エロにグロ。とても勝てそうにない強大な敵にかっちょいい武器、武道。デカい敵もいれば小さくて多い敵もいる。だがだれもかれもみな強く、圧倒的な力を持っていて、主人公たちはあまりに非力だ。でも知恵やチームワーク、覚悟を決めてその強敵に挑みかかっていく。GANTZという漫画が世間一般にどういう評価でもって受け入れられているのか知らないが、僕にとっては単純明快なエンターテイメント作品であり、快感原則に寄り添って全力疾走してくれる、めちゃくちゃおもしろい漫画だった。
あらすじをほとんど知らない人もあんまりいないだろうが念のため、簡単に説明しておこう。人が死ぬと、どういう条件高は不明だが謎の部屋に飛ばされ、武器を持って変てこな星人と戦い、敵を倒すと設定されたポイントを受け取ることが出来る。100ポイントで「記憶を消去して生き返る」「誰かを生き返らせる」「もっと強い武器をもって0ポイントから」の3つのうちどれか一つを選択可能。主人公は物語冒頭であっという間に死んで、このデスゲームに巻き込まれていくことになる……。
敵が滅茶苦茶強いのがいい。「勝てるわけがねえ……」と毎度絶望感を味あわせてくれる。よく毎度毎度ここまで「勝てねえ……」と思わせてくれる敵を設定できるものだ。それは単なる言葉で(「あいつはやべえ……」とか)強さを表現しているのではなく、ビジュアル面からして圧倒的であったり、「町を破壊する」「人体を破壊する」「仲間の強者をむごたらしく殺す」という「強さの結果」によって表現されている。モブキャラクタや時にはメインキャラクタさえも無残に臓物をまきちらして死んでいくその緊張感ときたら。
人体は飛び散り、弾け飛び、、中身がこんにちわして、死体はそこらじゅうに転がって、最後敵はぐちゃぐちゃになる。息絶える前にゲームクリアすれば身体も再生されるというルールがあるおかげで、人体がこうも盛大に破壊される場面を見ることができる漫画もそうそうないであろう。別にそれは痛快というわけではないし、爽快でもないと思いたいのだが、さまざまな感情を想起させる。死ぬかもしれない、という感覚、その恐怖感は表現から十全に伝わってきて、人間たちの突飛な行動、突飛な言動、デスゲームへ陥っていく人間たちへの確かな共感となる。
主人公たちがいかに魅力的であろうが、敵がしょぼかったら戦いも盛り上がらない。誰しもの記憶にがっつりと根を下すねぎ星人のインパクト、デカすぎる千手観音、恐竜! 言葉の通じないモンスターから言葉の通じる理性ある脅威まで、あらゆる側面から魅力的な敵を描いてきたのがGANTZだ。そして対峙するのは我らが人類。一度死んだ人間たちが特殊なデスゲームに放り込まれ、生き返りたかったり、誰かを生き返らせたければこのむごいゲームで戦果を稼がねばならない。
モンスターハンターしかり、オンラインゲームしかり、強いヤツ、多い敵、謎解きでもいい──巨大な難関にみんなでとびかってぎりぎりの戦いをする。それがどれだけ面白いか、体験したことのある人はみな理解していることだろう。GANTZはまさにそれだ。「すげえ強い敵!」「個性的な仲間!」「命がけのたこ殴り!」彼ら彼女らが使う武器も最初はよくわからない銃、剣からはじまって、次第に謎の超能力使いやら武道使い、はては特殊アイテムとしてのパワー度スーツや透明スーツ、巨大ロボットに飛行ユニットが集まってくる楽しさよ。
武道家が敵を謎の型でぶっ飛ばし、はめ殺し、殴り合い、一発喰らえば即死亡の打撃を掻い潜りながら技を当てていく快感!
突如現れた謎の超能力者! もちろん能力にはリスクがあって自身の身体をぼろぼろにしながら敵を粉砕する、一撃必殺的なこの快感!
敵であふれた道のりをロボットで縦横無尽に踏破していく圧倒的な暴力!
巷で大人気のアイドルで主人公にベタボレな役得!
デカい敵! 強い敵! もろい人類! 飛び散れ内臓! はじけ飛べ人体!
鳴呼、血沸き肉躍る宇宙ゥウウ!
忘れちゃいけないのがエロだ。死に瀕した時、まだ若い(おじさんもいるが)彼ら彼女らが何を思うか。愛する人でありやりのこしたことであり……そしてなんといっても性欲ではなかろうか。死が明確に性を意識させるのは、それが繁殖による不死と結びついているからだろう。性と死が明確に直結しているそのわかりやすさ! みなそれぞれの思いで死を前にして性を発散させていて、それは時に生き残る理由になり、時には死ぬ理由となる。
……と興奮しすぎるぐらいに興奮しているだけで、あっという間に読める。37巻もあるので多少ためらってしまうところもあるだろうが、実際はド迫力の絵、戦闘の描写をいかに表現するかにページのほとんどが充てられているからだ。人体が破壊されるだけではなく、見慣れた東京の風景、大阪の風景、果ては世界にまで飛び火して、世界がぶっ壊れていくさまは壮観だ。なぜこれほどまでに、街が壊れていく様に興奮してしまうのだろう。破壊の美学とでもいうべきか、物は壊れることによってその成り立ちを、最後に明らかにするのかもしれない。
飽きずに楽しめる理由は、あらゆる面でスケールアップしていくことだ。それは敵がスケールアップしていくだけでなく、味方の戦力面しかり、最初に判明していた物語規模しかり、町の破壊頻度しかり、物語が進むにつれて「ああ、これは漫画版地球防衛軍だったんだ!」と誤解するぐらい、信じられない勢いで膨れ上がっていく。夢にまで見るシチュエーションを全部乗せでブチ込んで、それを表現しきってくれたそのことへの感動。あまりにもアホといえばアホ、信じられないようなシチュエーション、無理やりなプロットといえばそうだろう。それでも最後の戦いに赴く主人公、ラストバトルは、これが読めるんだったら多少の不整合なんかどうでもいいだろう!? という理不尽さをすべてねじ伏せて納得させてくれる力があった。
終わってみれば37巻あっという間で、あー楽しいアトラクションだったなーと大満足して現実に帰っていく。それが僕にとってのGANTZだった。痛快明快娯楽活劇ゆえに細かいな部分はあまり期待してはいけない……と思いきやけっこうおもしろいところもある。ラストに向かうにつれ演出として使われるのが「2ちゃんねる」だ。常に起こっている事象を穿って批判的に見て、弱い方を叩き、マスコミに踊らされた無根拠な批判を繰り返し形勢逆転すれば急に前から味方だったようなフリをするクズどものように描かれていく。
この露骨な嫌悪感にたいして、「ここまで悪く書くなんて、著者は2ちゃんねるやネットで叩かれすぎて病んでしまったのでは」と微妙な気分になって読んでいたのだが、。これはこれで徹底していて面白い表現になっていると思う。たとえば主人公の親父はマスコミが息子を叩いている時は息子をけなすクズ野郎的な側面が書かれた後、英雄として戦いに赴いている時は名前を叫び応援してみせる。最後の場面はいっけん感動的なのだが、しかし親父はその前に息子を、マスコミに都合のいいように踊らされて悪しざまにののしっているわけであって、これは「ほらね、父親であっても人間なんてこんなふうにすぐに意見を反転させるクズなんだよ」と嫌な気分になる。
2ちゃんねるの反応もラストバトルに赴く主人公に対してこれまでの叩きムード、完全なあきらめムードから一転、応援するような論調が増えていく。最終的に行き着いた場面だけ切り取ってみれば「人類の命運をかけて戦う主人公と、それを応援する無数の普通の人々」という構図になるが、いくらいい話風の演出でしめられても、それまで家族も2ちゃんねるも友達も、悪意をもって接していた状況を明確に書いている。
主人公周りの人間関係、ネット上の反応はすべて「社会とはこんな風に単純に立場が変われば意見を180度反転させるようなクズだらけ」「自分の都合のいいように相手への態度を変えるのが人間」であって、このような視点でみるとなんとも皮肉の聞いた毒々しいお話に一転してしまう。そんなクズまみれの世の中だけど、極まれに他人の為に動くことの出居る「本当のヒーローがいる」、欲望と諦観にまみれた人類のクズさを描いてきたからこそ、そうした「一握りのヒーロ」が強く輝くのかもしれないと、最後まで読み終えたときに思ったよ。
GANTZ コミック 全37巻完結セット (ヤングジャンプコミックス)
- 作者: 奥浩哉
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/08/19
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