基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

輝くもの天より堕ち ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

あらすじ
地球人類がヒューマンという名で宇宙の一種族となった未来。舞台は銀河系のはずれにあるダミエムという小さな惑星。そこに住んでいるのは土着の少数のダミエム人と、彼らの安全を図るのを職務としている三人のヒューマンの保護管だけ。ふだんはあまり訪れる者もない、ひっそりとしたこの惑星に、珍しく十人の観光客がやってくる。


感想 ネタバレ無

読み終わった瞬間にいてもたってもいられなくなって、感想を書き始める。

かなり泣いてしまった・・・。正直いってかなり動揺している。読み終わった瞬間ゆえ、まだ色々がまとまっていない。

舞台設定など、色々はそのままミステリーである。

それから、最初の250ページは正直にいって退屈であった。それ以降は、かつて味わったことがないほどの感情を一遍に味わった。ありえないという感情がつのる。

久しぶりに来たなぁ。120冊に1冊ぐらいの割合でここまでの名作に出会えていると思う。

前回ここまでに匹敵すると思ったのは、神林長平の膚の下以来である。

後半は泣きながら読んだ。

これほどまでに、恐怖と興奮と悲しみと怒りを生み出す話をはじめて読んだといっても過言ではない。

ネタバレ有


や、やばいわぁ・・・・ありえないなぁ。おもしろすぎる。

最初の250Pは本当に、キャラの紹介と舞台設定と伏線を張り巡らされるのに費やされていたなと思った。そこまで読んで、状況を把握するのが最大の苦痛だったが、ザ・スターが昇った瞬間からの展開は、本当に神がかっていたとしか思えない。

しかし、女侯爵姉妹の姉の扱いは地味にひどかったな。みんな、それなりの役割を与えられていたのに、姉の役割といえば、狂った金持ちって怖いね、というだけの教訓を生み出すだけだったような気がする。

妹の出番は神。 あっけなく死んだのには本当にびっくりした。それも別にみんな悲しんでるわけではないあたり・・・・。まぁもともとしんでいたようなものだからな。

しかし本当にミステリーのような作品だった。ミステリーにありがちな、陸の孤島。まわりとは連絡がとれなく断絶した状態。というのをSF流にアレンジして、孤島じゃなくて孤惑星、連絡もとれない、登場人物は一癖も二癖もあるようなものばかり。

ニイイルが死んだところも泣いたが、最大の見せ場はコーリーの最後だろうなと思う。

老いて死ぬ間際のシーンは、なんだか今までのものが全てここにかかっているような、そんな印象を受ける。 ここまで死というなんだろう・・うまく書けないけど・・・死というものについてぶつかったものは、村上春樹の世界の終りとハードボイルドワンダーランドの主人公が死ぬシーン以来の衝撃だ。

正直いって、リニックスが生き返るとは思っていなかった。リニックスが生き返った事によって、ひょっとしてドラゴンボールの世界にまぎれこんでしまったのではないかと、つまり死んでも大丈夫な世界になってしまったんじゃないかと。

だから、コーリーはひょっとしたら致命的な傷を負っても、最後の最後で復活するんじゃないかと、読み終えるまでずっとそう考えていたのだ。外れてしまったけれど・・・・・。

死んでも生き返る世界というのは、ニイイルが自ら死んだところで拒否されていたのだという事がわかっていなかった、リニックスが生き返ったのも、本当ならあり得ない事だったんだろうが・・・・。

面白いなーと思ったアイデアはがあった。

いかなる場合も、天体ほどの大きさの物体が、とつぜん──一瞬のうちに──なにかまったく予測不能な外界の事件によって破壊され、蒸発した場合にそうなるわけだ。以前には有機的だった物体がまだその解体を信じていないのだ。


つまり、地球がもし突然大爆発したとして、地球ほどの大きさの物体が突然なくなると、地球はまるで足を失った人がまだ自分の足があるかのように感じるのと同じく、自分がまだ存在していると思い込んで過去へと戻る次元の動きを作りだすということか。

面白い


一度は偶然の一致、二度目はべつのなにか、だが、三度つづけばそれは敵対行動。このあたりのミステリーっぽさは異常だなぁ。こうやって理詰めで、状況を把握していくところが格好よすぎる。

劇的な状況の変化と、面白さが爆発する転換点

ついに<ザ・スター>が昇ったのだ。
そして、それとともに、ヒューマンの全状況が変化する。


コーリーとキップがお互いにお互いをかばい合って相手に自分を信じ込ませようとするやりとりが、緊張感がありすぎてこっちまで冷や汗をかいていた。

それから、この世で一番の苦痛を与えるという薬を投与されたときのリニックスの描写が、痛々しすぎてもうほんとに・・・・。やめてほしいっていうぐらいに・・・。

かなり興奮した場面。この場面が来る前から、動くことができないが、覚醒しかかっている侯爵妹はいったいどんな役割を帯びて物語に登場するのかと思っていたが、こんな風に登場してくるとは・・・。

「コメット号を救え!」二十年の歳月を超え、バラムは少女の無感覚な耳に向かってさけぶ。以前として何も起こらない。わたしはばかだ。「コメット号は救える!コメット号に乗れ!コメット号で飛べ!」


読んだことのない人には全くわからないだろうが、ここまで読んだ人がこのシーンを読んだら、鳥肌がたった事だろうと思う。

バラム先生の一世一代の大勝負。


ザネスとその一味たちの熱さは異常。こいつらだけ別の作品の中から来たみたいだ。

「グリッド・ワールドの流儀はお気に召したかね?」ザネスは世界に向かってそうたずねずにはいられない。両手と両足が痛く、アバラに矢傷を受け、体じゅうがこわばって、声がかすれているが、すばらしい気分だ。自分の仕事をやってのけ。俳優たちも全員無事なのだから。


この時のザネスの心境はまさに、任務を達成する、俳優も守る、両方やらなくちゃいけないっていうのが、監督のつらいところだな。覚悟はいいか?俺はできている、っていう感じだった・・・。残念ながら全部書いていたら、文字数が簡単に1万突破してしまう。

本当に、どのシーンも全部頭の中にデータとして入力しておきたいぐらい素晴らしい。

ニイイル死亡シーン

「あなたはわたしを──さっき救ってくれた」弱々しいがはっきりした声で、少女は注意深くそういってから、しばらく間をおき、魅力たっぷりの笑みをうかべる。「あなたがわたしを救ってくれたかげで──ちがった、おかげで」──少女はまぎれもない誇りをうかべていう──「いまわたしはよく死ねる。ちがった、正しく死ねる。ちゃんと」
「しかし、ニイイル、きみは死ななくていいんだ!」バラムはさけぶ。「きみは生きていける!」
「いいえ、わたしはもうすぐ死ぬ。でも、ちゃんと死ねる。もうだいじょうぶ。飛べるから!あなたが助けてくれるまでは、翼がだめ」少女の声がふるえる。「と、とても、とてもぼろぼろ」

少女は無傷で、翼もちゃんと生えそろい、虐待の跡はない──平和な眠りに落ちた子供の姿だ。だが、その子供は二度と呼吸しない。


書いてて泣けてきた・・・。
バラムが、また時をさかのぼってニイイルを助けようとしたところでこれだからなぁ。ちゃんとしねる、正しく死ねるって・・・・。翼を復元して、死に向かって飛び立っていってしまった・・・・。ここで運命は元には戻らないって事が完全に明示されてしまったんだなぁ。 書かれてはいないが、リニックスも幸せな生活は送れないのかもしれない。死という記憶にさいなまれて、死ぬか、そのまま得体のしれない感覚にさいなまれつづけるのではなかろうか。



あの偉大な星についての物語は、事実上ハッピーエンドを迎えたわけだ──あの悲劇的な幼いニイイルだけをべつにして。でも、あの子でさえ、だいじょうぶ、といった。飛べるから、死に向かって飛べるから・・・・・。その気持ちがなんとなくわかる気がする・・・・。

「これが現実だわ、ペース。きのう、これは・・・・・手だった・・・・手。・・・・・みんなはいう・・・・・現実的になれと。まるで現実が励ましを必要しているように。でもね、ペース・・・・現実は友達を必要としない」

ここまで安らかな死というものがあると、知らないから泣ける。本当にここまでの安らかな死があるのだろうか。

 沈黙が下りる。年老いたのどを通貨する空気がざらついた音を立てる。吐き・・・・・吸い・・・・・吐き・・・・吸い・・・・吐き・・・・吸い・・・吐き・・・・吸い・・・・。
 グリーン、ゴー?
 ダヤンが沈黙を破る。「了解」

あああああああ

間違いない・・・神作だ・・・・。