基本読書

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ネビュラ、ローカス賞を受賞した、内省的で連続ドラマが大好きな人型警備ユニットの活躍を描く新時代の冒険SF──『ネットワーク・エフェクト』

二年連続でヒューゴー、ネビュラ賞を受賞し、日本翻訳大賞も受賞したマーサ・ウェルズによる『マーダーボット・ダイアリー』。その続篇がこの『ネットワーク・エフェクト』である。前作に引き続き賞レースにやけに強く、すでに2021年のネビュラ、ローカスの長篇部門を獲得。ついでにヒューゴー賞においても最終候補作に入っていてまだトリプルクラウンの可能性があるなど、2作目にしてなお高い評価を誇る。

『マーダーボット・ダイアリー』は4つの中編が集まった、比較的短いエピソードの詰まった本だったが、本作は長篇一本となり、長尺で本作の魅力───、かつて大量殺人を起こし自分で自分をマーダーボットと呼ぶ内省的な人型警備ユニット、自称“弊機”のウェットな語りを堪能することができる。あと、個人的に本作の好きなところは今どき珍しく艦隊戦などではない物理的なアクションがたくさん描かれているところ──それも、ドローンや監視カメラを駆使して情報を把握するところからはじまる現代的なもの──にあって、本作はそういった点でも大きな満足感を与えてくれた。

続篇とはいえ、物語としてはほぼほぼ単独で成立しているので、本作から読んで一巻に遡るような読み方をしても十分に楽しむことができるだろう。

前作から今作へのあらすじ、世界観など

先に前作も含めた大まかなあらすじを紹介しておくと、物語の舞台となっているのは人類が外宇宙に進出し、複数の惑星をまたにかけ生きている遠未来。性的な用途のためのロボットや戦闘用ロボット、人間が自身の体を置き換えていった強化人間や、人型の警備ユニットである弊機やら、多数のロボ/人が存在している。

弊機は前作のイラストにも描かれているように外見的には人間そのものだが、有機的な部分と非有機的な部品が混合した存在である。痛覚も存在するが、コントロールすることができ、思考回路は人間的。下記は前作の“弊機”による語りだが、統制モジュールをハッキングしたことで(雇い主から気づかれぬうちに)自由の身の野良警備ユニットになっており、そのせいで面倒な事件に巻き込まれていくことになる。

 統制モジュールをハッキングしたことで、大量殺人ボットになる可能性もありました。しかし直後に、弊社の衛星から流れる娯楽チャンネルの全フィードにアクセスできることに気づきました。以来、三万五千時間あまりが経過しましたが、殺人は犯さず、かわりに映画や連続ドラマや本や演劇や音楽に、たぶん三万五千時間近く耽溺してきました。冷徹な殺人機械のはずなのに、弊機はひどい欠陥品です。

ことあるごとに弊機は大量殺人犯で冷酷な殺人機械、ひどい欠陥品です……どよーんと曇らせを発揮していくのだが、その一方でやることはやるやつであり、守るべき存在がいれば人間に盛大に文句を吹き上げながらも的確に敵をぶちのめしていき、晴れて弊機は仮初の自由の身ではなく、メンサーという小政体の有力者のもと自分のしたいことを探す立場になれたのであった──というあたりが前作の流れである。

今作は?

続く今作では、騒動が一段落してメンサーのもとで日々を過ごし、調査隊の宇宙船に乗り込んで海賊じみた相手から船員を守ったりという警備ユニットらしい仕事をこなしている場面から物語は始まる。ところが、物語的には当然の流れともいえるが移動用ワームホールから抜け出たところを何者かの追尾ミサイルで攻撃されてしまう。

攻撃はそれで終わらず、敵船は施設下部への強制ドッキングを狙っていて、その後移乗攻撃を仕掛けてくるとみられている。それを食い止めるのが弊機の役目だ。弊機は救援がくる80数分の時間を持ちこたえられるかと問われ、次のように答える。

 難しい質問です。暴力的な意志を持って突入してくる敵が何人いて、どんな武器を使ってくるかによって答えは変わります(その先のシナリオは、”敵を甘く見ていました。逃げましょう”から、ラジプリートが弊機の残骸をまたいで拳銃一挺で必死の抵抗をするものまでなんでもありえます)。もし敵が与圧スーツの突入部隊を出して外壁をまわり、母船のべつのハッチを狙ってきたら……。しかしいま顧客たちが聞きたいのはそんな答えではありません。
「できます」通話回線で答えました。

弊機の魅力はネガティブで内省的なところにある──というよりも、そんなネガティブさでありながらも、こうして踏ん張るところは踏ん張ってくれるやれやれ系仕事人なところにある。で、こうした弊機の分析的な視点は、アクションの組み立てにも影響してくるのがおもしろいところだ。

ゲーム的なアクション

いったい何人の敵が入ってきてどんな武器を持ってくるのかわからないとなんとも……と弊機が思考しているように、そうした情報は本シリーズでは実に重要なものになる。たとえば弊機は敵との物理戦闘を始める前に、必ず情報収集からはじめる。

自前の監視カメラやドローンの視点を借り、積極的に敵システムへのハッキングを試みて敵がどこに何人いってどんな武器を持っているのか、という情報を集め、どうやって攻めたら反撃を受けずに全滅させられるのか──と戦術を組み立てていくのだ。

 大あばれをはじめるまえに、
 (1)情報収集する。
 (2)ARTの乗組員がいるなら所在を確認する。
 (3)救出法を考える。
 この三つが必要です。とりわけ(3)が難しそうです。
 警備システムのカメラでふたたび視界を得ました。バリッシュ-エストランザ船の内部は、元弊社ほど、”物理的なプライバシーなどないほうがいい”という設計思想ではありませんが、大同小異です。あちこち見ていると、大量のデータ処理と画像解釈の負担が大きいことに気づきました。弊機の脳の有機組織部分の貢献は大きかったようです。

といった感じで、船内の情報を集め、どこで戦闘が行われたのか、敵戦力の総数、防御スーツの有無や攻撃手段の確認──を細々と描写していく。これを読んでいて僕はゲームをやっているときの感覚に近いな、と思った。たとえば『サイバーパンク2077』では敵が集まっている建物に突貫する前にまずはカメラをハッキングして建物内の敵を確認するし、最近のFPSゲームではプレイヤーがドローンを使えることが当たり前だから、ドローンで敵影視察、できればそのまま突っ込ませてキルを狙う。

感覚的には『レインボーシックス シージ』のフィールにかなり近い描写である。弊機の思考・行動プロセスは完全にそうしたゲームをやって手順通りにクリアしていく時と同様で、読みながら馴染む! 馴染むぞ!! と思わずにはいられなかった。

おわりに

弊機らは襲ってきた相手によって見知らぬ星系へと拉致されてしまうのだが、なぜ襲われたのか、相手は誰なのか、この星系は何なのか──異星文明による遺物が関連していること以外は何もわからないまま、それを解き明かしていくと同時に生き残りをかけた戦闘がはじまる。SF的な設定に新味さはないのだが、何よりも長々と述べたようにアクション部分や語りのおもしろさでスペシャルな作品に仕上がっている。

前作が楽しめた人は間違いなくおもしろいはずなので、ぜひ手にとって見てね。あと前作は上下でけっこう重いんで、本作から読んでもいいかも。