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読めば絶対走りたくなる──『ランニング・サイエンス 「走る」を科学する』

ランニング・サイエンス

ランニング・サイエンス

参った。暇はぜんぜんないのだけど、読んだら思わず走りたくなってきてしまった。週末にはランニングウェアと靴を買いにいくことだろう(まあ、読む前から運動もかねて走ったりジムにいったりしようかなあと思ってはいたところなんだけど)。

というわけで本書『ランニング・サイエンス』はそのまんま書名の通りの本で、走るという現象に対していろんな角度から科学的な考察を加えた一冊である。もう、「はじめに」からテンション高めにとばしまくっているので、引用してみよう。

 人間の体は、走るために進化した。走ることは歩行とともに人間の好む移動運動であり、はるかむかしにも、人間の祖先は獲物を捕まえたり肉食動物から逃れたりするために走らなくてはならなかった。走る動きは一見、単純だ──片足をもう片足の前方に置くことで推進力を生み出す行為であり、1歩ごとに両足が地面から離れる瞬間があるという点で、歩行とは異なる。しかし人体は高等な連動装置であり、ランニングの土台になっている科学は、広範かつ複雑だ。

ランニングの土台になっている科学

たとえば、全力疾走をした後は息切れがしてしばらく回復しないわけだけれども、なぜこのような事象が発生するのだろうか? 走るのをやめたら、もうエネルギー消費は行われないわけだから、すぐに正常復帰できてもよさそうなものではないか。

これについては、まず走ったり歩いたりして体がエネルギーを消費すると、糖質や脂質の分解を促すために筋肉に酸素が供給される。低速走行なら呼吸で肺にとりこまれる空気中の酸素だけで十分間に合うので運動し続けられるが、走る速度が上がると必要な酸素量も増えて、呼吸での酸素の取り込みだけでは間に合わなくなってくる。そうすると何が起こるのかと言えば、糖質の分解が酸素なしで行われるようになる。

いわゆる無気呼吸だが、これを続けた後に運動を中止した体は相当なエネルギーを酸素なしで生み出しているので、"酸素負債"を抱えることになる。運動をやめた直後にゼーゼーと息をするのはこのためで、同時に体へと疲労が蓄積するのは無呼吸運動時に副産物として生まれた乳酸によってである。乳酸が生じると筋細胞が酸性になり、エネルギーを生むための代謝経路が抑制されることで、ランナーは減速していくのだ(そうでなければ短距離ランナーは驚異的な速度でフルマラソンを走るだろう)。

完璧な動きを求めて

走る上で完璧な動き、完璧なフォームとは一体何なのだろうか? というところも一章を用いて紹介してくれる。たとえば、短距離走の最適なスタート姿勢は? という問いには、『アスリートによって体型や筋力が異なることから、短距離種目の最適なスタート姿勢に一定の法則は存在しない』と意外な事実を提示し、持久走で最も効率的な走法は、接地時に足関節をニュートラルにしながら、回復期後半に足関節を背屈させることで、腓腹筋の伸長をきっかけに下腿後面の予備緊張を生じさせる──フォアフット着地が弾性エネルギーの再利用という点で有利であると明かしてみせる。

また、意外な事実シリーズとしては激しく腕を振っても走行速度をあげる力にはならないのだという。とはいえ、腕を振らなくていいわけではない。あらゆる作用には常に同じ大きさの反作用が逆方向に生じるというニュートンの第3法則に関連して、走行速度が上がると脚の加速がみられ、それが腕の加速につながり、体幹部の極端な回転を防ぐ質量減衰システムとして働く。もし腕を振らなかったら胴体の回転を減衰させるためにエネルギーを費やさなくてはいけないので、酸素の消費量が増えるのだ。

短距離選手の方が長距離選手よりも腕を大きく振るのは、要は脚の運動量の大きさに関連しているからなのである。

ランニングしたくなる情報シリーズ

そんなことをいくら知ったって「ぜんぜんランニングしたくならないじゃん」という人のために、もっとランニングをしたくなる情報を紹介しよう。消費カロリーからいくと、平均的な体重の男性ランナーは、1キロメートルあたり78kcal、女性は66kcalを消費できる。3k走ればだいたい200〜240kcalを消費できるわけだ。一食分がだいたい650kcalぐらいなので、毎日9km走れば一食分余分に食べてもよくなる。

ランニングは健康にいいのだろうか? 体脂肪率、コレステロール値、血圧などはいい状態を保ち、筋肉量の増加により日々の作業が楽になるのは確かだろう。15年間に5万5000人を超える対象者を分析した結果としては、長期にわたって走っている人は心血管疾患による死亡率が非ランナーの半分になるなど、複数の病気の死亡リスクが減ることはわかっている。しかし逆にハマりすぎると体を壊すイメージもあるし、実際に運動しすぎるとそれはそれでリスクが増すという結果も出ているが、運動の利益を打ち消すほどではなく、おおむね健康には利益ありといってもよさそうだ。

他にこんなことも書いてあるよ

と、一部を紹介してきたが、非常におもしろい研究事例がたくさんあるので、軽く触れてみよう。たとえば「遺伝子はランニングの能力をどの程度決めるのか?」「マラソンの記録には身体的な限界があるのか?」「サングラスをかけるとランニングのパフォーマンスが向上する?」「シューズでフォームが改善されるのか?」などなど、ランニングにまつわる知識を得るたびに(僕は)どんどん走りたくなってくる。

ただ、この本を読んでランニングを始める際にひとつ問題があるとすれば、出費が重なりそうなことだろう。良いシューズを買いたくなるし、ランニングウェアもきちんと効果の出るものを買ってしまうだろうし、サングラスまで(『UV効果と衝撃からの保護効果に、着色レンズを通しての視力の強化を足せば、欠くことのできないギアができあがる。目をリラックスさせるとよいパフォーマンスができることは、広く認められている。』)買いたくなるに違いないのだから。