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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

監視機構 (サザーン・リーチ2) by ジェフ・ヴァンダミア

SF

本書『監視機構』は全滅領域 by ジェフ・ヴァンダミア - 基本読書 に続くサザーン・リーチ三部作の第二部になる。シリーズは明確に構成が考えられていることから全滅領域から順番に読んでもらいたいところだが、このシリーズ全体について知りたい場合はこの記事では致命的なネタバレは存在しないはずなので安心してもらいたい。そもそも本シリーズにおいては現時点において致命的なネタバレなどそもそも誰にもできないというべきか。それぐらい物語の確信は明らかにされておらず、もやの中からそこに何が浮かび上がっているのかを推理しあう解釈合戦の体をなしてきている。

『全滅領域』は地球上に突如現れた区間で、異界ともいうべき領域が広がっているエリアXに、多くの情報を与えられていない四人の専門家が送り込まれる話であった。「恐怖」を際立たせるかのようにエリアXの謎はその断片のみが開示されるのみで、何か意味のありげな要素が次々と明らかになっていくもののその確信は決して明らかにされない。何事かが起こっていることはわかる。しかしその何事かはは描写されず、その「結果」のみがてんてんとエリアXに残っている。そこを探索する四人はお互いに疑心暗鬼に陥りながら、残された結果からそこで何が起こっているのかをつなぎあわせ物語を語るようにして事象を解釈していかなければいけなかった。

内側からみてきた「異常性」に対応しての外側からみた時の「異常性」が本書『監視機構』になるといえるだろう。衝撃的な終わり方をした第一部から一転、今巻はその「外側」からの視点になる。四人を送り出した側、『全滅領域』後の時間軸で新しく局長として赴任されてきた男<コントロール>の一人称語りだ。すわ物語の確信に触れるのかとおもいきや、彼もまた<コントロール>などと名乗るわりにただの雇われ店長のごときコントロール性のなさだ。我々読者の代弁者かのように、彼はほとんど何も知らされずに突如上の思惑でこの組織に新局長として送り込まれ、何もかもが隠されている雰囲気の中少しずつ自分が何を知らないのかを思い知らされていくことになる。

決して確信には触れずに、周到に中心を避けて周縁を掘り起こしていくような迂遠さが、しかし中心の異常さをより際立たせていく。局長室に設置されている二十二個もの監視装置、建物内に存在している、数年前までドアがついていなかった、つまるところ無意味な空間とかしていた広々としたホール。自分に指示を出し報告を要求してくる何者かはわからない組織の上層部<声>。怪しい、ほのめかしのような要素をあげていけばキリがない。

<コントロール>がそれまでに得てきた情報からエリアXについて様々な仮説を検討するように、送り込んでいる側も、送り込まれた側に比べて極端にたくさんの情報を持っているわけではない。いまだほとんどのことはわからず、手探り状態である。まるでミステリ小説において探偵が明かされた情報を元に、事件の本質を探り当てようとしていくかのように本作ではエリアX何が起こっているのかを解釈しようとしていく。探偵と違うのは本作がミステリではないというところか。唯一絶対の真相などというものは存在しているのだろうか。少なくともすべての黒幕としての「犯人」は存在していない。それはおそらく世界システムそのものであり、状況そのものであるはずで「これこれこういうものです」とわかりやすく開示されるものであるとは思えない。

本作はしかし、そうした「わからなさ」をここまで徹底して語り続けてきたのだともいえる。それでいてにじみ出てくる「何か」が我々をどうしようもなく「わからなさ」に興味をもたせ、引きずり込んでいく。

語りの不確かさ

前作も今作も語りは基本的に一人称で進行していく。しかし前作でも中心人物となって活躍していた生物学者が、今作において記憶が不正確になりアイデンティティが揺らぎ、語る内容が実体験を語るのではなくまるで「ストーリー」を語るかのように変質している。それを今作ではそのまま「ストーリーを語っているかのようだ」といってみせるのだが、しかしそれはこの語りの自明性も揺らいでいることを示しているのではないか……という恐怖が募ってくる。「一人称語りは信頼できるものである」という自明性が消失する/しているかもしれない恐怖は、小説ならではの「恐怖」の演出といえるだろう。

本作はこと恐怖の演出については徹底的だと感じるのはこういうところまできっちり仕上げてくるところがスゴイ。いやあ、正直言って前作はそれ単体で未踏領域探査物の傑作のレベルに達していたと思うのだけど、だからこそ三部作でその格をどんどん落としていってしまうのではないかとちょっと心配だったんですよね。

未開領域、何が起こるかわからない土地へと恐る恐る踏み込んでいく時のお化け屋敷へ踏み込む時とはまた違った緊張感。何か得体のしれないものを見つけた時の、電撃が走ったようなショック状態。一瞬の判断が求められる危険な状況……そうした描写のどれ一つとっても、「これだよ! 未踏領域探査物で僕が観たかったのはさー! これだぜー!」と拍手喝采して盛り上がるようなレベルの高さで、大満足の一冊。

だが二部作目まできてもなお恐怖感を増して「なんだあ、そんなことかあ」とがっかりさせるようなところが微塵もない。物語に別側面から光を当てながらまったくその表現を後退させることなく書ききってみせた。物語の規模感もここでさらに大きくなってきて、シリーズ最終作『世界受容』に期待がかかるところだ。でも、もうこの書名だけで勝っている感があるけどね。だって、世界受容ですよ、世界受容。いったい世界は何を受容してしまうのか!? このタイトルで駄作なはずがないじゃあないですか(ハードルをあげていく)

監視機構 (サザーン・リーチ2)

監視機構 (サザーン・リーチ2)