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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

死者の代弁者[新訳版] by オースン・スコット・カード

本書死者の代弁者(エンダーのゲームの続編)をエンダーのゲームを読みながらも僕は読んでいないのだがそこには明確な理由が存在していた。別にそんなたいしたもんじゃないが、「だって、エンダーのゲームが面白かったのはあの状況があったからこそで、続編はあの状況じゃなくなってるんだから面白いはずないでしょ」と思っていた。

その頃僕はSFにハマリかけの大学生で名作と名高い作品を片っ端から読み漁っていた時期だ。読むべき作品はいくらでもあってオーソン・スコット・カードの名前もよくしらなかった。そのまま長い年月を超えて来てしまって今初めて読んだわけだけど、これ、めちゃくちゃ面白いな!? 下手したらエンダーよりも面白くないか? 新訳だからだろうか? 僕はどうにも記憶にないのだが訳の評判はあまりよくなかったようだ。

物語はエンダーの死後三千年経った時点から始まる。三千年も経ったのかあ……じゃあエンダーもとっくに死んでるよなあ……とおもいきやまだまだエンダーは現役。もちろん既に少年ではないにしろ、いまだ30代半ばの働き盛りだ。遺伝子操作によって長寿が可能になったのかな? とおもいきや光速飛行を繰り返したせいで周囲の時間経過と自身の身体劣化に大きな時差が生まれてしまっているだけらしい。

英雄のその後

面白いのはこれが「英雄のその後」を書いた物語であること。異星生命体を見事皆殺しにして人類をぱんぱかぱーん! と救ったエンダー少年だったがせっかく人間以外の知的生命体と出会ったのに皆殺しにするなんて、野蛮な奴だな!! 世紀の大虐殺犯にされてしまっている。まあ、そうかもしれない。キリストのような祀られ方はしないだろう。何しろ大量に殺しているわけだから。人類を救ってくれたのだ!! ともなっていない。正直恒星間を移動しばしばし宇宙戦争するだけの文明があるなら詳細な記録も残っているだろうとは思うが三千年は長い。

かつて地球を救ったエンダー少年はおっさんとなって普通に生きているわけだから、自分がやんややんや言われている時代の真っただ中にいる。もちろんエンダーです、世界を救ったり異星種族を皆殺しにしました、うっすと名乗り出ていくわけではなく、各地を回りながら死者の代弁をする、本書の書名でもあるspeaker for dead として日々を過ごしているのだ。ある意味自分で自分の代弁をしているようなものなのでなんとも奇妙な状況だが彼はそうした生活をそれなりに楽しんでいる。

僕はこの「英雄のその後」を書いた物語が好きだ。最近だとアニメ作品のグレンラガンとか。なぜなのかは突き詰めて考えたことがなかったが、それはやはり「物語の終わり」を拒絶し、さらに先に駒を進めてくれる話だからなのではないかと思う。世界を救う、誰かを救う、あるいはミニマムな範囲で言えば恋愛小説で誰かと恋を成就させる。しかしそのあとも世界は続いていくのだ。救われた後も大きな危機に襲われるかもしれない世界。付き合いだしてもすぐに別れるかもしれない。相手の足は臭いし頼り甲斐があると思っていたらとんだへっぽこかもしれない。物語の終わりとはいったんの区切りであって本当の終わりではないこと。それを英雄のその後は教えてくれる。

もちろんそんな理屈を言ったら物語に終わりなんて永遠にこないわけだが、少なくとも「その後」を想起させる効果はある。エンダーの名誉が失墜した世界で、彼は再度立ち上がる。自分の名誉を回復させるために? そういう理屈もあるだろうが、彼自身の興味に従って。世界は彼がかつて滅ぼした異星生命体とはまた違った知的生命体とコンタクトしている。相手は高度な学習能力を持っているがまだ人間の事を多く把握しているわけではない。しかしあるとき、おそらくは彼らの「何か」に触れてしまったために、人間の研究者を一人、殺してしまう。

テーマ的な部分ではどのようにして理解しがたい他者を受け入れるのか──あるいは受け入れないとしてもどのように未知のものと付き合っていくのかというエンダーから連綿と続く物語だ。物語は単純にエンダーに寄り添って進むのではなく、この新たな生命体の研究者である二人の少年と少女を始発点としている。エンダーは遠く離れた惑星で研究者が殺されたことを知る。そして、その地から異星生命体とも多少関わりのある人間の代弁を依頼され、客観時間にして22年にも及ぶ光速移動に出る。果たしてエンダーは、この新たな知性体に対してかつてとは違う選択肢をとりえるのか。名誉を取り戻すことはできるのか、それとも……

エンダーTUEEEE

面白かったのが、前作『エンダーのゲーム』において、エンダーを天才的な軍略家のように書いておきながら第二作である本作ではそれを呆気無くひっくり返してみせたところ。エンダーはその軍略家、戦争屋としての能力を発揮させることはほとんどない。その代わりに彼が発揮させるのは圧倒的なコミュニケーション能力──というと俗っぽくなってしまうので、演説の才能というか、他者を理解し、時には懐柔し、コントロールする力である。彼はその能力によって出会う人を次々と籠絡し(NOT性的)異星種族とその異星種族の周辺にいる人々の心のなかに棲まう「秘密」を明らかにしてみせる。

俺TUEEE物と呼ばれる、主人公が最初からある程度最強に近い能力を有した状態で、他者に大きなアドバンテージを持ったまま物語を展開する作品群がある(定義は適当に僕がいまでっちあげただけなので正確ではない)。いわゆる願望充足的な側面の強い小説(無敵状態になって雑魚を蹴散らすのが楽しい、ヒーロー願望のような)として使われることも多いように思う。無敵の主人公にして雑魚を出してケチらせてやれば読者は願望充足されて満足するんでしょう? 簡単簡単! と思ってしまうかもしれないが、意外とこれはこれで難しい。

たとえばこの系統としてよく名前の上がる『魔法科高校の劣等生』も、主人公はほぼ最強・無敵の能力を有しているという設定だが、その魅せ方は一様ではない。最初はある程度「小競り合い」のレベルでその単純な戦闘力をみせつけ、その小競り合いも敵のレベルが上がっていく。敵のレベルが上がりきったと思ったら今度は「エンジニア」としての能力も天才的であると描写するパートに入って、次に実は「エンジニア以外の能力も……」「実は最初に示していた能力よりもずっと凄くて」とだんだん「どこがスゴイのか」の描写と強調するシチュエーションが転々としていく。そのシチュエーションもただロジックもないまま強い敵を出してもしかたがないので、「よりカッコよく、周囲のキャラクタが驚くような形で」納得感の生まれる形に整えていかなければいけない。なかなか難しいのだ。

別作品の話になってしまったがエンダーもこの二作目で、一作目とはまったく違った、人たらしとしての天才性を見せつけていくことによってキャラクタが随分と深くなっていったように思う(といっても、もう前作とはほぼ別人のような気がするけど)。で、それだけだったら「着想の部分が良いね」で終わってしまう話だけど、このエンダーの人たらしの技術が読んで納得できるものになっているのがスゴイ。作品を通してのテーマであるところの「異質な他者を受け入れ、理解すること」にのっとって、異星種族だけでなく普通の人間の話をよく聞く。頷いて、相手の心の奥底に眠っている願望や抑圧を見抜いて、それを解放してやる。これを全部台詞というかやりとりで描写しているのだが、やりとりの一つ一つが「そりゃ心を許しますわ」と納得してしまう感じで、ぐっとくるんだよね。

ぐっとくるだけじゃ意味がわからないだろうから多少詳しく説明すると──一番驚いたのは、物語の終盤に訪れるエンダーの演説のシーンだ。エンダーはここで滾々とそこに集まった人々に向かって、この街に存在していた一人の嫌われ者だった男がどのような人生をおくって、どうして彼は嫌われ者になっていったのか、どのような思考と感情があったのかを丁寧に丁寧に解きほぐしてみせる。民衆はなんなんだあいつは、と最初は訝しんでいるのだが、エンダーが実に細かいところまで歴史をたどり、個人の内面に深くもぐって、その要素を開示してみせるので次第にみな「あいつは本物だ、あいつのいっていることは確かにそうだ」と反応が変わってくる。

 聞き始めた人々の一部は違和感を覚えた。もっと演説らしい演説を期待していたからだ。ところが代弁者の声は淡々としていた。言葉遣いも宗教講話のような形式的なところがない。単純明快。普通の会話のようだ。
 一方で、この単純さこそが彼の語り口なのだと気づいた人々も一部にいた。単純だから信じられる。真実をはなはだしく宣言しているのではない。ただ真実を真実として、当然のことだから疑惑の余地がない話として語っている。そう気づいた一人がペレグリノ司教だった。司教は不安になった。この代弁者は強敵だ。祭壇から吹きつける炎では追い払えない。

読者である我々(といってしまうが)も、まるでそれに同調するように「たしかにそうだ」と思わせられてしまう言葉の力に満ちている。エンダーの(というよりオースン・スコット・カードの)魔術によって。僕は「英雄のその後」だけじゃなくて、「演説」が出てくる物語も大好きなんだけど(好きなものがいっぱいあるな)、本作の「演説」は、その言葉に説得力があるだけじゃなく民衆の反応が徐々に変わっていくことまで実に理想的な、興奮する演説となりえている。エンダーシリーズはこの後も続いていくが、あんまり評判もよくないものが多い。しかしとにかくこの死者の代弁者は『エンダーのゲーム』の明確な延長線上にありながらまったく別物として素晴らしい出来だ。

死者の代弁者[新訳版](上) (ハヤカワ文庫SF)

死者の代弁者[新訳版](上) (ハヤカワ文庫SF)

死者の代弁者[新訳版](下) (ハヤカワ文庫SF)

死者の代弁者[新訳版](下) (ハヤカワ文庫SF)