- 出版社/メーカー: スパイク・チュンソフト
- 発売日: 2015/05/21
- メディア: Video Game
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↑の記事で僕が今年PS4を買ってからやった大作ゲームの数々について軽く触れたが、『ウィッチャー3 ワイルドハント』はその中でも「もっとも、世界の命運を自分が左右しているんだ」と実感させられたゲームであった。
ウィッチャーシリーズはエルフやドワーフが存在する架空の世界を舞台にしたファンタジック超大作ゲームだ。プレイヤーは身体を変異させ特殊な霊薬を扱えるようになった魔法剣士(ルビ:ウィッチャー)ゲラルトとなって世界を旅して周り、困っている人を助けたり、人間に危害を加える人狼などのクリーチャーが出たら退治に向かう。国家同士の闘いには基本的に参加せず、その政治的姿勢はあくまでも中立を保つ。
しかし、ゲラルトさんは特別な血を引き、制御出来ない強大な力を持った、娘にも等しいシリを追いかけて諸国を巡っていくうちに、世界の命運を左右しかねない様々な陰謀や敵と遭遇してしまう。ゲラルトとなり世界を駆け巡るプレイヤーは、シリを必死でおいかける一方ゲーム内ゲームであるトレーディングカードゲームで全国大会に出場し熱戦を繰り広げたり、時には武闘大会に出場して王者! 熊! と遭遇し「マジかよ……」と唖然としながら殴りあうギャグみたいな日常を過ごしていく。
サイドクエストの面白さ
ある冒険をしている最中、ゲラルトは、皇帝を暗殺しよう、あいつがいるとろくなことにならねえ、と暗殺計画に誘われる。それはシリを守るという一本筋の通ったストーリー外にあることだから、メインクエストではない。つまり、プレイヤーはそのサイドクエストを受けるか否かの選択肢を委ねられている。皇帝暗殺が成功すれば、当然ながら世界の命運は大きく変わるだろう。僕は迷わずに「よし! あのむかつくハゲ(皇帝はハゲ)前からウゼエと思ってたからぶち殺すぞーーー!!」とテンションが爆上がりしてシリを守るのもそっちのけでハゲをぶち殺しにいった。
このような、「世界の命運を一変させるような選択肢」がメインクエストとは別にそこら中に仕掛けられている。当然、メインクエストでこそないものの起こっていることは重大なものだから、そのテキスト、セリフ回し、どれ一つとってもメインクエストに引けをとらないぐらいねりこまれている。そうした選択肢を一つ一つ自分の手で選択し、このウィッチャー世界の歴史に関与していくことで、本当の意味で自分がこの世界の住民としてロールプレイングをしている感覚が育ってくる。
この世界に、自分がたしかに影響を与えているのだ! という確かな手応えだ。それは単なる「プレイヤーに選択を委ねる」だけで達成されていることではない。決断をして、計画を練って、おびき寄せたり後ろから襲ったり、そうしたことを一回一回やりながら、その後に何が起こったのかという膨大なストーリー、変わっていく国家や人物関係を見ることによって、下した決断は実感に変わっていくのだ。
メインクエストの方も、最初こそその辺の村で人狼を殺したり、デカイ鳥をぶっ殺しているだけだが──次第に、次元を超えて複数の世界が存在する世界観故に、異界からの攻撃者を自世界の精鋭をかき集めて防衛する展開など、かなり燃える「多世界大戦」に発展していくのが熱い。僕はこういう、「物凄く困難なミッションを達成するために各地から曲者だが腕は立つ仲間を集めてくる」展開が大好きなんだよな。
ちなみに、3とついているが、いきなりウィッチャー3からやってもめっちゃ面白かったので特に問題ない。前作の話は全く何の脈絡なくぶっこまれてくるけど、ゲーム内で見れる資料集が充実した内容なのでそれを読めば完全に補完できるからだ。
原作小説の話
- 作者: アンドレイ・サプコフスキ,吉岡愛理,川野靖子,天沼春樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/05/30
- メディア: 文庫
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だからせめてもの後押しでここで紹介しておきたい。原作小説の方もめちゃくちゃ面白いのだ。魔法の背景の作り込み、エルフとドワーフや人間が入り乱れながら、「種族間で友好な期間がけっこう長いことあった」という世界設定。それが今、分裂の危機を迎え、人間同士でも国家間の戦争がはじまろうとしている、その中心にはもちろん特別な力を持ったシリがいて──と展開自体はゲームとは異なるものの、ここは間違いなくプレイヤーがゲラルトとなって駆け巡ったあの世界である。
ゲームもそうだが、小説でも女性陣がとても魅力的だ。まず女性陣はほとんどが魔法使いで、めちゃくちゃ強い。隕石みたいな火球を落としたり、洗脳、門を出して転移するなどだいたい何でもできる。それだけの強大な力を持つがゆえに、ウィッチャーと同じく世間からは忌避され、迫害を受けている──が、生き残るために独立心は旺盛で、みなそれぞれの覚悟と決断でもって、自分の人生を選択してみせる。時にそれは中立を是とするウィッチャーらと対立するが、そうこなくっては面白くない。
「おれたちは魔法剣士だ、トリス。わからないのか?」
「何をわかれというの?」トリスは髪を払いのけた。「すべてははっきりしてるわ。あなたたちは世界に対して、ひとつの姿勢を取ることを選んだ。あなたたちは"この世がいつこなごなになってもおかしくない"と思ってる。でも、わたしはそうは思わない。そこがわたしたちの違いよ」
「そこだけの違いとは思えない」
「世界が崩壊しつつあるわ。何もせず、傍観することもできる。でも、あらがうこともできる」
小説でもそうだし、ゲームでも少女として守られる存在であるシリもまた、自分なりのプライドを持った強き存在だ。基本は高貴な血を引く存在だが、荒くれ者のウィッチャーらと過ごしたせいでナメられたり行動を抑制されたりするとブチ切れそうになる。身体をボコボコにされながら魔法剣士流の特訓を受け、一流の魔法使いから厳しい魔法の手ほどきも受け、と心技体にわたって、自分自身を洗練させていく。
こうした訓練の過程(振り子を躱す訓練であったり、魔法の講義であったり)の描写や、特にゲームでその真価が発揮される「この世界特有のモンスターが持つ、独特の生体」、どのような周期で巣に戻るのか、どのようにつがい、増えるのか、何が弱点なのかといった設定は詳細で、この世界に一層の奥行きを与えている。怪物殺しを依頼されたゲラルトさんはまずその豊富な知識と調査によって敵がどんな種族でどんな修正を持ったやつなのかを推定して、その弱点を探るところから始めるんだよね。
ゲームだけでもこの膨大な世界設定に触れることはできるが、小説では整理された状態で出てくるので把握しやすいだろう。何より、ゲームとはまた異なるストーリーを読むことができる。ゲームをプレイした人にはもちろん、ゲームをプレイしたことがない人にもファンタジー小説として是非オススメしたいところである(続きが! 続きが出てねえんだけどな!)。ぼかぁ我慢できないから英語で読むよ。