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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか: 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来(DOJIN選書) by 宮原ひろ子

「宇宙気候学」について書かれた一冊。いや〜けっこうこの手の本は読んでいる方だと思っていたんだけど宇宙気候学なんて聞いたことがなかった。本書の副題にもなっているが、地球も太陽系の中の一つの惑星として存在して、宇宙からの影響を受けているという視点で地球の変動をとらえようとする試みの解説になっている。まあもちろん太陽の活動周期によって地球が冷えたり逆にあったまったりってことへの理解などは元からあっただろうが、それ以外の部分についても意外と宇宙からの影響が多いんじゃないのかと。ほとんどの話は太陽活動の周期はどのようにして決まっているのかと、太陽の活動は地球にどのような影響を与えるのかといった「太陽と地球」の話だけどそれ以外の影響についても触れられる。

たとえば1997年のデンマークのフリス・クリステンセンとスペンスマルクが発表した論文では、「比較的重たい恒星、星として死ぬ時に大爆発を起こすぐらいの重さの恒星は、その爆発した時の高エネルギー粒子が地球にふりそそぎ、大気中の水蒸気を雲粒に発達させるうえで重要な役割をはたしている」と書いている。これ自体はまだ議論が続いている仮説段階ではあるようだが、この他にも宇宙からやってくる様々な要素が地球環境の変動に関係していることを示唆する事実があり、そうした事実は地球で起こっていることを考える時でも、その原因を求める視野を宇宙まで拡大しなければ真の原因追求とはならない可能性を示している。

太陽の活動周期はどうやって決まっているのか

この分野においてホットな話題のもう一つは「太陽の活動周期はどうやって決まっているのか」だろう。太陽は水素とヘリウムの気体が中心角にて核融合反応を起こす、水素の原子核・陽子4つが融合して、水素4つよりも少しだけ質量の軽いヘリウムが生み出され、その減少した分の質量がエネルギーとして放出されあんなかっかかっかと燃えた星になってしまっている。生成されたエネルギーは光として徐々に外側に伝わり、表面まで達した後光となって周囲の惑星に降り注いでいく。

太陽のエネルギー変換自体は資材が尽きるまで終わらないんだろうから、じゃあ太陽の活動に周期があるのはおかしくねーの? と思うところだが、太陽の表面状態は実は細かく変わっている。太陽は内部から外側へとエネルギーを循環させているのだが、この熱の移動の際に磁場をつくりだしており、この磁場が太陽から放出される光の量を変えたり、太陽嵐と呼ばれる現象を引き起こしたりする。我々の生活に影響を与えるのも(太陽がずっと先に消滅することを度外視すれば)この表面の変化によって発生しているのだ。

周期自体は88年だったり200年だったり、11年だったりといったそれぞれの活動が活発になったり不活発になったりする。で、まだこれに関する明確な答えは出ていないのだが、仮説はある。で、中でもスゴイなと思った仮説は、この太陽の活動周期に太陽周辺にある惑星が太陽に影響を与えているんじゃないかというもの。ただもちろん太陽の質量に対して、太陽の周りを回っている惑星は影響を及ぼすには質量が足りなすぎる。だから真剣に取り扱われることはなかったのだが、2012年にこの太陽の長期変動についての主流の研究者が新たな説を論文として発表した。

それは、太陽内部の層構造が完全な球形ではなく少し非対称になっているために、わずかな力が磁場の形成に影響しうるというものです。また、天文暦から想定される、太陽にかかる力の変動の周期性と、炭素14やベリウム10によって調べられた太陽活動の変動との周期性が、いくつもの時間スケールにわたって非常によく一致しているということも示されました。たとえば、太陽活動の長期変動としては88年周期や200年周期、500年周期などがよく知られていますが、その周期性が惑星の動きによって太陽にかかる力で説明できるというのです。

もちろんこれはまだ提出されたばかりの仮説であって、決定的な説というわけではないのだが、もし仮にこれがある程度正しいとされれば何十何百といった先の太陽活動のサイクルまでも判定できる。そうなれば人間が宇宙について理解する範囲はまた一歩広くなるといえるだろう。こうしてもちろん太陽の観測衛星などの力を借りながらではあるが、人間はほとんど地球から出ることもなくすげえことがわかるようになっているんだなあ。椅子に座りながら地球から149,600,000 km離れた現象を理解できるんだ……と、まあこれを読んでいたのは電車に座っていた時なんだけど、電車に座りながらにして太陽の周期活動について思いを馳せ、なんて素晴らしいんだ!! と思って感動して涙が出てきた。それぐらいスゴイ。

太陽の活動周期を知るのは単に物理的な探求目的だけではない。まれに発生する太陽フレアでの災害としてあげられるのが1989年カナダ・ケベック州で発生した大停電。コロナ質量放出の磁場が地球に押し寄せ、地球を取り囲む地磁気全体が大きく揺さぶられ、その効果で地球大気の上層に強い電流が流れる。これが地表の電気系統にダメージを与えたり、摩擦熱が発生し大気の上層が加熱によって膨張してしまい、宇宙空間の大気すれすれを飛行している人工衛星が影響を受けて墜落する事故などにつながった。それからもちろん地球の天候についても太陽が大きく関わっていることは恐らく間違いない。

ようは太陽の周期活動は我々の生活に密接に関わっているにも関わらず、その予測はおろか原因もほとんどつかめていないのである。

過去の気候変動を探る方法

しかし読んでいて驚いたのは気候復元(何千年前とか何万年前にどのような気候だったのかを判定する技術)が本当に色々なやり方で行われていて、その解説が面白かった。たとえば宇宙から放射線が地球に降り注いできた時につくられる炭素14があるのだが、何千年も存在している樹木に取り込まれていくのでその数値を調べることで太陽活動の記録がはかることができる。これはまあ割合ポピュラーな方法だと思っていたんだけど、他にもサンゴを使う方法や南極の氷を使う方法もある。

もっと特殊な例としては、古日記などの昔の日記には日々の気候の状態が記録されていたり、花の開花日が記載されているのでそうした情報を植物生理学に照らし合わせて「この花の開花にこんだけの日数かかっているということはこの時の平均気温はこれぐらいだろう」と算出するらしい。そんなんで正確な値が出せるんかいとは思うが、まあとにかく他に完全な方法もないんだし使えるものはなんでも使うぜ、という研究者魂が感じられて面白い方法ではある。

こうして全体を通して読んでくと「結構わかってることがあるんだな」と思う部分もあれど、わかっていないことのほうが圧倒的に多い。放射線の気候への関わりや、太陽の活動周期がなぜその周期になっているのかの謎など、それっぽい仮説はあるがまだ認められているわけではないものばかりだ。今だって温暖化が叫ばれているものの、太陽活動は今低下傾向にあり、これが今後も低下し続けていくのかはたまた元の周期に戻るのかは見守るばかりとなっている。

わからないことばかり、仮説ばかりだが逆にいえばそれだけ新しい発見が起きやすい分野ということでもあるだろう。これから先太陽の周期や、気候との関わりがどんどん判明していけば、太陽圏内にある地球という、宇宙全体の相互作用の中でどのような状態にあり、これからどうなっていくのか、長期的な視点が立てられるかもしれない。これまでのほとんど地球のみで完結してきた視点から大きく離れることになり、まさに革命的な視点の転換といえるだろう。これからどんどん面白くなる分野の入門書として興味深く読んだ。

地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか: 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来(DOJIN選書)

地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか: 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来(DOJIN選書)