基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

男性が孤独に陥りがちな理由について──『男はなぜ孤独死するのか 男たちの成功の代償』

この『男はなぜ孤独死するのか』は主に男性の孤独に焦点をあて、なぜ男性は孤独に陥りがちなのか。そして、(本人が望まぬ)孤独をどう解消すればよいのかについて書かれた一冊である。「孤独死」というと日本では一般的に「一人暮らしの人が誰にも看取られずに死ぬこと」を指すが、本書の原題は『Lonely at the Top』で、あくまでも孤独それ自体がテーマであり、孤独死がテーマになっているわけではない。孤独死が良い/悪いという話はないし、家で一人で死ぬことに関する言及もない。

なぜ「男性の孤独」に注目する必要があるのか

さて、ではなぜ「男性の孤独」に注目する必要があるのか。孤独に陥るのは何も男性だけの特権ではないのだから、女性も男性もひっくるめて論じればいいではないかと思うかもしれないが、これにはいくつかの理由が存在している。たとえば日本の2022年の自殺者数は総数2万1881人だが、男性が1万4756人で実に67.4%を占める。

男性は女性の2倍以上死んでいるのだ。状況はアメリカでもかわらず、2022年のアメリカの自殺者数は1941年の調査開始から過去最多の4.9万人となり、特に近年は年々上昇している。男性は10万人あたり23.1人自殺していて、女性の5.9人と比べると4倍近い数字であり、75歳以上の男性の自殺者数は10万人あたり43.7人だ。

これは世界的な傾向で、ようは高齢男性は自殺しやすいのである。でも自殺は孤独って関係があるの? と疑問に思うが、本書では様々な論文を引用しながら孤独が自殺行動の強い予測因子であったりがんや心臓病のリスクを高めることを示している。

最近のメタ分析(複数の研究結果を統合した分析)では、孤独と一般的な死亡との予測関係が非常に明確になっている。(……)「30万8849人を平均7・5年間追跡調査したデータによると、社会的な人間関係が十分な人は、不十分または乏しい人に比べて生存の可能性が50%高いことが示された。この効果の高さは禁煙に匹敵し、死亡率に関わる、多くのよく知られた危険因子(肥満、運動不足など)を上回っている」。*1

下記は昨年の日本の記事だが、「東京いのちの電話」の事務局長によれば、男性からは孤独や孤立の問題についての相談が多いと語られている。
www.jiji.com
孤独と自殺(自殺にまでは至らなくても、その前段階での苦しみ)にある程度の関連があるとして、なぜ男性に孤独がよくみられるのか──というのが、本書で主に語られていくテーマのひとつである。

なぜ男性は孤独に陥りがちなのか?

男性も全年齢帯で孤独なわけではない。「自分は幼稚園・保育園の頃から友達なんていなかった」という人だっているだろうが、幼少期は比較的友人が作りやすいものだ。幼稚園ぐらいの時は公園にいったら見知らぬ子どもたちと一緒に遊び始められたし、学生になってからは嫌でも毎日クラスメイトらと顔を合わせることになる。

しかし、学生時代が終わり定期的に会う関係がなくなる──成人期に移行する──と、友人というのはそう簡単にできるものではなくなる。さらに昔の友人関係もメンテナンスを失うとあっというまに消えてしまう。現在35歳の僕も、20代なかばぐらいまでは中学や高校時代の友達と年に数度はあっていたものだが、いつのまにかやりとりをすることもなくなり、今では大学時代まで含めて気軽に連絡をとれる友人は一人もいなくなってしまった。過去の友人関係が完全に消えてしまった状態である。*2

特に男性がなぜそうなってしまうのか? について、本書は最初に総括として下記のように述べている。

 男性は往々にして、幼少期の制度化された環境の中であたりまえに作り出せる友情から、成人期に獲得する、努力の結晶である友情への重要な移行に失敗している。その失敗は、自殺率、離婚率、そして友人の少なさに表れている。(……)
 男たちは、小学3年生の幸せな頃のように、友人関係は常にわずかな努力で用意されると思い込んでいるようだ。(……)すべての有意義な関係と同様に、友人関係も、築き上げ、維持するためには努力が必要だ。*3

この引用部は、僕の置かれた状況もあってかなり身につまされる話であった。そしてこれについてツイートしたところ、よくリツイートされて様々なご意見が寄せられた。男性はそもそも孤独耐性があるとか、孤独でいいと思っているから関係のメンテナンスにリソースを割かないのだとか。実際、自分は孤独を好んでおり、それを問題だと思っていないという人は数多く存在するので、それが正しい面もあるのだろう。

日本でも森博嗣『孤独の価値』、押井守『友だちはいらない。』など、孤独を肯定し友だちを否定する本は何冊も出ている。一方で、現実的な問題としてある程度年齢を重ねてから孤独や孤立で苦しむ人、自殺に(おそらく)関係している現状もあるわけで、「孤独で問題はない、友達は必要ない」という自己申告や自己認識をどこまで真に受けてよいのかは考慮する必要がある*4。寂しいと吐露することは男らしくないという規範が男たちにそうした言動と態度をとらせ、追い込んでいる可能性もあるからだ。

そういう意味でいうと、本書は別に男性を責め立てる本ではない。様々な生物学的・社会的な要因が男性が歳を重ねるごとに孤独にする現状を解説していくからだ。たとえば、現在地球に住んでいるすべての人の祖先のうち、遺伝的には3分の2が女性なのだが、これはようするに、人間は長らく一夫多妻制で一人の男性が多くの女性を妊娠させてきたことを意味している。つまり男性にとって生殖は常に希少資源をめぐる競争と化し、男は繁殖の可能性を高めるために地位やお金を求めてきた。

お金や地位を重視し、そのために多くのコストをかけていると、当然友人関係を維持するための労力はかけづらく、孤立へと向かっていく──というように、本書では他にもいくつかのポイントから男性が孤独になりがちな理由を説明している。

解決策は?

本書は最後にこうした男性の孤独感を解消するための解決策をいくつか提案しているが、個人的にはこれはやや拍子抜けする内容だった。毎日誰かに電話をかけようとか、うーん、それができたらすごく良いんだろうけど、そんなことが素直に実践できる人はそもそも孤独にならないんじゃないですかね……という例が並ぶ。

ただ、重要なのは自分の孤独を癒やすという観点だけではなく、まず他者にさり気なく気を使ったりと、まず他者の孤独を意識することにあるのだろうというのが本書を読んでの感想であった。たとえば気遣いの効果を示す研究がある。

その研究では、精神科に入院し、その後退院したものの、追加の外来治療は拒否した800人程度を対象としている。その800人を二つのグループに分け、片方には何もせず、もう片方のグループには約5年間にわたって、年に数回「気遣いの手紙」を送った。手紙は長いものではないが、治療を受けると決心した場合には治療が受けられることが、入院中に交流のあった医療専門家の直筆と署名で記されていた。その結果として、手紙での接触群の患者はその後の5年間すべてにおいて自殺率が低かったという。これは少し前の研究(2001年)*5だが、再現性は確認されているようだ。

隣人や友人にたいするほんの少しの気遣い──気にかけているよというメッセージ──は、ほんの少しでも人の孤独感を減少させ、不幸な結果を減らす可能性がある。毎日電話をかけたりするのは難しいかもしれないが、まずはこうした、少しの気遣いを周囲の人に示すことからはじめ、あんまり最近会ってないなと思う友人がいたら、食事に誘ったり、そこまでせずともメッセージを送ったりできるといいのだろう。

できることからやっていく他ない。著者はちょっと過剰なまでに孤独にたいして否定的で引用している論文も古いものが多いこともあって、本書の内容を全面的に肯定するわけではないが(あるいは、こういう留保的な態度をとってしまうことこそが男性が孤独に陥りがちな原因のひとつなのかもしれないが)、参考になる一冊であった。

*1:トーマス・ジョイナー. 男はなぜ孤独死するのか (pp.58-59). 株式会社晶文社. Kindle 版.

*2:僕の奥様を観察していると、よくなんでもないようなこと──ドラマの感想とか──を友人とLINEしているし、時折は電話もしているし、誕生日もLINEでお祝いもしてるし、言われてみればたしかに色んな友人と関係を持続させるためのこまめな努力をしているんだよね。たいして僕はといえば何もしていない。

*3:トーマス・ジョイナー. 男はなぜ孤独死するのか (p.38). 株式会社晶文社. Kindle 版.

*4:そもそも上記の二冊に関してもどちらも作家と映画監督というクリエイターの人間の言葉であることは示唆的で、ようはクリエイティブな活動、仕事において孤独が重要であることはまた一面の真実なのだろう。

*5:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11376235/