不思議な作品。ありえない設定が大量に出てくるにも関わらず、読む時に何の障害にもならない。主人公がやけにローカルネタに博識だったり、何故かゲーム理論が専門だったり、ヒロインがエロ漫画家とピンポイントで笑えるネタが。あと全員都合よく記憶喪失にされていたり。何人かは記憶があったようだが、そりゃそうだ。そんな簡単に記憶喪失を人為的に起こせるものじゃない。
とかなんとかいって、ちょっと気になったので調べてみたら、人為的に記憶喪失を起こす薬品をアメリカで開発中らしい。忘れたい記憶を思い出しているときに薬品を注入することによってその記憶を忘れることができるという話だが、不思議なものだ。トラウマの解消に役立つといいのう。
9人の男女が拉致され、オーストラリアのどっかに放流される。今、生き残りをかけたサバイバルゲームが始まる・・・! なんというむちゃくちゃなあらすじ。まるで山田悠介のようだ。いや、山田悠介の作品一冊も読んだ事ないけれど。彼の最新作「モニタールーム」とかあらすじだけで、んなばぁなぁー!と叫びだしたくなる。
今までホラー作品というものを、ほとんど読んだことがないが、これがホラーか・・・! と実感した。背筋が凍るような思いだった。でも実際これがホラーなのかどうかといわれるとかなり怪しい。過去に読んだ本の中で、自信を持ってホラーといえる作品は屍鬼ただひとつである。
主人公がゲーム理論の専門家っていう設定、結局意味があったのかどうか。ゼロサムゲームについて説明したぐらいしか役に立ってないんじゃないか? バトルロワイヤルを思い出すというよりも、ライアーゲームを思い出したな。あとクリス・クロスとか。これで最後病院に居るのさえも実は幻覚だった! とかいう驚愕のどんでん返しにつぐどんでん返しがあったら完全にクリス・クロスだったのにな。
こういったゲームにおいて、管理者的存在がメンバーの中に潜んでいるのは常套手段なのだろう。普通に考えれば、広いフィールド全部に監視カメラをつけられるはずもなく、全員が持っている共通の持ち物に盗聴器がついているのはまず間違いない。反則行為がたくさんあることから常に見張ってなければいけないのはどう解決するのだろうと考えていたが、まさかいたるところに監視カメラを設置しているだと・・・? 全部カバー出来るもんでもないだろ。盗聴器さえあれば大丈夫だとでも思ったのだろうか。
ヒロインがエロ漫画家という設定は斬新すぎる。エロニーニョとかエロ漫画諸島に連載しているとかいうが、実際にありそうで困る。いやでもエロマンガ島は実際にある島だし、エロニーニョもあるいは・・・。エロニーニョで検索したらYahoo知恵袋がTOPに躍り出た。相変わらず馬鹿ばっかりだな、知恵袋は。それにしても、事務員とかでもいいはずなのになぜエロ漫画家にしたのか・・・。
どうでもいいことなのだが、最後まで現場が想像できなかった。タイトルのように迷宮のごとく入り組んでいるというのは、理解できるのだがどうしても自分のオーストラリアのイメージといえば、広くて何にもない、というものであってうまくシンクロすることができない。いっそのこと本当に火星を舞台にしてくれれば面白かったのだが。
残念なことの一つは、結局主人公逃げていただけであって、全然成長してなくね? ラスボスたるグールを倒したのも、逃げ続けた結果蛇が勝手にやっつけてくれたんだし。唯一1匹目のグールだけ罠にハメたけど、あれだって逃げ続けた末にたまたまなんとかなっただけ。自分の意志で前に向かっていくことが大事なんだ、僕はそれをこのゲームで学んだ、みたいなことを言っていたけれど最後の最後まで逃げ続けてきただけではないか。9人いたうち6人は自分たちで潰し合ったわけだ。
逃げ続けるという意志でもって前に向かって行くのかもしれないけれど。なにしろ逃げるにしろ攻めるにしろ前に進むことには変わりないのだから。
最後のオチは秀逸。最後の章は何度も読んだため暗記してしまった、というさりげない文章が燃える。流れ星に願い事をいうと願いが何故叶うか、という問いの答えは、いつでもその願いを言えるぐらいに、常にそのことを考えているからだ。そんなに執着するとは、よほどの美人だったのだろう。しかも一回しかできなかったしな。えろいことも。作中で突然えろいことをしだしたときは思わず笑ってしまったわ。水浴びで透けるのを見られて恥ずかしがるところは思わずToLoveるを思い出したわ。
最後に蛇足だが藍がカメラマンという設定の妥当性についてツッコミを。女性だからどのグループにも問題なく入っていける、だから全体を取るカメラマンとして最適だという話は無茶じゃないだろうか。そんなに自由に移動できる距離でも、雰囲気でもなかったが。