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ループで人狼ゲームを打破せよ──『レイジングループ』

『レイジングループ』とは人狼を題材にとったホラーノベルゲームである。友人に強めにオススメされ、正直人狼題材のノベルゲームという点に対して特に惹かれるところはなかったんだけれども(全体的に低予算なのは明らかなのもあるし)、最近パッケージに移植されたばかりのPS4版をやってみたら、これがおもしろい。かなり長いんだけど、やり始めてからほぼ最後まで止まらずに一気にやりきってしまった。

しかし、低予算・少人数開発であるせいか同人ゲームのような自由さと悪ノリが詰め込まれているし(これは悪いわけじゃない)、テキストもすべてがおもしろいわけではなく日常会話パートと(人によるだろうが)ギャグのノリは恐ろしく寒い。だが、一度人狼ゲームが始まってしまえば、描写・会話のほとんどは”誰が狼で”、”誰が能力者なのか”という理屈の披露、異常な状態に陥った人間たちの感情の吐露の連続となって、日常パートのつまらなさがウソだったかのようにぐっとおもしろくなる。

そもそもなんで人狼題材のノベルゲームに惹かれなかったのかといえば、人狼ゲームで設定されているルールを物語として落とし込むのが厳しいだろうと思っていたからだが、本作の場合そこを一切逃げずに、土着信仰・宗教と絡めて「人狼ゲームが現実に成立する状況」を描き、いろいろと細かい穴を埋める・ちゃんと解釈して落とし込んでいる。たとえばなぜ人狼は一夜に一人しか襲わないのか? 狂人でもない普通の人間が狼に協力することはないのか? なんで怪しいやつを皆殺しにしないのか? そのへんを伝奇物の文脈で埋めていくというのがまず明確にオモシロイ点だ。

また、主人公である房石陽明青年は、ループを繰り返しながら「人狼ゲームでの勝利を目指す」だけではなく、「なぜこの村ではこんな特殊な儀式が行われるようになったのか?」という歴史的な観点まで含めて解き明かしていくのだ。

ループしてゲームに勝つのは難しくない

房石陽明青年は何も最初からループできるループ能力者というわけではなく、休水という山奥の集落に迷い込み、不可避的に人狼ゲーム(作中では「黄泉忌みの宴」)の舞台へ入ってしまい、初見ではゲームに参加する=議論に加わることすら出来ずにあっさりと死亡。しかし、房石青年はなぜか迷い込む時点に記憶を保持したまま巻き戻っているのだった──という「何らかの理由でループしてしまった人」なんだけれども、本来人狼ゲームの特性上、ループできればゲームで勝つのは難しくはない。

人狼ゲーム、汝は人狼なりや? とはざっと紹介すれば、プレイヤーは人狼陣営と村人陣営に分かれ、それぞれの能力を使って相手を殲滅するのが目的である。狼はお互いに誰が狼かを認識しているが、村人らは自分たちのうちの誰が人狼なのかがわからない。夜に人狼は人知れず村人を一人殺し、昼にプレイヤーらは話し合って誰か一人を人狼ではないかと推理して吊るし上げる。村人側には「占い師(夜の間にプレイヤーを一人指定し、人間か狼かを知ることができる)」、「狩人(夜の間にプレイヤーから一人指定し、狼に襲われた場合その襲撃をスキップできる)」などいくつかの役職が与えられており、そうした能力を駆使・人狼側は攪乱してゲームを進めていく。

で、ゲームが始まれば当然狼は議論を攪乱するし、役職者が名乗り出れば人狼側はそいつを狙ったり、あるいは自分も対抗で役職者であると名乗ったりする。そうすると誰が狼で能力者かという確定情報を持たない村人たちはどちらがより確からしいのかを議論や行動から推理していくのだが──と、つまりこれは情報ゲームなわけなので、ループして「あいつが狼で、あいつが占い師だ」というのがわかっていれば有利に立てるのである。だからこそ本作でループの果ての目標とされるものは”勝利”ではなく、もっとその背後にある”なぜこんな奇習が行われているのか”、そして”なぜ陽明はループしているのか”という人狼ゲームの背後にある謎の解明なのだ。

プレイヤーは何度も選択をして、吊るされたり殺されたりしながら情報を集めていくわけだけれども、ループした後に状況を大きく変えると配役も変わってしまう。つまり前回までのループで得た役職情報は一切使えないことになる。そうすると議論の方向性も変わっていくし、ループ者であることのアドバンテージも失われてしまう──ただし、ゲームに参加しているのは”人間”なのだから、それぞれに議論の傾向もあれば気質もある。「今回こいつがこういう立ち振舞をしているってことは、役職なしだろう」というまた別種の情報が増えていき、攻略の手管が増えていくのである。

陽明青年は最初こそ部外者として宴に参加できず、誰を吊るすかの投票権も与えられなかったが、物語が大きく変化する第二のルートからは自身もゲームに参戦し、そこでは占い師(作中ではへびの加護)の役職を得て、前回のゲームで得た人物プロファイルを元に生存を目指すことになる。役職の割り振りが異なるだけで状況も、推理の過程も大きく異なるのがループ物としてのおもしろさも増しているように思う。

本来人狼ゲームで”全員生存”なんていう状態はありえないが、本作で陽明青年は幾度もの市に戻りの果て、グランド・ルートともいえる最終ルートで、その奇跡的な状態を目指してみせる。普通に読み進めていてもそれをどう達成するのかぜんぜんわからんので、どうなるんだ? どうなるんだ? と終盤はぐいぐい読み進めるしか無い。解決方法については(あと、なぜ人狼ゲームがこの集落では行われているのか? どうやって? についても)かなりのウルトラCだが、わりと納得できる線である。

キャラクタについて

キャラクタの立て方や描写がうまいとは思わないが、それはそれとして人狼ゲームとして考えるといい感じに分散させている。感情を優先させるヤンキー、腕力と武力(銃を持っている)、そして過去に集落で行われた人狼ゲームの経験者であるジジイ。信仰深く伝統を重んじるタイプのババア。休水のことを最優先に考え時にそれが考えを誤らせる中堅のおっさん。息子のこと第一なおばさん。ひたすら理屈を押し通す高校生男子に理屈は伴わないため誰も説得できないがメタ的には常に正解を言い当てる異常な高校生男子など全年代に渡って思考と行動パターンがわりとばらけている。

造形がうまいなと思ったのは主人公の陽明青年で、彼、最初は普通に迷い込んだだけのイケメンで頭のキレる好青年風なんだけれども、物語を進めていくうちに「こいつけっこうイカれてんな……」というのがだんだんと描写されていく。で、状況が大きく変わるループを経る毎に役職も変わる人狼ノベルゲームといえば当然ながら陽明青年が人狼側に回るパートもあるんだけど──といったところで、ゲームとしてはわりと珍しいサイコパス系主人公の本領発揮となるのであった。

おわりに

小説で言えば京極夏彦の京極堂シリーズといったところか(これ自体がネタバレ気味だが)。ループという事象は存在するので、超常の力的なものは前提としてある世界なんだけれども、だからといって全てを超常のせいにはせず「黄泉忌みの宴」回りは現実的な理屈を持って描く、その線引の確かさなど感心するところの多い作品であった。異能力周りの設定もおもしろいので同社の他の作品もやってみることにする。