基本読書

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石油の帝国---エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー by スティーブ コール

本書『石油の帝国』はアメリカのテキサス州を本拠地とするエネルギー企業であるエクソン・モービルの1990年代から2010年代に至るまでにどのような動きをとってきたのかの著作である。一言で「こういう本です」というのがなかなか難しい本で、俗にいうところのスーパーメジャー、圧倒的な資金力と政治力で市場をかっさらって占有し続けているようなPRIVATE EMPIREがどれだけの権力を持っていて、20年30年といったタイムスパンでどのような対応を行ってきたのかを様々な側面からみていくのが面白い。

まあとにかく一企業といってもこれだけの規模になってくると影響力は世界中に波及していて小国家などとは比べ物にならない。まえがきによれば2013年の売上高はベルギーやスウェーデンのGDPを超えているというし、一企業がそれだけの力を持っているともうロビーイング活動も他所とは比べ物にならない額を投入できる。当然エネルギーを扱う以上世界中の動向に気を配りながらテロや戦争のリスクを計算し、気候変動の研究を続け、強欲に金を占有しているというようなパブリックイメージをなんとか塗り替えようと日夜資源を投入して改善を目指している。

こんだけ大きくなってしまうといろいろと大変よなあと他人事のように思う。国際政治が揺らげば容易く需給バランスが崩れるし、国策によって石油からのエネルギーシフトが各国で進む中いつまでも石油に注力しているわけにはいかない。地球温暖化がたいへんだからもう石油を使うのはやめようという流れにも、自分らの利益のためには積極的に反対しなければいけない。信じられない利益を叩き出すようになればトップ層は常に身代金目的の誘拐の危険性にさらされ、実際何度も誘拐されてしまう。何十年もやってりゃ、事故だって起こる。事故が起きりゃあ当然タダでは済まないから法外な金額をかけた法廷闘争ですよ。そんなことやってられねえと思うわけだが、よくやるもんだよほんとに。

ようはたかだか一企業の歴史を追っていくだけとはいえそこには国際政治が絡み、気候変動への研究・分析が絡み、石油からシュール革命が起こってからのエネルギーシフトについての対応が絡み、世界中の問題に首をつっこんでいくことになる。本書の著者のスティーブ・コール氏はピューリッツアー賞も受賞している名うてのノンフィクション作家。アメリカの一般向けノンフィクションライターがよくやる煽るような記述、個人について焦点を当てるときは常に子供時代から語り出すようなかったるさが伴って長々しい記述になっているが書かれていること自体はどれも重要で興味深い事実だ。

PRIVATE EMPIREという原題はけっこう恐ろしくて、ようはそこらの国家を優に超える影響力を持つ、世界を動かす潤滑油の供給企業が我々の意識にのぼることがあんまりないし、その内実が明らかにされることはもっとない時代なんだっていう話ですよね。我々が悠長に「公平な選挙、投票をー!」といったって裏でものすげえ金が動いてロビーイング活動が行われ誘導その他の合戦が「見えないところ」で行われているわけで、こうした力学を市井の人間に日常生活をおくりながら把握しろというのも酷な話であります。

じゃあ我々はどうしたらいいのか? とそうした部分に踏み込んでいく本ではないけれど、ある程度の内情をしる為には良い一冊。個人的にはプーチンとの直接交渉に一歩も引かずに自分の利益を押し通そうとするエクソン・モービルの代表を描写しているところが悪の組織同士の対決っぽくてたいへん興奮しました。

石油の帝国---エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー

石油の帝国---エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー