基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

機械獣が跋扈する世界を思う存分冒険する──『Horizon Zero Dawn』

Horizon Zero Dawn 通常版 - PS4

Horizon Zero Dawn 通常版 - PS4

『Horizon Zero Dawn』はこれまで『KILLZONE』などのFPSタイトルを開発してきたゲリラゲームズが新たにオープンワールドに挑んだ大作である──などという前提情報/開発会社がどうとか以前に、2015年のE3で公開された、広大な自然を機械の獣たちが歩き回り、人間の文明は矢と槍で戦うレベルまで退行してしまっているポストアポカリプスな世界観とグラフィックに一瞬で惚れ込んでしまった僕である。
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とはいえいきなりオープンワールドに挑戦して傑作がつくれるわけでも……と思っていたけれども、これが嬉しい誤算で大変レベルの高い一品である。サブクエは残っているが、一旦メインストーリーをクリアしたので総評をあげておくことにする。

簡単に総評

まず、ゲリラゲームズは相当他のオープンワールドゲームをうまくパクったなと思った。たとえばしっかりとしたキャラクタ性を持つ主人公を立て、世界の行末を左右する物語に投入する流れやゲームシステムはウィッチャー3を彷彿とさせる。世界や機械を乗りこなすシステムはFar cryを。そうやってオープンワールドのシステムをパクりながら、それを統合するグラフィック(やUI)は文句なしの出来栄えで、砂漠、サバンナ、豪雪とそれぞれまったく違った素晴らしい風景をみせてくれる。

一ヶ月ぐらいかけてちまちまストーリー進めるかな……と思って手を出したら一週間で30時間ぐらいかけて無心でプレイしてしまうぐらいには続きが気になるシナリオで、サイドクエストや世界観構築もよく出来ている。いくらか不満点もあるが、基本的には独自の世界観をガッツリと示した、大満足な大作ゲームといったところだ。

シナリオ、世界観について

1000年後の未来を舞台にし、豊かな自然、その中を我が物顔で歩き回り人間を襲いまくる機械の獣たち。さまざまな習慣、文化を持つ部族が点在する人類の勢力が均衡している──という世界観がまず素晴らしい。いったいなぜ世界はこのような状態になったのか? という大きな謎は物語開始地点では誰も知らないが(疑問にすら思わない)物語が進む度に過去に起こった"厄災"の真実が判明していくことになる。

主人公となる女性のアーロイはたくましく、自分の何十倍も大きい機械獣たちを相手に飛び回り跳ね回り罠を仕掛けさまざまな矢を放ち殺しまくる! 親がおらず、異端児として部族から爪弾きにされて育った彼女は、自分の母親は誰なのか、ルーツはどこにあるのかを辿るため(と諸々の事情によって)旅に出る。個人的な探求の旅と世界に何があったのかを探る冒険は道を同じくし、ストーリーの訴求力はかなり高い。

オープンワールドといえば自身の選択によって世界の命運が変わる物も多いが、本作はルート分岐はない分アーロイの物語としてしっかりと完結させている。ラストバトルに至るまでの流れは、大作オープンワールドゲームだったらこれぐらいはやってもらいたい! という水準を超えている派手なものなのでお楽しみに。

バトルについて

嬉しかったのが、バトルが大変におもしろいところである。R1で弱槍攻撃、R2で強槍攻撃、L2で弓の照準と動作自体は非常に単純ながらも、使える飛び道具の数が多い。長弓、短距離弓、そのそれぞれに属性矢、爆裂矢、必中矢などの特殊な矢が選択できる。ロープキャスター(獣を地面に縛り付ける)や、トラップも複数あり、「これ……無理じゃね……??」みたいな超デカ物を相手にいろいろな戦い方ができる。

普通に矢を打ってたら一発でHPの増減がわからないレベルでしか減らせない大物も(最初、倒し方がわからなくて相手が追ってくるマップギリギリのところに陣取って40分ぐらい矢を打ち続けて倒した)、倒し方がわかってしまえば新しい武器やレベル上げなどをしなくても1分程度で処理できたりする。特にトラップは適切に扱えばとても強く、普通だったら倒せない相手をサクッと倒せるのがきもちい。

レベルによって上がるのは基礎体力とスキルポイントで、スキルは戦闘を便利にするもの(矢を狙う時の時間の流れを遅くしたり)も多いが基本的に重要なのはプレイヤースキルの向上、敵の行動パターンと弱点の分析である。そのためプレイするうちにどんどんうまくなって効率的に機械の群れが倒せるようになっていく快感がある。

機械獣をハックして乗り物にできたりするシステムもあるのだけど、この作り込みはいまいちに感じた。全25種の機械獣のうち乗れるのは3種類ぐらいだけで、あとのはハックは出来るものの、ペットのように連れ回したりは不可能なので物足りない(ハックした場所で勝手に戦ってくれることはあるけど)。結局すぐ足りなくなる素材を集めるためにもほとんど機械獣のハックを使うことはなく徒歩で移動していた。

サイドクエストとか

サイドクエストのシナリオもめっぽうしっかりしていて、ボリュームも多い(一個30分〜1時間ぐらいか)。ただ、僕の中でのサイドクエストの到達点は今は『ウィッチャー3』になっているので、そこまでの作り込みではない、という感じか。総じて世界の背景を感じさせる内容のクエストが多いのは素晴らしい点。

機械獣について

全25種と聞くと相当少なく感じられる。実際そのうちの何体かはボス格でほとんど出くわすことがないことを考えると、フィールドを歩いていて出くわすのはおなじみの数体のみで新鮮味が感じられない──というマイナス点はある。

ただ一体一体のデザインは異常に優れているし、それぞれに部位の概念があって部位ごとに破壊判定があったりするので、これはそうしたトレードオフの結果なのだろう。こちらの行動の先読みまでする高度なAIや、実在の動物の行動を模倣したリアル感もあいまって実に魅力的にこの世界を彩ってくれている。

次回作に期待。

と、たいへん楽しんだのだけど、なんというか現世代のオープンワールドゲーの良いとこを詰め込んでみましたみたいな作品なので良くも悪くもその限界も露呈しまっているように感じた。それもこれもゼルダの"オープンエア"を横目にゲームをしていたせいだとは思うが、バトル・アクションもマップの移動も、まだまだ"自由"とは程遠いなという感じで、次はもっと進化したオープンワールドを遊んでみたいものだ。

今回はシナリオは素晴らしいとは言え、選択肢が物語に分岐を与えたりと言った要素がほとんどないし、機械獣についてもまだやれるべきことは多くありそうだしで進化の余地はまだ残っている。新規IPの立ち上げとしては抜群にうまくいったとおもうので、このままゲリラゲームズにはこの路線で次をつくってもらいたいものだ。

圧倒的な情景/ゲーム体験を描き出す──『GRAVITY DAZE 2』

GRAVITY DAZE 2 初回限定版 - PS4

GRAVITY DAZE 2 初回限定版 - PS4

GRAVITY DAZE 2をようやく一通り終えたので感想を書いておこう。

総括的感想

まずメインストーリーをクリアした時点での感想は、1で明らかに「つづく」とついてしまった疑問が残りまくりのストーリーがあらたか解決し、完結篇にふさわしい最終戦のなかなかの爽快感/エンディングに向けての演出も相まって、いやあ良いゲームだったなあという深い満足感がやってくる、良質なゲーム作品といったところだ。

「重力」を操作できる少女が主人公となって、建物のあらゆる位置が「地面」になる。そうした単純な発想がゲーム・プレイとして構築されると、ただ街中を飛び回っていろんな角度から街を眺めるのが本当に愉快になってしまう。そうした楽しさは1の時点で充分に実感していたが、今回は最初からPS4ということで(1は最初vita)、そのパワーを活かして圧倒的な情景を魅せてくれる。全体的にアートワークが素晴らしく、ただ移動しているだけの場面でも思わずスクショを撮ってしまうほどだ。
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街を移動しているときに反応を返してくれるNPCの反応も多彩で、最初大きな街へと辿り着いたときも「うわああーすごーい!」と感動して意味もなく練り歩いてしまうぐらいに、楽しく作り込まれている。いっぽう、ストーリーは敵の動機や行動が単純で、秘められている謎も「そうなんだ〜」ぐらいのもんで抜群に優れているというわけではない。まあ、世界観それ自体が充分に特殊なので(重力使いの存在、重力を操れる物質が回す経済、空中に浮かぶ都市)そこまで複雑にしなくても良いだろう。

基本的には「2」とついているように、前作から話が繋がっているので未プレイ者は気をつけておいたほうが良い。が、ゲームプレイの爽快度としては2の方が圧倒的に上だし、繋がりのよくわからんキャラがいても気にならければ2から始めてもいい。

前作との違い、不満点について

まずバトルシステムについて。通常攻撃、空中浮遊状態でのキック、重力クラブ(周囲のものを浮かして敵にぶつける)、回避動作などの基本操作はそのまま。前作では重力キックが強すぎて、敵の弱点付近まで飛んでいって重力キックでボコボコにするだけだったが今作ではオブジェクトの数が多くなっており、重力クラブが強い。

飛ばせるものを探して敵からかなり遠く離れた場所をウロウロし、相手に投げつけるだけなのでノーダメージでらくらく相手が倒せるのもゲーム下手にとっては良い。これが制限される戦い(周囲に飛ばせる物が何もない)も多いし、良調整に感じた。相変わらず回避など使わなくても問題ないのは難点か。

個人的には、前作も含めてバトル・システムがおもしろいとは思えない。基本は同じことの繰り返し。重力移動で敵を倒すとなると最悪なカメラワークも含めてごたごたして思い通りにいかないし(敵にキックしてもスルッとすり抜けてしまう)、制限された空間でちまちまと戦わないといけないのはダルい。とはいえ"飛ぶ"ことの優位性が発揮される巨大なボス達との戦いは楽しく、今作ではその点が充分活かされている。

恐らくは前作の単調なバトルを嫌って導入されたフォームチェンジの概念(フォームを変えることでフォーム固有技や異なる挙動を操れるようになる)はおもしろいなと思うところもあるけれどもいろいろ微妙。ストーリー上理由もわからずそのフォームを用いるよう強制されるのも不快だし、フォームが揃うのは後半なのでストーリー上使える範囲があまり多くない。ただ操作感が変わるのは楽しいし、組み合わせ次第でコンボも発生するしで、あらたに追加されてよかった機能ではある。

今回1と2で完結したのはあくまでも重力姫であるキトゥンの物語であるという位置付けなので、また別の形での新シリーズは立ち上げ可能だと思うのだけど、その際はバトルシステムは一新してほしいなあと思うのであった。他、カメラモードやオンライン要素の充実、サイドミッションの質の向上などいろいろあるけれども概ね良かった。やりこみ要素がタリスマン集めなどで増えているのも良い。

特殊な実装がいっぱい

プレイしていて驚いたのが、エピソード毎に特殊な実装がめっぽうあることで、コストかけてんな〜と思った。スニーキングミッションみたいなのもあるし(これは正直おもしろくない)、終盤ではパズルもあるし(これも何のためにあるのか謎)、ほんの少ししか使われない特殊キャラクタの操作がきちんと実装されているのも凄い。

これも結局は「ネヴィ(作中の敵)」があらわれた! 倒せ! というミッションばかりになるのを嫌って(戦闘も単調だし)こういう実装を入れているのだとは思うけれども、いきなりパズルなんかやらされたって戸惑うだけだし(ウリである重力も一切使えない)成功しているとは言い難いものが多い。自由に空中を飛翔する快感と、ミッションに存在する制約の兼ね合いが難しいのだろう。ただ「ネヴィが!(ry」ばかりになるのも最悪なので、成功でも失敗でもないと言ったところか。

おわりに

いろいろと文句も書いたけれども、他では味わえない素晴らしい体験をできるゲームであることは確かだ。メインストーリーだけなら20時間かかるかかからないかぐらいで終わるのも、忙しい人にはありがたいだろう。また別の物語をプレイしてみたいものだ。次はゼルダ──じゃなくてひとまず『Horizon Zero Dawn』と『ニーア オートマタ』をやるぞ! どちらも評判が良いのでめちゃくちゃ楽しみです。

Horizon Zero Dawn 通常版 - PS4

Horizon Zero Dawn 通常版 - PS4

ざっくりと一回クリアしての感想──『ペルソナ5』

ペルソナ5 - PS4

ペルソナ5 - PS4

「よーしやりこむぞー!!」と発売を楽しみに待っていたわけではなかったんだけど、いざやり始めてみたらあまりに楽しすぎた。結局、土日月の連休を注ぎ込んで、さらに翌日仕事から速攻で家に帰ってきて一周クリアしてしまった。ボリュームは急がず普通にやって55時間ぐらいだったかな(睡眠時間をどんだけ削ったのやら)。

それぐらいガッツリやってしまうわけだから、まず大変におもしろく、細部まで創り込まれたゲームであった。この記事ではレビューというよりかは、ざっとプレイしての感想を述べることにする。公式が禁止しているように、ネタバレをする気はない。

プレイ前の不安だったところ

最初に「よーしやりこむぞーー!!」となっていなかったのは、不安点が幾つかあったからだ。まず、3と4をプレイした際に、「自動生成ダンジョン探索」と「コマンドバトル」に対して完全に飽きてしまっていたという個人的な理由がある。オープンワールド作品も増え、ウィッチャー3など魅力的なARPGを近年プレイしてきて、携帯ゲーム機ならともかく(ペルソナQもおもしろかった)、いまさらプレステ4でコマンドバトルっすかぁ……と、だいぶやる気が削がれてしまったのだ。

同時に、4は3にあったダンジョン/戦闘システムなどあらゆる点が洗練され、「田舎」を舞台にしたからこその魅力的なキャラクタにテーマ、日常に潜む連続殺人鬼、「絆」を否定する敵役と、総決算ともいえるような内容だっただけに「これを超えるのは厳しいだろうなあ」と思っていた。今作では「都会」を舞台に、主人公たちは「心の怪盗団」を名乗る一種の義賊なわけだけれども、そこに前作以上の"都会である意味"や"悪党どもをプレイヤーキャラにする意味"がこめられるのか? と。

事前に公開されていたストーリー情報や、アニメの一話をみてもツッコミどころばかり頭に思い浮かんできて不安が募っていたのである。

プレイ前の不安だったところは解消されたのか? 戦闘/ダンジョン篇

そうした不安が解消されたのかといえば、ほぼほぼすべてが解消されている。

まずコマンドバトルがだりいなあ……と思っていた点については、十字キイで敵選択後に○(通常攻撃)や△(スキル選択)を押して決定する方式に変わったことでコマンド入力の手間が前作よりも一段階省略された上に、味方の動きをお任せできるようになったので実質手間は4分の1以下になっている。動作も早く弱点をつけば戦闘も一瞬で終わるのでコマンドバトルであることをあまり意識させないレベルだ。

ダンジョン探索については、メインストーリーでは自動生成ダンジョン探索が排除されたのが最高に嬉しかった。そのかわりに、各ダンジョンは固定マップ化し、それぞれのダンジョン特有の謎解きや敵の回避方法など様々な手段を用いて進んでいく。その気になれば戦闘も大部分避けられるのだ。謎解きも理不尽なものはなく、少し考えればわかるものばかり。難易度の高い謎解きでない代わりに、思考を要するポイントを数多くつくっているのも次々とパズルを解き明かしていくようで爽快感が高い。

露骨なヒントではなく、道順や制限によって次に行く場所がわかるようになっているダンジョンデザインには感動させられた。新マップでは必ずといっていいほど「あそこがゴールだ」と提示され、よくわからずとも直感的に進んでいくと、なんとなく前(ゴール)に進める優しさがある。とまあ、今作は戦闘/ダンジョンシステムについては新しい路線で素晴らしい成果を残したのではないか。

キャラクタについて

キャラクタについて。人にもよるだろうが、メインキャラクタの魅力は4よりは落ちると思う。とはいえ、職業的/使命的に集まり、やたらと重い過去か重圧がある仲間が揃っているペルソナ3と、基本的には重い重圧も過去もなく、愉快で楽しい日常をおくるペルソナ4の中間ぐらいで、前2作とはまた違った味が楽しめて素晴らしい。

何より、サブキャラ陣は圧倒的に5の方が魅力的で、女性キャラを筆頭に有用な報酬がなくとも上げたくなる。これは今作のテーマ上、「信念があるが故に、変化を嫌う人々から疎外されてしまった(しまう)はみだし者たち」が集まっていることや(必然的に大人が多いし、社会人としては心に響く)、コミュではなく"協力者(Cooperation )"だからこそ、怪盗団へと密接に関わってくることも関係しているだろう。

あと、絆を上げるのにこれまでとは違ってダンジョンに潜る必要があるのも(この理由付けの処理もまたうまい)、「サブキャラの掘り下げ」と「ダンジョン探索」で完全に分離しがちだった前作までをうまくアップデートしている。デザインからして抜群に魅力的なので、公式サイトで、イラストだけでもみてもらいたいものだ。
persona5.jp

ストーリーについて

最後にストーリーについて。事前に判明していた、傍若無人に生徒を虐げる教師や盗作上等のクリエイターという「巧妙に細工をすることで、法で裁かれない悪党」を「認知上の世界であるパレス(異世界)で改心させる」「改心させられた相手は自分の罪を自白し悔い改めるようになる」というストーリーから必然的に思い浮かぶ幾つかの疑問や懸念点について、ちゃんと議論や問題になっていくので安心した。

東京を舞台にしたことの必然性も無数に用意されているし、デザイン面で「こういう風に都会の風景を取り込んだのか」と感心するところも多い。認知世界(パレス)ネタについてはもっと掘り下げられたんじゃないかというきもするけれども、ここを深く堀りすぎるとSFになってしまうかな。肝心の敵役については「そう来たか」という感じで、これもまた東京が舞台であることの必然性に絡んでいるし、大満足の内容。

終盤のヒキが4以上に強いので、寝る前に突入するとやめるにやめられず徹夜するハメになるだろう。ペルソナ3,4ファンには嬉しすぎる演出もあり──と、語りたいことはいっぱいあるがどうしてもネタバレになってしまうのでこのへんでおわり!

おわりに

総じてゲームをプレイする際のストレスを極限まで減らし、快楽を追求した良作に仕上がっている。もともと早いテンポで物語やキャラの関係性が進展し、次にやることがいつだって明確であるがゆえにやめどきがわからないシリーズであったが、今作ではそれがより追求されもう脳みそを直接掴まれたのかというぐらいにやめられない。ほんと、楽しませてもらいました。ありがとう、ありがとう<開発者さま

余談。日常に潜む殺人鬼とのバトル(ペルソナ4)、悪党どもの話(ペルソナ5)というのはジョジョの4部と5部みたいだなあと思った。

『エルフの血脈』と『ウィッチャー3 ワイルドハント』

ウィッチャー3 ワイルドハント

ウィッチャー3 ワイルドハント

huyukiitoichi.hatenadiary.jp
↑の記事で僕が今年PS4を買ってからやった大作ゲームの数々について軽く触れたが、『ウィッチャー3 ワイルドハント』はその中でも「もっとも、世界の命運を自分が左右しているんだ」と実感させられたゲームであった。

ウィッチャーシリーズはエルフやドワーフが存在する架空の世界を舞台にしたファンタジック超大作ゲームだ。プレイヤーは身体を変異させ特殊な霊薬を扱えるようになった魔法剣士(ルビ:ウィッチャー)ゲラルトとなって世界を旅して周り、困っている人を助けたり、人間に危害を加える人狼などのクリーチャーが出たら退治に向かう。国家同士の闘いには基本的に参加せず、その政治的姿勢はあくまでも中立を保つ。

しかし、ゲラルトさんは特別な血を引き、制御出来ない強大な力を持った、娘にも等しいシリを追いかけて諸国を巡っていくうちに、世界の命運を左右しかねない様々な陰謀や敵と遭遇してしまう。ゲラルトとなり世界を駆け巡るプレイヤーは、シリを必死でおいかける一方ゲーム内ゲームであるトレーディングカードゲームで全国大会に出場し熱戦を繰り広げたり、時には武闘大会に出場して王者! 熊! と遭遇し「マジかよ……」と唖然としながら殴りあうギャグみたいな日常を過ごしていく。

サイドクエストの面白さ

ある冒険をしている最中、ゲラルトは、皇帝を暗殺しよう、あいつがいるとろくなことにならねえ、と暗殺計画に誘われる。それはシリを守るという一本筋の通ったストーリー外にあることだから、メインクエストではない。つまり、プレイヤーはそのサイドクエストを受けるか否かの選択肢を委ねられている。皇帝暗殺が成功すれば、当然ながら世界の命運は大きく変わるだろう。僕は迷わずに「よし! あのむかつくハゲ(皇帝はハゲ)前からウゼエと思ってたからぶち殺すぞーーー!!」とテンションが爆上がりしてシリを守るのもそっちのけでハゲをぶち殺しにいった。

このような、「世界の命運を一変させるような選択肢」がメインクエストとは別にそこら中に仕掛けられている。当然、メインクエストでこそないものの起こっていることは重大なものだから、そのテキスト、セリフ回し、どれ一つとってもメインクエストに引けをとらないぐらいねりこまれている。そうした選択肢を一つ一つ自分の手で選択し、このウィッチャー世界の歴史に関与していくことで、本当の意味で自分がこの世界の住民としてロールプレイングをしている感覚が育ってくる。

この世界に、自分がたしかに影響を与えているのだ! という確かな手応えだ。それは単なる「プレイヤーに選択を委ねる」だけで達成されていることではない。決断をして、計画を練って、おびき寄せたり後ろから襲ったり、そうしたことを一回一回やりながら、その後に何が起こったのかという膨大なストーリー、変わっていく国家や人物関係を見ることによって、下した決断は実感に変わっていくのだ。

メインクエストの方も、最初こそその辺の村で人狼を殺したり、デカイ鳥をぶっ殺しているだけだが──次第に、次元を超えて複数の世界が存在する世界観故に、異界からの攻撃者を自世界の精鋭をかき集めて防衛する展開など、かなり燃える「多世界大戦」に発展していくのが熱い。僕はこういう、「物凄く困難なミッションを達成するために各地から曲者だが腕は立つ仲間を集めてくる」展開が大好きなんだよな。

ちなみに、3とついているが、いきなりウィッチャー3からやってもめっちゃ面白かったので特に問題ない。前作の話は全く何の脈絡なくぶっこまれてくるけど、ゲーム内で見れる資料集が充実した内容なのでそれを読めば完全に補完できるからだ。

原作小説の話

エルフの血脈 (魔法剣士ゲラルト)

エルフの血脈 (魔法剣士ゲラルト)

  • 作者: アンドレイ・サプコフスキ,吉岡愛理,川野靖子,天沼春樹
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/05/30
  • メディア: 文庫
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このゲーム、原作小説が存在する。短篇集があるのと、〈ウィッチャーサーガ〉5部作として、『エルフの血脈』、他4作が存在するのだ。だがしかし、『エルフの血脈』が出たのが2010年の事なので、もう5年も続きは出ていない……つまるところ完全に企画凍結状態である。もっとも、ゲームが評価されたことで再始動がかかるかもしれないが──、それもちょっとどうだろうかな……。ゲームはこれで完結で、これ以上の話題が出てくるかどうかは微妙だしな……(映画化があるかな?)。

だからせめてもの後押しでここで紹介しておきたい。原作小説の方もめちゃくちゃ面白いのだ。魔法の背景の作り込み、エルフとドワーフや人間が入り乱れながら、「種族間で友好な期間がけっこう長いことあった」という世界設定。それが今、分裂の危機を迎え、人間同士でも国家間の戦争がはじまろうとしている、その中心にはもちろん特別な力を持ったシリがいて──と展開自体はゲームとは異なるものの、ここは間違いなくプレイヤーがゲラルトとなって駆け巡ったあの世界である。

ゲームもそうだが、小説でも女性陣がとても魅力的だ。まず女性陣はほとんどが魔法使いで、めちゃくちゃ強い。隕石みたいな火球を落としたり、洗脳、門を出して転移するなどだいたい何でもできる。それだけの強大な力を持つがゆえに、ウィッチャーと同じく世間からは忌避され、迫害を受けている──が、生き残るために独立心は旺盛で、みなそれぞれの覚悟と決断でもって、自分の人生を選択してみせる。時にそれは中立を是とするウィッチャーらと対立するが、そうこなくっては面白くない。

「おれたちは魔法剣士だ、トリス。わからないのか?」
「何をわかれというの?」トリスは髪を払いのけた。「すべてははっきりしてるわ。あなたたちは世界に対して、ひとつの姿勢を取ることを選んだ。あなたたちは"この世がいつこなごなになってもおかしくない"と思ってる。でも、わたしはそうは思わない。そこがわたしたちの違いよ」
「そこだけの違いとは思えない」
「世界が崩壊しつつあるわ。何もせず、傍観することもできる。でも、あらがうこともできる」

小説でもそうだし、ゲームでも少女として守られる存在であるシリもまた、自分なりのプライドを持った強き存在だ。基本は高貴な血を引く存在だが、荒くれ者のウィッチャーらと過ごしたせいでナメられたり行動を抑制されたりするとブチ切れそうになる。身体をボコボコにされながら魔法剣士流の特訓を受け、一流の魔法使いから厳しい魔法の手ほどきも受け、と心技体にわたって、自分自身を洗練させていく。

こうした訓練の過程(振り子を躱す訓練であったり、魔法の講義であったり)の描写や、特にゲームでその真価が発揮される「この世界特有のモンスターが持つ、独特の生体」、どのような周期で巣に戻るのか、どのようにつがい、増えるのか、何が弱点なのかといった設定は詳細で、この世界に一層の奥行きを与えている。怪物殺しを依頼されたゲラルトさんはまずその豊富な知識と調査によって敵がどんな種族でどんな修正を持ったやつなのかを推定して、その弱点を探るところから始めるんだよね。

ゲームだけでもこの膨大な世界設定に触れることはできるが、小説では整理された状態で出てくるので把握しやすいだろう。何より、ゲームとはまた異なるストーリーを読むことができる。ゲームをプレイした人にはもちろん、ゲームをプレイしたことがない人にもファンタジー小説として是非オススメしたいところである(続きが! 続きが出てねえんだけどな!)。ぼかぁ我慢できないから英語で読むよ。

The Last of Us Remastered

The Last of Us Remastered

The Last of Us Remastered

いやーこれは凄く面白いゲームだった。

アメリカを舞台にし、噛むことで感染する寄生菌に侵された人々(ゾンビという言葉はゲーム本編で出なかったけど、まあゾンビですな)や、略奪を繰り返し生きる荒くれ者共と闘いながら、今のところ唯一見つかっている「免疫を持つ少女」エリーを護衛して50過ぎのヒゲのおっさんが奮闘するサバイバルアクションだ。

2013年に出たゲームなので、今更詳しく紹介するようなものでもないけれども、最近メタルギアソリッド5目当てにPS4を買ったのと、スゴ本ブログのダインさん*1にも熱烈にオススメされていた本作を買ってプレイしたのだった。追加エピソードである(プレイ時間3〜4時間)DLCも同梱されたリマスター版が2014年に出たのもあって、悪くないタイミングではある(本編をクリアしたら絶対やりたくなると思う)。

自分自身が操作をするキャラクタが美麗なグラフィックや作りこまれた「荒廃した町並み」を歩いて行くことで、敵対する人間や動物、ゾンビ共がわらわらと集まって、建物がガンガン崩壊していく様子はさながら映画の中の登場人物を自由自在に操ることのできるような快感が「自然に」体感できるゲームであった。

「自然に」とはいっても、明確にルートは規定され基本的には何も考えずに行ける場所へ歩いて行くと次の目的地へとたどり着いているタイプなので、「自由自在に操れる」わけではないのだけれども、実感としてはそう感じるゲームなのだ。錆びれた車がそこら中に転がっているハイウェイを歩く快感。放置されてびっしりと苔やら謎の草やらに覆われたホテルをゾンビがいないかどきどきしながら探検する興奮。

僕が据え置き型のゲームをやったのがPS2以後初めてだったからかもしれないが、「景色をみて、歩きまわっているだけで楽しい」とゲームで感じられるのは単純にそれ自体が驚きだった(MGS5も同様)。下記SSなど、廃墟好きにはたまらんでしょう。
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特に↑のハイウェイのシーンは魅力的。無意味にぐるぐると歩きまわってしまう。

ゲームシステム的な部分

派手にドンパチをするゲームなのではなく、あくまでも聞き耳をたてて敵の居場所を把握しながら見つからないようにして進んでいくゲームであることも「雰囲気を堪能」することに一役買っているように思う。それはゲームシステムの細やかな部分にまで及んでいて、たとえばリロードにまるで現実の銃に弾を装填しているかの如く時間がかかること。ゾンビをなぎ倒すのではなく、一匹ずつ着実に仕留めていかなければならないこと。弾薬や治療剤が限られており、家や街などそこらじゅうを探索して弾薬をかき集めることなどなど映画的な演出に寄せているということなのだろう。

十全に弾薬を集めて回ったなら正面から撃ち殺していってもいいし、逆に弾薬が少ないのであれば逃げ隠れながら前に進んでもいい。難易度にもよるが資源が足りない、危うい時が多いので「この敵は弾を使わずにこっそり殴り殺したほうがいいかな?」「こいつはちょっと距離が遠くて殴り殺すことは出来ないから仕方ないが撃ち殺すか」と一人の敵ごとにどう攻略するのかの自由度が資源・弾薬探索のリスクとリターンに繋がっていて、常に幾つかの戦術から最善の一手を選んでいく緊張感が途絶えないのもゲームシステム的に素晴らしい部分だ。

ストーリーとか

ストーリーはどこかを目指して、その途中で何者かに襲われたり、一時的に共闘をはったりするパターンがほとんどなのだが、雰囲気的にはウォーキング・デッドとかに近いかな。基本的にはエリーを先導しながら、かつて同じぐらいの年齢の子を失ったジョエルをメインコントローラとして進んでいくわけだけれども、これが単純に「プレイヤーの足手まといを延々と護衛する」わけではない。パートナーは敵に発見されないしそれどころかプレイヤを助けるように積極的に敵の殲滅に加担してくれるということもあるが、それ以上にこれは歳の離れた二人の成長活劇なのだよなあ。

なのでエリーは「護衛対象」なのではなく、ダブル主人公の一人と捉えたほうがわかりやすい。ジョエルもまた完璧超人ではなく、しょっちゅうやられるし、過去に大きく失われたものがある。二人の関係性はまるで循環する円のようなものだ。お互いがお互いを支えあっている。物語的にはしかし、綺麗に円環をつくっておわるのではなくどちらかといえばラストは大きく解釈が分かれ、「違和感」が残るようにもなっているのもまた魅力的である。閉じず、開けているのだ。

2013年のゲームに対してそんな今更書く必要があるのかと疑問に思いながらもついつい面白かったので書いてしまった。総プレイ時間12時間(DLC込みかな?)で、これぐらいでクリア出来たほうが人生に優しいのも個人的には嬉しかった(何十時間もプレイしたい人にも、引き継ぎ要素やマルチプレイ、各難易度もあるので楽しめるかと。)PS4、メタルギアも最高に面白かったし今のところ大満足である。

PS4では次のゲームは何も手に入れてないので「これ面白いよ」とかあったらコメントなりTwitterなりで教えていただければ嬉しいです(やるかどうかは別だけど)。

ここからネタバレ

エリーもまたheroであることは製作者インタビューでも同様のことをいっている。14歳の少女はヒーローになる。彼女は彼を救うのと同時に、本質的に彼の人生を取り戻したのだ。『The 14-year-old girl becomes the hero. She’s the one saving him and essentially bringing him back to life. That was our earliest intention for those characters and their arcs. 』
venturebeat.com
このインタビューではエリーラストのOkayについては『I don’t know if it’s fair to give a final interpretation of what that last “Okay” means. But there is a pointed intention there for her.』ラストのOkayの決定的な解釈は知らないけど、でもそれは彼女にとって意思決定上のポイントだったみたいなことをいっている。このラストの解釈については、多少書いておこうか。人のやつを2,3記事読んだけれども僕がゲームをやっていた時に考えていたことはなかったので。

1.エリーの本質的な恐怖は「最後の一人になること」である。
彼女の前で感染させられていった各人を上げた時にジョエルは次のようにいうが
「どれもお前のせいじゃない」
「そういうことじゃないの」
というように、自分のせいだと気に病んでいるのではなく単純に自分には免疫があるのだから(今のところ一人だけ)ずっとこのまま待っていたらジョエルにも親しくなった人にもみんなサヨナラをして一人ぼっちになるのではないかとするエリーの根源的な恐怖はゲーム本編を通して結局解消されることはなかった。※完全に安全な状況はなく、感染の恐怖は消えていない。

2.「俺はな 生きるためにずっと戦ってきた お前も何があっても戦う目的を見つけなきゃダメなんだ」「わかった」
戦う目的を見つけなきゃダメなんだというが、彼にとっては「エリーの為」が明確である一方エリーの目的が何なのかは特に明言されない。それはジョエルとずっと一緒にいることではなさそうだ。もちろん大切には思っているのだろうし、危機には身を犠牲にしてでも助けにいくことは実証済みであるが。目的は「最後の一人になってしまう」という解決されていない本質的な恐怖の解決、及びそれを解消し多くの人が感染の恐怖から逃れられる状況というのが僕の解釈である。

「戦う目的を〜」の台詞の直後に「誓ってよ! ファイアフライについてさっき言ってたことは本当だって誓って」とエリーが問い詰めているのは、これがまずはすべての始まりとなりえるからだろう。自分以外に免疫持ちがいるのであれば、彼女の「最後の一人になってしまう」恐怖は幾分か紛れるはずだ。その上で感染解消のためのあらたな活動のきっかけになりえる。まあ、あからさまなウソであったからあの「誓うよ」をほんとに信じるかどうかがそもそも怪しいけれども。

続編があるとしたらエリーが自分自身の意志でもって自分以外の免疫持ちを探しに行く、あるいは治療法を得るための旅に出る物語になるんじゃないかと予測。その場合ジョエル自身の物語は終わってしまっている*2から降板になりそうだし、別のおっさんがエリーの相棒になったりしたら反発を招きそうだからどうするのか気になるが。

*1:妻の『The Last of Us』の解釈が秀逸すぎる: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

*2:取り戻せないものを取り戻す。彼は既に生きる目的を得て、「父親的存在として彼はどこまで出来るのか」というテーマでも「世界を敵に回す」「最愛の存在にウソをつき通す」と物理的・精神両面で極まった場所までいってしまったから

Sakura Spirit

 海外で制作されたノベルゲー 塗りなどが完全にジャパニーズエロゲー、それどころか物語も思春期真っ盛りの柔道家の17歳が自室で語り始めるというまったくもって由緒正しきエロゲーである。お色気シーンはあるがエロシーンはないのでエロゲーではないが。Steamで買えてMacでもできる上に、セール中で7ドル程度だったので買ってプレイしてみたのだが、面白かった(物語はつまらない。立ち絵の表現やついに日本以外でこんなものが出るようになったのかというギャップが面白いわけだ。)。今は英語版しかないが日本語版もいずれ出るとかなんとか。どこで読んだか忘れた。ただ英語はかなり簡単なので高校生でも単語の7−8割は読めるぐらい。分量もそう多くはなくさくさく読めば3〜5時間程度で終わるだろう。

 主人公の名前はGushiken Takahiroで柔道家。なんかありきたりな苗字を使いたくなくて変な所からとってきましたみたいな微妙なチョイスだ。2週間後に大事な柔道の大会を控えているが、ものすごい勢いでナーバスになっているのだという独白、そして自室に先輩のKoyomiが学校にいこうと呼びにくるところから物語ははじまる。しかも着替えているところに遭遇して顔を真赤にさせるとか、学校に伝わる伝説の一つに森のなかに存在する聖堂に祈りを捧げると願い事が叶うとか……うわあ……なんか、コテコテやなあ……。その後Takahiroの友人ポジションのメガネ男が出てきたりJudo少女が出てきたりラッキースケベがあったりとどこまでもコテコテな感じで続いていく。
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 願い事が叶うという聖堂(つーか神社か寺のような)にTakahiroは向かうことになる。というのも彼はさっき書いたようにもうすぐ柔道の大事な試合がひかえているのになんだかとっても不安で不安で仕方がないのだ。それで神社へお祈りにいこうというのもスポーツマンとしてどうなんだと思わないでもないが、しかし神社にいざついてみたらそこには角の生えた悪魔のような女の子がいて──。ふと意識を失って起き上がってみればそこはなんと獣耳少女がいる世界に変貌していた! なんてこった!
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 このくだらない唐突さまで含めてジャパニーズエロゲー。その後なんやかんやあって獣耳たちと人間の間に立って中をとりもったり、2週間後の大会のためになんとか元いた世界に戻ろうとする。話は無茶苦茶だし面白くないが絵のクォリティはスゴイし差分で枚数を水増しするようなこともなくCGが豪勢に描かれているしエロい。謎の衣装や日本建築っぽいけどなんか違うような気がする背景までふくめてズレっぷりも面白い。あんまり英語でこういうのを読んだことがないので表現も面白かったりする。Tundere Tyrantとか。
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※完全にそういうお店で出てくるような、パンツがまるで隠せそうにない謎の着物

 話自体は非常にコンパクトですぐに終わってしまうのだけど、物珍しさだけで最後まで読める。最後までやるとこれはプロローグでまだ話の続きがあるよといって終わるので、まだまだ続きが出るのだろう。あと海外でこれが当たり前になったら日本の優位性が〜みたいなことをいう人もいるが、これがちゃんとウケるんなら日本もガシガシ英訳していけばいいんじゃないかな。支倉凍砂さんシナリオの同人ゲー最高の効率で、最高の金儲けを『WORLD END ECONOMiCA』 by Spicy Tails - 基本読書 は同人ゲーながらも(たぶん)赤字垂れ流しで台湾版や英語版をつくっているが、ちゃんとした市場があるのはいいことだ。

 購入はSteamで。他の入手方法があるのかはわからん。Steam で 25% オフ:Sakura Spirit

ROBOTICS;NOTES ELITE

 VITA版が出たので早速プレイ。巨大人型ロボット……そのほとんどはアニメや漫画での活躍ではあるけれども、魅力にとり憑かれた人も多いはず。正義の味方としての側面、人型であることからくる自己の拡張としての充足感、何よりその格好良さに。本作『ROBOTICS;NOTES ELITE』は5pb.よりリリースされている科学アドベンチャーシリーズの第三弾として制作された。巨大人型ロボへの愛を、詰め込める限り詰め込んだヴィジュアルノベルゲームだ。人型ロボットの主戦場はなんだかんだいっていまだにアニメーションやゲーム、漫画といった分野だが、本作は2019年ー2020年の近未来を舞台にして「リアルな巨大人型ロボット」を指向した作品になっている。

 近未来といっても現在が2014年だから、たかだか5年先。ファンタジックな要素は出来る限り抑え、種子島の高校生ロボ部員が比較検討を重ね、「ありうる巨大ロボットの形」を模索していく様はエンジニア的なおもしろさに満ち溢れている。たとえば巨大ロボットを造る際にはいくつもの障害が立ち上がる。動力はどうするのか、パーツ代は、重さはどの程度まで許容できるのか、軽量化のためになにができるのか、そもそも巨大人型ロボットをつくって何をしたいのか──、そうしたコンセプト、企画レベルからの議論を最初から最後まですべてシナリオに落としこんでいるので、まるで一緒に巨大人型ロボットを造っていくような臨場感、楽しさがある。

 実際、最後に出来上がるロボットはぜんぜんかっこよくない。無骨で、足がデカくて、足には車輪がついてたりする。それでも創りあげる過程や、そのデザインに至る合理性みたいなものを一緒に体験してきたので、そのダサい姿にも深い納得感がある。この納得感はリアリティという言葉に置き換えてもいいけれど、ここでは納得感という言葉を使う(リアリティというと現実と同じならいいのかみたいな議論になるが、結局のところ物語に求めているのは現実に存在しないものでもなんでもいいから「納得させてくれ」ってことであり、「現実と同じ」ことが求められているわけではない。求めているのは現実にありえるのかどうかではなく「納得できるか否か」なのだ。なので僕はリアリティは語句として極力使わずに納得感を使っている。)

理想を現実に落としこんでいく物語

 巨大人型ロボットなんて、そうはいっても実用的な意味では必要とされない存在だ。今だって日常にロボットは多数存在している。ルンバだってロボットなのだから。実用性、機能を第一に考えるとそこに人型を持ってくる理由なんて存在しない。数少ない理由のひとつは、人は人型ロボに親近感を覚え、自己をそこに託し、何より巨大人型ロボはかっこよく──多くの人々のあこがれの的になることだろう。本作はそこに注目している。メインキャラクターにはロボットに対する多角的なアプローチの為か、ロボットに興味がある人間もいればまったくない人間、ロボットへ恐怖感を覚えている人間と様々だが、ロボット好きはみななんらかの形で過去のロボットアニメの影響を強く受け、かつて自分が「かっこいい」「素敵だ」と思った要素を成立させようとしている。

 そういう意味で言えば、ロボット物に思い入れのある人間ほど深く共感する作品だ。なにしろ本作は「巨大ロボットをできるかぎり科学的に可能な範囲でつくる」ロボット制作パート以外にも、ロボ好きの理想をできるかぎり現実に落としこんでいく物語なのだから。ただ理想を現実化させるためにかなりの無茶をやらかしているのは残念なところ。無茶をやった分、最後の盛り上がりはものすごいことになっているし、合理的にもっていけるような展開でもないので痛し痒しといったところか。スーパーロボット系の展開を無理矢理リアルロボット系でできるようにしたいいとこどりの作品というのが近い。

 多少解説を入れると、本作のスタートはなんだかよくわからないが格闘ゲーマーの主人公が巨大ロボにのって、部活動の面々がいけーと応援する中、世界を救うため敵の巨大ロボと戦いにいく──ところから一気に過去に戻る構成になっている。なので、物語のスタート時点で着地点はみえているわけだ。「ああ、これは巨大ロボvs巨大ロボにたどり着くまでの物語なんだな」と。ただしはじまってみれば巨大ロボは動かすことさえ大変で、いざ動いてみてもぎーこぎーことぜんぜん滑らかに動かない。

 それどころか世界の危機なんて微塵も見当たらない、平和な種子島ののんびりとした高校生活が描かれていく。それは高校生がやってることだから当たり前なんだけど、「こんなんで本当に最初の巨大ロボvs巨大ロボにたどりつくのかあ??」といろいろ先の展開を推測しながら物語にひっぱられていくことになる。いつまでたってもロボットはボロいし敵が巨大ロボのイメージなんてまるでないしで、ぜんっぜん繋がる未来がみえないので、良い意味でも悪い意味でも予測不可能な物語になっている。

種子島の生活感

 若干主題からはそれるが、種子島の高校生の日常描写はとても楽しそうだった。実際には種子島なんていったことないからこれがどの程度正確なのかわからないが、青い空、観光客もやってこないからまったく人のいない海、なんにもない、人が少なく開放感のある場所、のんびりとした人々──といった感じで、すべてを放り出して種子島に行きたくなってしまうような魅力にあふれている。観光名所にいきたい、という感じじゃなくて、実際にここに長期滞在してみたいなあと思わせるような「生活感」がある。ロボとは直接的には関係がないのだけど、そうした島の生活感も魅力的な箇所だった。

システム面について

 この科学アドベンチャーシリーズはヴィジュアルノベルとして単なる「選択肢によるルート分岐」を使わず、しかも分岐システムを毎回シナリオに合ったものに変えてくるところが毎回チャレンジングで好きなのだけど、今作はついポと呼ばれるまんまTwitterシステムへの返信内容でルート解放が行われるシステムになっている。ルート解放とはいっても個別ルート毎にエンディングがあるわけではなく、ルート解放されることで時系列が埋まっていく一本道制御システムなのでそれは注記しておくが。リアルタイムでまわりの人々の近況や、世間の近況がアップデートされていくのでそれがおもしろい。

しかし…システムとしてはいいけど、結局時系列を埋めていく一本道なのでルートをついポの返信で制御する意味が…ない……。しかもかなり面倒臭くて最初は攻略を見ずにやっていたのだがまるっきり先へ進められない有様である。

 あともう一つ特徴的なのは立ち絵が廃止され立ち3Dモデルになったところだろうか。これ、前例があるかどうか知らないのだが個人的に画期的、驚きで、発言が行われる度に3Dモデルがぐりぐり表情や身振り手振りを変えるのにすっかり感動してしまった。紙芝居(笑) と揶揄されることのあるヴィジュアルノベル界隈だけど、本作や『魔法使いの夜』みたいにテキストを読ませていく形式でもまだいろいろ進化の余地があるなと思って嬉しくなった。3Dモデルのおかげで確度を変えたりといった使い方が多様になっており、表現の幅も広がっている。

サイエンス・フィクションとしてのロボティクス・ノーツ

 お話のメインにすえられているのは巨大ロボットであり、巨大ロボットを創りあげていく過程であり、巨大ロボット物に熱狂した人々の妄想を具現化していくような過程にある。しかし近未来設定であり、HUGという身体を補ったり、拡張するようなロボット、道案内するようなロボットが身近に溢れており「ロボットが今よりも身近な世界」の描写もまたおもしろいものだ。ロボットが身近で街中に配置されていることが重要な事件につながっていたりして、おいおい、それでメインシナリオが一本書けるだろ、みたいなネタが使い潰されていくのもSF好きとしては楽しい。この手のロボットが近未来において普通になった世界での反乱や混乱、活用事例を書いたものとしては最近BEATLESS - 基本読書 やこの正解の分からない混沌が、私は好きだった。──『富士学校まめたん研究分室』 by 芝村裕吏 - 基本読書 があるのでロボティクス・ノーツが面白かった人はこちらもおすすめ。

 本シリーズはとても科学的な態度とは程遠いような陰謀史観が同時に進行していくのも読みどころのひとつだが、世界的な陰謀が見事にロボット要素と結びついていくさまはたいへんおもしろくわくわくするのである。ハリウッドではなぜかロボットや人工知能といえば反乱を起こすものと決まっているが、日本では反乱も起こさせることだってできるし、かわいく友達や彼女にすることもできる活用方法が多くて多様だと思う。ドラえもんやアトムの時代から人間にとってロボットは友達だったからねえ。

 あとロボとは関係ないのだけど、重要な要素として組み込まれているのがARやVRといった「拡張現実」や「仮想現実」「代替現実」のような、現実と仮想を融合させていくような要素だ。システム面でプレイヤーはついポの操作をシステムとしてできるだけでなく、現実を上書きしてタグなどをはりつけられるARシステムも使えるようになっている。そうやって観光地やお店などをみるとタグがはりつけられていて、説明を読むことができたりする。ようは現実を上書きしているわけであって、現代ではまだそれほど活用事例は多くないが(セカイカメラとかはやったけどもう使っている人もみないし)これが発展した場合行き着く先は「現実と仮想の融合」につながってくるだろう。

 現実だけではない。かといって仮想だけでもない。現実の上に仮想が上書きされ、それらが両者当たり前のように活用されていく未来。そのテーマはロボットとズレるのでは、とプレイ中は思っていたのだけど、これが実によく馴染む。というのも結局巨大人型ロボットもこれまでの「妄想」を現実化しようという試みであって、ある意味では現実とフィクションの融合を体験している過程だからなのかもしれない。科学、技術が発展していった先にある「現実」と「仮想」が区別できないぐらい入り交じっていったらどうなるのか──という仮定として本作のシナリオはその真価を発揮していたと思う。

様々な立場からみたロボット

 本作は「偶像劇」としての側面を持っている。種子島高校のロボ部員それぞれがみな主人公だともいえる。主人公は操作を担当する凄腕格闘ゲーマーで、部長はロボアニメ大好きな熱血女子高生、エンジニアは理性的で理屈っぽいいかにもな理系男子、などなど。みなそれぞれの立場で、ロボットになんの興味もなかったり、巨大ロボットアニメの具現化にこだわっていたり、機能としてのロボットにこだわったり、あるいはロボットに恐怖感を持っていたりと様々な立場を持っている。

 シナリオはもちろんロボアニメファンの願望充足的な側面がある。だからといって巨大ロボが好き以外はお断りのシナリオではない。僕は巨大ロボアニメなんか好きではない、あんなもん画面に出てくるだけで嘘臭さが際立ってしらけてしまう。人型ロボットがかっこいいという感想もまったく理解できない。人型のどこがかっこいいわけ? かろうじてパトレイバーは面白いとおもった。パシフィック・リムは話が退屈すぎて途中で寝てしまった。そんな、巨大人型ロボットに対して何の思い入れもない人間でも問題ないぐらい間口は広い。だいたい主人公からしてロボットに何の興味もない格闘ゲーマーなのだ。

さいごに

 不満点がないわけではない。ルート的に「必要ないんじゃ……」と思わせるぐらい微妙な出来のシナリオがあるし、最後の展開は燃えるものの強引極まりない。またせっかくロボットが日常的に存在している世界観で、システムとしてARやついポなどをプレイヤーが操作できるようになっているのだから日常に存在するロボ操作アプリなどが使えてもよかったのに、と思ったりもする。だがそれ以上に種子島の日常感覚、ロボットをつくりあげていく楽しさ、ロボットが日常にいる近未来感、そしてそこから発生する世界規模の危機、陰謀へと面白さが積み重なっていっていて、総合的に素晴らしい内容になっている。いやー、久しぶりに時間を忘れてノベルゲームにのめりこんだよ。大満足。プレイ時間は今みてみたら24時間ほどで、時間が確保できる人にはオススメ。

ROBOTICS;NOTES ELITE (通常版)

ROBOTICS;NOTES ELITE (通常版)

GRAVITY DAZE 重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動


©Sony Computer Entertainment Inc.
 PSVITA初期のオリジナル傑作として評価もかたまり、もうやるべき人にはとっくに行き渡っているようなきもするけれども僕は最近クリアしたので感想を書く。というのもPSPが生産終了ということでろくに使わなかったPSPのことは頭からすっかり消えてしまいVITAを買ってきて最初のソフトがこれだったのだ。結論からいえばこれの為だけにでもVITAを買って満足している。まあこのあとロボティクス・ノーツとか買うけれども。

 ゲームの面白さとはいったいどこにあるんだろうか。格闘ゲームやアクションゲームのようにだんだんと自分がうまくなっていく過程が面白い。自分にクリアできるかできないか、ぎりぎりの壁を乗り越えていくのが面白い。アイテムなどを収集して、コレクションしていくのが面白い。ストーリーをおっていくのが面白い。自分自身がその世界の住人となって冒険するのが別の人生を体験しているようで面白い。自分自身ができないことを、ゲーム内キャラクタにやってもらえるのが面白い。別世界を、体験するのが面白い。

 ゲームにはいろんな面白さがある。中でもやはり「自分ではできない、自分ではできない何かをゲーム内で自由にできる」というのは大きな魅力のひとつだろう。勇者になる、あるいは無法者になって街中を破壊して回る。ヤクザになる。兵士になる。宇宙でエイリアンを闘う。全部自分ではできないことだ。GRAVITY DAZEの主人公であるキトゥンは重力を操ることができる。空を飛べるゲームはいくらでもある。しかし重力をあやつれるゲームがどれだけあるだろうか?(重力をあやつれるゲームなんてほかにないと言い切りたかったが知らないので濁した)

 舞台は現代世界とは似ていない不可思議な世界だ。巨大な円柱を取り囲んでつくられた空中都市「ヘキサヴィル」が舞台で、とにかく高低差のある複雑で入り組んでいるところを、なぜか重力を操作し「地面」を自由に決定することのできるキトゥンが、都市の様々な問題を解決し謎の解明に動き回っている。あとこの世界にはなんだかよくわからんが「ネヴィ」という怪物がいてこいつもがんばって倒す!

重力を操作できるという素晴らしさ

 重力方向を操作できるのがこんなに楽しいものだとは、やってみないとなかなかわかるものではない。都市のあらゆる場所が「地面」になる。空中を跳びまわって、建物から建物へ飛び移り、側面を歩き、走り、底面をかけずり回ることになる。「地面を設定できる」ということはつまり、360℃すべてが地面であるということであり、「移動」の概念も「建物」の概念も、根底から一変してしまう。

 「自分ではできないことが、ゲームならできる」のが面白いと書いたがこのどこにでも重力を設定できる能力はまさにそれだ。しかしなぜそれを多くのゲームはやらないのか? といえば、たぶん難しいからだろうと思う。ようは擬似的にすら体験したことのない感覚だから、感覚的に伝えるのが難しいのだ。しかし本作はそれを見事なゲームデザインと手触り感で達成して、感覚が現実に侵食してくるレベルになっている。数時間やったあと外にでるとあーあのビルの側面に飛んでいって歩きたいなーとか現実を侵食して思うようになっているだろう。

 僕らは結局のところ普段はどうしようもないほど重力に縛られているのであって、その枷を一時とはいえ解放してくれる、それ自体がひとつの偉大な快感だ。もちろんこの楽しさ、快感は創りこまれた街と、街を回る理由付けがあってこそだろう。街は全部で4つあり、そのどれもが違った構造と雰囲気を持っている。シナリオをクリアしていくごとに電車で違う街に移動できるようになるのだが、電車の上に立って新しい街が見えてくるときのどきどき感と、新しい街に辿り着いた瞬間とりあえず一番高い建物まで飛んでいって街全体を見下ろしてさあどこへいこうかなと考えるときはこのゲームをプレイしていて最高の瞬間の一つだ。

 街の至る所にはキトゥンが自身のパワーアップに使えるプレシャスジェムというものがおいてあり、これが建物の側面や底面、都市構造物の最下層などにまんべんなく散らばっているため街中を探検するモチベーションになる。また街はたんに探検する場所ではなく、敵の怪物であるネヴィと闘う戦場にも変貌するが、これも建物の影に入ったり側面から攻撃をかわして突撃したりと建物を縦横無尽にかけめぐって敵と闘うのもたのしい。

 高低差のある街中で、ストーリーを進めたり会話をしにいったりと街の至る所に飛んで行く必要があるのだが、三次元的にどこにでもいけるように創りこまれた街なので何百メートルも落下して目的地付近で突然重力方向を変えて突撃していったり、あるいはいったん上空高くまで舞い上がって目的地付近まで弾丸突撃したりと、とにかく移動するルートだけでもいくらでもあるのでゲームでは敬遠されるはずの「お使いイベント」みたいなものでもめちゃくちゃ楽しいんだよね。

 あとバトルでメインになるのは空中で飛んでから相手に重力操作してものすごい速度で加速しキックをかますというライダーキックなのだが、あの現実的に不可能であるはずのライダーキックがちゃんと再現されているのでたいへんよかったとおもう。まあ、バトルはぶっちゃけライダーキックの連発で片がつくことがほとんどなので面白みはあんまりないんだけど。

デザインについて

 街の景観が素晴らしいのは既に書いた。一番最初にあげた写真をみてもらえればわかるとおる色彩から含めて秀逸な仕上がりだ。おもしろいのは、バンドデシネ的なデザインが随所にこらされているところ。そもそも建築からして日本ではなく現代の欧州。製作者のインタビューでは次のように語られている。※GRAVITY DAZE | プレイステーション® オフィシャルサイト より引用

【外山】 最初は漠然とメビウス(※3)をモチーフにしようと。古いんだか未来都市なんだか、っていうのが混ざっているような。メビウスの作品のアンカル(※4)に有名なカットがあるんですけど、あの感じが開発チームの共通のイメージでした。スタッフも元々好きで、腕がいいのが何人かいたので…。

 途中のストーリーもアメコミ風というか、バンドデシネ風というか(その2つが明確にどう特徴付けて区別されるのかわからん)で進んでいくし、これらはほとんどは海外ユーザの取り込みの為だろうが、日本的な部分との融和が面白いんだよね。キャラデザも日本のアニメ的な「かわいい」だけのイメージからはかなりズレたところが狙われているのも興味深い。

シナリオについて

 謎のほとんどが明かされない。シナリオは短く、謎のほとんどが明かされないためまるで意味不明で、キャラクタの会話も少なく、キャラの魅力はまるでない。「これは束の間の平和であった……」みたいな意味深なナレーションでお話自体も終わってしまうので完全に続編ありきの企画ではある。ただまあ、飛び回って遊ぶのが楽しいのでシナリオ上の不備はあんまり気にならない。あとプレイ時間は15時間ぐらいだったと思うが、密度が高く僕自身は長いゲームに辟易していたので満足度はそれで減っていない。

多少の難点

 シナリオ以外に難点があるとすれば、二、三回酔って吐きかけたことだ。ホント、死ぬかと思ったからね。うう、吐く……吐くがこのボスを倒さないといけないしゲームをもっとやりたい……が、吐きそうだうげえ……とゲームの敵とは別次元の敵と戦わされる羽目になった。酔い止めを飲んでやろうかとも思ったが、無茶な操作と急激な視点移動の連続が問題の根源であったのでそれを改善させたらなんとかなったので対処不可能な問題ではない……と思う。

 難易度は高くない。難易度調整もないし、ガスガスHPが減っていくので油断しているとあっけなく死ぬが、少し考えて作戦を立てれば大抵はうまくいくようになっている。リトライのポイントが細かく設定されていてちょっとずつ地道に進めていけばよかったりと(HPが全回復しているから)安心設計もある。

まとめ

 コンパクトにまとまった素晴らしい快感ゲー。シナリオはともかくとしてゲーム本来の面白さが存分に詰まっている傑作だ、と僕などがいまさらいったところでどうなるもんでmないだろうが……。プレイ時間なんて10時間ぐらいでいいからこれぐらい新しい快感を提供してくれるゲームが出てきてくれれば嬉しいのだけれども、無茶なお願いというものだろうか。

最高の効率で、最高の金儲けを『WORLD END ECONOMiCA』 by Spicy Tails

ぐあー最高に素晴らしい物語だった。終わった後の余韻も冷めやらずすぐさまこれを書いている。『WORLD END ECONOMiCA』は狼と香辛料などで知られる支倉凍砂氏シナリオによるサークルSpicy Tailsによる同人ゲーム(だけどAmazonで買える)で、月を舞台にした株取引の熱狂を書いたもの。第一部、第二部、第三部と一年おきに発表されて、その最初の発表から完結編が出るのを心待ちにしていたのだけど、つい先日完結したので一気にやったのだが……。

金融ドラマ

これがもう素晴らしいのなんのって! 株取引ちうのは、月にいかなくてもフィクションにすらしなくても、現実の取引からしてすでにドラマだ。世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫) - 基本読書 を詠むがいい。アメリカ国民が住宅バブルに沸き立って熱狂しているさなか、「これは絶対に破綻する」とマイナスの方に賭けた人間たちがいた。狂気の渦の中唯一理性的であった彼らでさえ「自分は頭のネジがはずれちまっているんじゃないのか?」「もしくは自分たちは知らない決定的な(破綻につながらない)情報を相手方は持っているのではないか?」とブルっている。

みんなが「Aだ!」といっている中ほとんど唯一「いや、Bなんだ!」と強行に主張しなければならないのだ。参加者は全員身銭を切っており、その中で情報をやりとりし、政権の動きや不正の発覚などで一瞬で値が上下する。それを見越して稼ぐ人間もいれば、一瞬で信じられないぐらいの金を失ってしまう人間もいる。金=生命だなどというつもりはないけれど、金を理不尽に失われるのは身を切られるように痛いし、実際に破産なんてなったら殺されはしないかもしれないが持ち物はパーだ。そして確実な値動きは誰にも予測できない。

だからこそ値の動きはドラマチックなものになるし、そこで賭けをはる人間だって「絶対勝つ方法」がない以上そこには伸るか反るかといった「決断」が常に絡んでくる。株取引なんて単なる数字を右から左へ動かして利ざやを稼ぐなんとも悪党商売のようだが、その過程には実に人間らしい苦悩があって、それがドラマを創る。株取引は、身を切るような決断の連続なのだ。

大雑把なあらすじ?

大雑把にいえば物語の第一部は、一人の少年が「株取引の罠」に陥っていく話だ。いわずもながだが、そこでは金が賭けられている。自分一人の金だったら、仮に全部失ったとしても無一文になるだけだ。でもそこに他人のお金までが載ってくるとしたら、自分の決断がひとつ間違えただけで多くの人間を露頭に迷わせることになるかもしれない。個人が取引をする上でも、そこには決断の連続があって、ようは第一部は「個人投資家」のドラマなのだ。

目の前の相場でどう賭けるのか。そこには確実な予測などたてられないが、でもだからこそ「絶対安全な情報」とされているものが目の前にぶらさげられるとしっぽをふってついていってしまう。そうした心理的な罠、人の金を預かるというプレッシャー、金を失うとはどういうことなのかといった実感していく部になっている。

すごいな、とおもったのが月面の描写。軌道エレベータがあり、これを基軸として月に都市ができ月産まれ月育ちの生粋の月市民が生まれるまでになっている。で、株取引の話だったら別に月である必要なくないか? SFである必要もないし、と短絡的に思ってしまうがその後の展開で月で株取引をやるという突飛な設定になった利点が数々と出てきて、ようは「現在ではもはや考えられないような規模の投資が起こる状況」設定として「月」が重要になってくる。

物語上のネタバレになってくるので多くは明かさないが、軌道エレベータがある世界での月の描写、月の電力問題、土地の問題と、月であるからこそ発生するギミックがいくつも存在していて、もうどっからどうみても「SF」だ。そしてなんといっても月面都市とそのバックに浮かぶ地球のCGは凝っていてたいへん素晴らしい。SFはやっぱり絵だねえ。このCGを一枚みるだけで、もうその世界がぶわっと頭に浮かんでくるものだ。

第二部は取引の落とし穴を身をもって体験した主人公=ハルが、今度はマクロな視点で物事を捉えていく物語になる。投資家の物語から、企業の物語へ。株価は人々の期待を反映したものだが、実際にはその中身をみて決められているというよりかは、名前が出ているもの、有名なもの、アナリストが推薦するもの、そうした文字通り「期待」だけを煽って集められるものもある。ようは実質的な企業の資産価値にたいして株価が高すぎる場合が往々にしてある。

物語はそうした虚飾織り交ぜられた「月金融の裏側」に迫っていくものになる。テーマはたぶん「取り返せないものを、取り返す。」

第三部では個人投資家としての痛みを知り、マクロな企業活動の虚飾も知ったハルがより一段と大きな問題へと突っ込んでいく。文字通り「世界の終わり」を賭けに使った大舞台、今までの経験と、今まで失って、同時に得てきたものがここで炸裂する。タイトルの伏線もここにきてついに回収され伏線回収の大盤振る舞いである。ああ、成長したハルと、その周りの人間達、そして戦える手持ちの金が増えてデカい賭けにのめり込んでいく様が、ほんとうにかっこいい。

金融の物語はこれだからやめられない。規模がデカくなり桁が違ってくると、そこにはもう人間の狂気とか思惑を超えたものがみえてくる。極端なことをいえば、1000兆円あれば国が創れるのだ。⇒羽月莉音の帝国 - 基本読書 できることも変わり、またそれだけ起こる危機の質、対処できる問題のデカさも変わってくる。強すぎる力を持った人間が、その力を持っていない人間とくらべて大きな責任を感じざるをえないように、金も同じ「責任」を持ち主に押し付けてくる。

金融工学

本作には数々の具体的な金融工学による手法や、詐欺的な手法、破綻の仕方が出てくるがそのほとんどが現実に同様の事が起こっている。有名なのはサブプライムローンによる世界金融危機だが本作でも同じような揉め事が起こる。用語も一貫して現実とリンクしているので、ついに第三部では用語の意味がポップアップしてくるようになったので経済の勉強にもなるだろう。

ただ問題はこれが「未来」の話なのに出てくる金融工学のレベルが現実とさほど変わらないところだが……。かといって「未来に起こりうる金融工学の手法」なんてものをリアリティをもって描き出せたらそれは「それを現実で使って稼げよ」という話なので仕方がない(もっとも僕が勘違いしているだけで、本作で用いられているものはずいぶん違うものかもしれないけれども)。

まとめ

書いていなかったがキャラクタが誰も彼も魅力的だ。月並みの言葉だけど「信念」をもって描かれるキャラクタは男でも女でもかっこよく見える。「投資家」であることを第一義におき、最高の効率で、最高の金儲けを企てる理性の塊のようキャラクタは、やはりその合理性がとてつもなくかっこいい。はたまた一方で「自分のやりたいことを、やりたいようにやる」という信念にのっとって、と数学的な能力に賭けて物事を決断していく女の子もやはり最高にかっこいい。みなそれぞれに自分の信念と戦いがあって、それが男も女も魅力的にしている。

本作は金融世界での冒険譚であり、少年の成長譚でもある。金融ねー、人間の業や感情がうずまき、一瞬の決断が生死を分ける、ほんとに面白い題材だよなー。それでいて本質的に「絶対に儲かる」ことがいえない以上ギャンブルの要素までもっていて、おもしろくないわけがない。それがどういうことかといえば、結局のところ「人間ドラマ」なんだよね。不確実な状況の中で、いったいどんな決断をするのかといったところに、人間の本質が現れるからだ。

途中でちょっと出した至道流星さんの作品も珍しくライトノベルで経済をがっつり語るものだけど、それが現行の経済システムや政治システムがどうなっていてどんな抜け道が考えられるのかを重点に考えられている一方で、本作を中心とした支倉さんのシナリオはそうした経済の中における人間の感情の動きを描く。

プレイ時間は一部につき6時間ほどで、三部やればつまるところ18時間ぐらいだろう。長すぎず、短すぎず。長すぎるノベルゲームが多い中、ちょうどいい塩梅なのではなかろうか。土日を費やせば終わるような量だ。完結したのだから、一気にやることをオススメする(それぐらい各部の引きが強い)。

本当に素晴らしい物語だった。それにちゃんとSFだしね。設定の穴なんてどうでもいんですよ。さいきんラノベ系の作家を次々と引き込んでいるハヤカワ文庫などは一刻も早く支倉凍砂氏にオファーを出すべきだと思った(もうとっくに出ているかもしれないが)。

ちなみに、エピソード三にはすべてのエピソードが入っています。 追記。現在完結記念でエピソード1が無料だそうです。探してみてね。さらに追記。2014年12月10日に電撃文庫からノベル版が出たようです。書き足しなんかもあるみたいじゃよ。

WORLD END ECONOMiCA (1) (電撃文庫)

WORLD END ECONOMiCA (1) (電撃文庫)