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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

酒がもっとうまくなる──『酒の科学―酵母の進化から二日酔いまで』

酒の科学―酵母の進化から二日酔いまで

酒の科学―酵母の進化から二日酔いまで

酒! 飲まずにはいられないッ!

わけでは全然ないが、普通に飲む。僕だけではなく、成人した人間はけっこうな割合が飲むはずだが、毎週飲み歩いているという人であっても「アルコールがなんであり、どのように造られ、体の中でどのように作用するのか」は知らない人も多いだろう。*1本書はそこんとこを専門的に教えてくれる科学ノンフィクションである。

どのような過程で酒がつくられ、飲んだ際にはどのように脳が快楽を引き起こすのか? 樽の中に入れて醸成するその時、どんな科学的な変化が起こって味に変化が発生するのか? 発泡酒とビールはいったいぜんたい何が異なっているのか? そうした一つ一つの事象を確認していくことで、飲む酒がうまくなる──。というよりかは、飲んでる酒が変わらなけりゃあ味も変わらないわけだから、うまい酒とは何なのかを把握することによって、よりうまい酒を飲みにいけるようになるだろう。

全体の構成、流れ

本書は、かなりとっちらかっていて読んでいて頻繁に「今何の話だったっけ??」とわからなくなるのが難点だが、おおむね酒が生成されていく過程に沿って記述されていく。たとえば第一章にくるのは、糖をアルコールへと転換する真菌を扱った「酵母──Yeast」だ。蒸留酒をつくるにしても何にしても、まずは何かを発酵させなければならないが、そのために必要なのがこの酵母なので、一番手にふさわしい。

続いて語られるのは、酵母が食べる「糖──Sugar」である。食べるとはいっても糖の何もかもを食べられるわけではない。たとえば穀物の糖類(デンプンとか)は単糖が結合して高分子になっているためなかなか解体できない──と、そうした糖化学を「なぜ人間は糖をおいしく感じるのか」から順番に解き明かしていく。大ヒット中の映画『君の名は。』では「口噛み酒」という酒造手法が重要なモチーフになっているが、この章では余談としてその科学的な過程に触れられているのもおもしろい。

 初期の酒造りでは、米を口に含んで噛み、それを吐き出すことで、デンプンを分解していた。人間の唾液にもアミラーゼが含まれているため、食べ物が胃へ入っていく前からデンプンが分解される。

穀類を「発酵」させたら、次は「蒸留」させ、蒸留が終わったら樽の中で「熟成」させ、樽の中ではどのような化学反応が起こって内容液に味が染み渡っていくのか──と話は進んでいくが、最後の2章「体と脳」「二日酔い」が個人的にはいちばん興味深かった部分だ。たとえばアルコールを摂取すると起こる状況からどこかのタイミングで海馬へと移動して記憶障害を起こし、小脳にも移動し影響をあたえることで運動機能に障害が出て──と推測はできるものの、今のところアルコールが何を、どのように結合してそうなるのか、分子レベルではまるで解明されていないのだという。

二日酔い、民間療法のウソ

誰もが知りたがるのは「二日酔い」の直し方だろうが、本書には即実行できる形ではその答えは書かれていない。その代わりに、二日酔い対策のウソについては詳しくなれるだろう。たとえば、民間療法ではアルコールを分解するために水が使われ、脱水状態になることで二日酔いの諸症状──頭痛や眩暈などが発生するから、水をたくさん飲むべきだというが、本書ではこれは否定されている。

しかし二日酔いに関して言えば、電解質の濃度は対照の基準値とそれほど変わらないし、変わっている場合でも、二日酔いの程度とは相関関係がない。だからもちろん、酒を飲めば脱水状態になるが、そのせいで二日酔いになるわけではないのだ。さらに言えば、水を一杯飲んだとする。水分は補給された。果たして、これで二日酔いは治るだろうか?

僕は飲みすぎて「明日ヤバそうだな」という時は水をがぶ飲みして安心していたので信じ切っていた側だ(脱水はカバーされるから無意味ではないはずだけれども)。あと、二日酔いの原因はアルコールが肝臓で分解されてできる毒性の強いアセトアルデヒドだという説も根強いが、二日酔いの症状がもっとも重いときアセトアルデヒドの数値は低く、二日酔いの重症度とは無関係であるなど信憑性に欠ける部分がある。

現時点では、「二日酔い」については研究がはじまったのもつい最近のことであり、その原因すらもよくわかっておらず、対処法に確かなものはなにもないようだ。とはいえ、いちおう有力な原因の仮説として、炎症反応であるというのがある。たとえばトルフェナム酸という抗炎症剤を用いて実験した所、プラシーボ群とくらべて服用群は二日酔いのおもな症状のほとんどが大幅に緩和したのだという。

他にも、いくつかの薬やサプリメントが臨床試験で効果が認められている。いずれ誰でも手に入れられる形で二日酔い対策の薬が市場に放出されたら、その時人は二日酔いの恐怖なく、タガが外れたようにして酒を飲み続けるのかもしれない。二日酔いがなくなってほしいのはたしかだが、それはそれでどうなんだと思わないでもない。

おわりに

というわけで、本書ははじまりの「酵母」から人体へのアルコールの作用を論じた「体と脳」、さらには多くの人に苦い思い出がある「二日酔い」と生産工程のはじめから消費工程の終わりまでを科学的にまとめあげてみせたなかなかの良書である。

*1:まあ、日本ではもやしもんがあるから、知っている人も多いかもしれないが