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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

トーマの心臓

 初めて読んだ。この人物の、今のこの心境であるならば「これ以外あり得ない」と思えるセリフの応酬と、そうやって感情移入できる状況の描写、絵の表現力が圧倒的で、やはり名作として長年読まれ続ける作品は違うな、と思いました。他には、最初にトーマ君がユーリに対してのメッセージ的な自殺をしてからずっと、この作品には死の気配が満ちていて、それが陰鬱な空気と、謎となって現れていて凄く良かった。死はその不可逆性によっていきている人間を支配してしまうものです。もっとああしてやればよかったとか、こうしてやればよかったとか、その人が死んでしまった後で考えてももう遅い。許しを得ることも、やり直すこともできなくて、できるのは「きっと安らかに眠っただろう」とか「幸福だっただろう」とか「わたしのことは別に恨んでいないだろう」などといって想像することだけだ。所詮ただの想像で、事実ではない、なので支配されてしまうことになる。じゃあもし死んだ人が生き返ったら? と考えると、それはまあなんか、色々やっかいだったりうまくいくかもしれないが、やっぱり複雑なことになるだろう。たとえば、許しを与えられるかもしれない。しかし、許しを与えられないかもしれないし、そもそも戸籍とかどうすんねん、っていう話だ。涙を返せ。で、この『トーマの心臓』は死者が生き返ってくる話なのだ。しかし生き返ってくるのはトーマではなく、トーマにそっくりなエーリク。そっくりさんなだけで、本人が生き返ってきたわけではないところに、ユーリにもエーリクにも周囲の人間にも葛藤があるわけであって、そこがもやもやして最高だった。死を賭しての愛が──ユーリを救う! とかポエミーな感じのキャッチコピーが似合いそうな作品でした。

トーマの心臓 (小学館文庫)

トーマの心臓 (小学館文庫)