基本読書

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失われつつある世界をとらえるために──『世界の書店を旅する』

世界の書店を旅する

世界の書店を旅する

世界中から本屋が消えている。無論、日本からも消えていて、自分が昔住んでいた街にたまに戻っても、自分が通っていた書店の大半はもう存在していない。こうなることはもう何十年も前からわかっていたことで、僕も10年以上前に書店でアルバイトをしていたけれど、それは本が好きだったのと同時に「あと20年もしたら書店なんてなくなってしまうだろうからなあ」と当時すでに郷愁にかられていたからだった。

というわけで本書『世界の書店を旅する』は、スペインのバルセロナに住む著者ホルヘ・カリオンがヨーロッパからアジア、中南米に北米など様々な場所を旅し、書店をめぐってきた記録である。書店重視のドキュメンタリーというよりかは、いろんな旅の途中で書店に寄り、その時の体験談であったり感じたことがエッセイ的に綴られていく一冊で、書店だけでなく旅行記も好きな僕としてはそのへんの(旅の中の一要素として書店がある)、バランス感覚が好ましく感じられた。あと文章がとてもよく、古書店のあの独特の臭いが沸き立ってくるような臭いを感じさせるのだ。

 言い換えれば、いままさに、本書はひとつの異なる場所を出て、別の場所へ入っていこうとしている。そこでは必然的に、方向や意味が変化をこうむる。本書はそんなふうに作用するだろう。秩序だった読書の快適さと同時に、心を乱し、平穏さを脅かす脱線と矛盾が受け入れられるだろう。可能な伝統を再創造しながらも、ここで語られるのは実例、不在と忘却でできていて再構築することのかなわない書店の地図と年代記における例外のみであることがつねに念頭に置かれるだろう。本書が提示するのは一連のアナロジーと提喩、ある歴史、またはけっして書かれることのない百科事典からかき集めた、きらめく破片や残滓の集積である。

書店、と一言でいってもその切り口は無数にある。たとえば「世界最古の書店」の章では、現在まで存続している書店のうち最古のものはどれか、と問いかける。ケンブリッジのトリニティ通りの書店では1581年から本が売られていたと言うが、当初はケンブリッジ大学出版局の拠点で一般の読者には売っていなかった。きちんと記録が残っているもののなかでは、1700年頃に開業した、パリのドラマン書店が世界最古の書店といえそうだが、これも途切れなく営業が続いていたかと言うと微妙らしい。

こんな本を書くぐらいだから当然かもしれないが、著者もまた無類の本好きであり、本書では数多くの本からの引用がみられる。世界最古の書店の章(15ページほど)ひとつとっても、スヴェン・ダール『書物の歴史』、ヘンリー・ペトロスキー『本棚の歴史』、ゲーテ『イタリア紀行』、ロレンス・スターン『センチメンタル・ジャーニー』、リチャード・セネット『クラフツマン』、ロマーノ・モントローニ『魂を売る──書店員のしごと』など無数の書籍から言葉をひき、書店というものの現象それ自体を捉えようとしている。書店についての本であると同時に、書店についての本についての本、書店についての歴史、書店にまつわる本についての本でもあるのだ。

おわりに

著者は世界中に行っていて、その中には日本もあるのだけれども、記述自体はとても少ないのはちょっと残念なところだ。中国や日本の主要都市に赴いた時の感想で、『率直にいって、完璧に秩序立った大型書店には理解できない文字に跳ね返されるような気がして、あまり興味を引かれなかった。』というから、その点は(日本の主要都市で目につく書店に入ったら)しょうがないかな、という気はするけれども。