基本読書

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伝奇集/J.L. ボルヘス

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)

長大な作品を物するのは、数分間で語りつくせる着想を五百ページにわたって展開するのは、労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。よりましな方法は、それらの書物が、すでに存在すると見せかけて、要約や注釈を差し出す事だ。

はじめに、という冒頭の文でボルヘス自身がこう語っている。まさにその発言を裏付けするようにこの『伝奇集』はどの短編も内容が凝縮しており、ほんの少しでも読みとばしてしまうとすぐに内容が把握できなくなる。最も自分はといえば必死に食らいついて読んでもほとんど意味が理解できないというお粗末な結果に終わってしまったのだがまたそれもいたしかたない。わからなくて面白くないというよりも、まだその域に達していないと言われたようで敗北感でいっぱいである。時間、無限やらなんやらのSF的アイディアが語られている作品が多く、同じ時間を語るにしても様々なアイディアに満ち溢れている。量子論だったり無限の概念だったり、過去の記憶をすべて持っている人物だったり(最初に思い浮かんだのはエマノンであった)。しかし最初の数十ページでは。ボルヘスという人物とその作風について何一つ前情報を持たずに読み始めたために非常に面くらい、ひょっとしてこれは小説ではなく論文…? エッセイ…? などというレベルの低い勘違いをしたりもした。あながちそれも間違っておらず、アイディアのみをがんがんむき出しにして作品が構築されているといってもいい、それはすでに論文である。理解されなかった物語に意味はあるのか──と読み終わった時に思ったが、良く考えたら別に意味を求めて本を読んでいるわけではなかった。今回は挑戦して、敗北したというただそれだけの話だ。いつか勝つ。