基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)

九井諒子さんの短篇集は味わい深い。僕は漫画は基本的に一冊で完結しているやつか、短篇集ぐらいしか買わないんだけど(出来のいい短編漫画がこの世にはたくさんあるのだ)、これはその中でもぴかいちのでき。前作からも個人的には大いに進化していると思いました。

基本的には真面目なトーンの世界観が多いですが、人魚が普通に人間界に存在している話もあれば、中世ヨーロッパみたいな鎧を着込んだ戦争やっている人らの中に普通にドラゴンが存在している話もあり、コメディ寄りのもあったり(家族全員が超能力持ちで一人だけ着ている服をパジャマに変える能力を持っちゃう可哀想な話)、それも面白いんだからけっこう幅の広い作風ですよな。

どれも絵から想像が広がっていくようなものが多くて素敵な設定と、絵なんですよねえ。子連れ狼みたいにして人魚を手押しの一輪車に載せて道を歩いて行く風景とか、ドラゴンが飛び去っていく風景とか。漫画だからこそ表現できる世界がある。漫画っていいなあと素直に思えるような。そういう意味で言うと、この作品集の中で僕が一番好きだったのが『金なし白禄』という話。

時代はよくわからないけれど少なくとも江戸以前≧で、白禄は名画家ではあるものの絵を完成させてしまうとあまりに絵がうまいので描かれた生き物が紙を飛び出してしまう。なので常に片側の瞳だけは描かないでいたのだが、ついに金がなくなってしまい、画材もほとんど売り払ってしまったので今まで描いた絵に瞳を書き入れて動物を実在させて売りに行こうという話。

その為に白禄(じーさん)の家にあった誰が描いたとも知らない贋作の絵に瞳を書き入れてお供にするのだが……。虎に瞳を書き入れれば逃げていき狛犬に書き入れても逃げていき最後に挑戦するのは龍であった……。この、絵に描いたものが実現するってのはいいよねえ。絵に描かれた龍が、瞳を書き入れられて実体化する場面は圧巻。

絵で描かれた「絵に魂が宿る」物語だからこそ意味がある。

是非どうぞ。

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)