者の犯罪意図がなくとも刑事責任が発生してしまう状況が想像できる。その場合、機械が与えられたパラメータの中で適切な行動をしたのか、設計段階からして課題が起こりえる状態だったのかを決定する必要が出てくるが──、といった感じで、高度化するロボットの自律性が法の基本原理に対して与える影響についての考えを進めていく。
イントロダクションにおいて強調したように、ロボットの設計者、製造者、利用者の責任は、機械を(ⅰ)法的人格、(ⅱ)適格な行為者、(ⅲ)制度内の他の行為主体の責任発生源のいずれとして理解すべきなのかという疑問を呼び起こす。こうした区別により、今日において法律家がロシアのヤギを起訴しない理由が明確になる。しかしそれでもなお、ロボットが「法的義務への感受性」を持ち、さらには「刑罰に対する感受性」さえ備えるのかは未解決の問題である。
第四章「契約」では、自動トレードなど、現実問題としてロボット/AIが人間の代理者として振る舞うことのできる状態を想定し、単なる道具としてのロボットと、法制度における厳密な行為者としてのロボットとを区別するにはどうしたらいいのか、といったことを外科手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」やロボ・トレーダーの事例とあわせてみていく。オークションで申し出を受け、見積もりを要求し、交渉し、契約を履行するといったレベルまでの行動が可能なロボット/AIの「人工的な行為者性」の立ち位置は、契約法として新たに規定する必要があるのではないかという話である。
第五章「不法行為」では第三章と関連して、契約上の相手以外の第三者に被害を与えた場合について焦点を当てる。たとえば学習しカスタマイズされていくロボットの不法行為に対する責任は設計者、製造者、利用者の誰が負うべきなのかについて、既存の法律的な解釈を参照しながら(自分の子どもの行為を防ぐことができなかったことを証明できるときには、両親は責任を回避するという法制度を持つ国もある)、考えられる法制度の類型を洗い出していき、新しい厳格責任政策、保険モデル、認証システムなどを用いた立証責任の分配メカニズムの検討まで含め展開していく。
第六章「メタ技術としての法」では、自律的なロボットに法制度は人格を付与すべきなのか、付与すべきとしてどの地点にその基準を設定するのかといった問題を検討し、終章ではロボット法分野の歴史の要約と、著者自身の立場の表明することで本書全体の要約にもなっている(戦場におけるロボット兵器の規制こそが最優先で、第二にロボットと人の新たな責任政策が検討されなければならない、とするなどなど)。
おわりに
僕がこの分野に明るくないこともあって(答責性とかはじめて聞いたわ)若干意図が読み切れていない・概念上の厳密な区別がついていないところも多々あるのだが、それはそれとして222ページの中に多様な論点と歴史がぎゅっと詰まった一冊である。
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