基本読書

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PIECES Gem〈01〉攻殻機動隊データ+α by 士郎正宗

PIECES Gem〈01〉攻殻機動隊データ+α

PIECES Gem〈01〉攻殻機動隊データ+α

元からの攻殻機動隊(漫画)のファン、というか士郎正宗ファンは当然買っているだろうし、アニメ版、最近だとARISEや新劇場版のファンが読んで楽しめるかは……という本なので僕がいまさら何か書くようなものではないのだが面白かったから書いてしまう。攻殻機動隊関連のイラスト、ボツ企画となった数々のイラストや設定が載っている。

それもまあ良いのだが、殆どのページに設定と共に載せられている士郎正宗さんの文章が良い。攻殻機動隊の解説をする──わけではなく、SACをメインとしたアニメ演出に対して延々と「おかしいんじゃないの」「違うパターンだったらこうなるかな」と試行錯誤してみせたり、アップルシードを出した時や攻殻機動隊を出した時の当時の状況や狙い、思い出話あり、ニューロマンサーとの関わりを指摘されて否定してみたりと盛りだくさんの内容。

SACについては具体的に話数と描写の整合性がない部分を取り上げてけっこう痛切な言葉が連続して吐出されているので、SACの純粋なファンという方は反感を抱くかも知れぬ。『…いや「物語に合理や整合性は必要ない」「物語は情理が最優先」とする考え方は理解できるし結構一般的だろうと思う。「仏教宣伝や政治宣伝系以外の日本昔話」にもそういうタイプのものがたくさんある。「情理優先」する人が増えた社会は一見「情けのある人間的な社会」のようだが、一旦何らかの情動的な引き金が引かれると暴動や戦争が起きやすい不安定な体質になると考えているので(根拠無く)、個人的にはあまり好みではないが。』とか。もちろん認めるべきところはきちんと認めている。

改めて士郎正宗氏の思い出話を読んだ上で攻殻機動隊の漫画を読み直していると、一度や二度読んだぐらいではわかっていなかった隅々まで配慮され・設定された世界観そのものの異常性と、一人一人のキャラクタが最善手を打ち続けるプロフェッショナルとして際立っているのがよくわかる。もう何度読み返したかわからない。当時はいろいろな描写について理解されなかった(自動で行われる株取引とか)ことが、現代ではどれも当たり前・身近・近年実現可能な技術となってきていて、描いている方からすれば「ほらな、言った通りだろう」といった感じだろう。「へへー、その通りでございます」というほかない。

1980年代に描かれた作品が今でもこれだけの影響力と解像度を持っているのを目の当たりにして、また士郎正宗長編(一冊でも長編だ)漫画が読みてえなあ……あるいは士郎正宗演出(か、もしくはそのコアな部分を受け継いだ=情動描写や雰囲気を切り捨てて理屈と合理性によったミリタリSFとして)がばりばりにきいたアニメでもいい……と待望してしまう。2013年からとある事情により、これまでより生産性を上げることが出来るようになったとのことで、なんとしても現代に生み出される士郎正宗作品を体験してみたいものである。