- 出版社/メーカー: スパイク・チュンソフト
- 発売日: 2019/09/19
- メディア: Video Game
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最初の3時間ぐらいはえーこれほんとにおもしろいかー?? と訝しみながらやっていたのだけれども、6〜7割超えてメインギミックが明らかになると、もう続きが気になって気になってラストまであっという間だ。SF要素が含まれているミステリとしておもしろいのではなく、SF要素が欠かせない要素として謎解きに関わってきているという点で、SFミステリの快作なのだ。後述する理由もあって傑作というにはためらってしまうところがあるけれども、十分にオススメできる一作である。
ざっと全体像を紹介する。構成とか。
さて、この本作は一言でいえば推理物のアドベンチャーゲームである。基本的に、先進式人脳捜査部隊ABISというなんじゃそら感のある組織の捜査官の主人公を動かして、左目を生きたまま抜き取った後に殺していく謎の殺人鬼を追う捜査パートと、重要参考人の記憶に潜り込むソムニウムパートが交互にやってくる構成になっている。
捜査パートは普通な感じで、幾つかのマップを移動しながら怪しいところを調査してヒントを探ったり、鑑識官やその場に居合わせた人々と会話をしながら進めていく。このへんは目に当たるところを選択していけば終わる部分なので、実質ノベルゲー的な部分だ。もう一つのソムニウムパートは本作の特色にあたる部分で、Pyncシステムと呼ばれる、他者への深層記憶へと潜るための装置を使って重要参考人の秘められた記憶を解き明かしていく。この深層記憶へのアクセスを許可されているのがPyncerであり、主人公の役割である。安全性の観点からこのPyncが6分と制限がかかっていて、それがゲーム的な時間制約にも繋がっているのがなかなかうまい。
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ソムニウムパートでは他者の記憶に潜り込んで、様々な動作(ものをなげたり本をやぶったり)をすることで掘り起こしていくのだけれども、ここがいわばパズルゲーム的な箇所にあたる。6分という制約こそあるものの、何度か失敗前提で作られている。何かの行動の選択を取るたびに30秒や20秒といった時間のペナルティがつき、それらが6分以内に収まるようにすべての行動を綺麗に収めると最終的にはクリアとなる。
最初こそ楽勝なものの、特に最終盤はかなり綿密に行動計画を立てないと6分があっという間に経ってしまうので、正直パズルを解く快感よりも(というか内容的に考えてわかりようがない選択肢があって、謎を解くというよりかはトライアンドエラー的な側面が強く快感があまりない)いらいらさせられる面はある。
このゲーム部分についての手触り、快感については、悪くはないが最高ではないといったところ。分量的には、サクサクやって15時間程度といったところ。複数ルートに分かれているが、最後の解決篇以外は基本的に事件の真相の一端が明らかになるだけのバッドエンドなので、最後の解決篇までやるのが前提になっている。
シナリオ面について
本作においてシナリオは最大の推しポイントである。シナリオの打越鋼太郎のゲームは『Ever17』や『極限脱出シリーズ』などけっこうやっているが、その中でも最高傑作の部類ではないか。複数ルート制で、それぞれのルートで大きな事件の真相の一端が明らかになっていく──と一言でいっても、ルートひとつあたりにどれだけの真相を混ぜるのか、全ルートでワクワクさせられるかなど必要とされる技術は多いのだけれども、本作の場合そのシナリオ・コントロールが完璧に近いと感じる。
化学物質による汚染によって破棄された遊園地で見つかった、左目がくり抜かれた女性の殺人事件から本作は幕をあける。プレイヤーはPyncerである伊達捜査官になって捜査を進めるわけだが、この時点では謎がありすぎて何がなんだかよくわからない。殺される動機が特に見当たらないし、捜査線上にのぼってくる人物(女性の元旦那、主人公の友人など)もすぐに同様に左目をくり抜かれて殺されてしまう。
到達するルート毎に殺した犯人が異なっているように見え、果たして「真犯人」は本当にいるのだろうか? ただ単に複雑な愛憎関係の中でルート内で殺したり殺さなかったりしているだけなのではとさえ思えてくるぐらいなのだ(この序盤の伏線はりまくりパートは、後半の解決篇を観てからだとああなるほど、と思うのだけど、プレイしているときはかなり地味でノレないので評価しづらい面はある)、ある段階でPyncシステムの隠された機能が明かされ、推理の前提が根底から覆る快感がある。
また、Pyncに関連して脳科学的な知見や症状がシナリオやキャラクタに組み込まれているのもおもしろかった。具体的なキャラクタは明かさないが、幾人か脳腫瘍などの病気を患っているキャラクタが存在しており、そこから理屈の通らない言動や幻覚・妄想症状などに繋がっていて、ミステリ的には目眩ましとして機能しているのもうまい。普通そういう要素はウザいんだけれども、本作の場合はPyncシステムがそもそも脳に関連したシステムなので、わりと自然な流れに思えるんだよね。
シナリオについてのダメ出し
CEROZで人間が凄惨に死ぬ(そもそも目がくり抜かれるし、身体が真っ二つになったりする)わりに常に軽快というか、主人公である伊達がしょーもない下ネタを繰り返す(キャバクラ行きてーとか)のはいいのだけれども、シナリオ上重要な局面もわりとそうした下ネタ寄りのギャグで突破されるのがまったくノレなかった。
たとえば、銃撃戦が始まってどうやって乗り越えるのか──みたいな局面で秘蔵のエロ本を投げたら銃を持った兵士たちがエロ本に群がって突破できたりするの、メタルギアオマージュなのかわからんがちょっとなあ……。一回ならまだしも二回、三回と似たようなことをするのでさすがにそれはなんなんだと辟易してしまった。全体的にコメディの部分とはノリがまったく合わなかった印象がある。
おわりに
比較的コンパクトにまとまっているので、休日でガッとプレイしてすっきり満足したい人にはぜひオススメしたい。ちなみに、この記事が上がる日(10月03日)は陸さんの新刊『雪が白いとき、かつそのときに限り』の発売日でもあり、こちらも学園本格ミステリとして珠玉の出来なので一緒にどうぞ。これもすぐに記事を書きますが。
- 作者: 陸秋槎,中村至宏,稲村文吾
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/10/03
- メディア: 新書
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