基本読書

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東天の獅子 第2巻 天の巻・嘉納流柔術/夢枕獏

東天の獅子〈第2巻〉天の巻・嘉納流柔術

東天の獅子〈第2巻〉天の巻・嘉納流柔術

二巻である。
盛り上がっている。こいつらが現実にいたのか・・・と思うような男たちが溢れかえっている。もちろん夢枕獏の創作ゆえ、ほとんどはフィクションなのだが。ここではのちの、「警視庁武術試合」に向けて、両派の門人のエピソードが細かく語られていく。

十傑vs四天王

 一方の雄は、有名な講道館四天王である。西郷四郎、横山作次郎、山下義韶、富田常次郎。実際はここから、富田常次郎が外れることになるが、他の三人は出場している。対するは十傑と呼ばれた戸塚派の人間たちである。こいつらが、三巻で戦いを繰り広げる。本書はその前段階である。起承転結をそのままなぞらえていると考えればわかりやすい。そういった意味では、激動の三巻へのつなぎを二巻は果たしている。

激動の時代

 読めば読むほど激動の時代だ。武士がいなくなり、西南戦争が起こり、戊辰戦争が起こり・・・。今からは考えられないほどに、死が身近な現実がここにある。今の試合では絶対起こり得ない覚悟が、この物語の中にはある。プライドを賭けた試合であり、『負けたら腹を切って死にます』。これが未だに、ぎりぎりまかり通る最後の時代である。必要なくなっていく武士の魂と、それを嘆く大勢の武人たちの葛藤。日本において一番面白いのは、実は戦国時代などではなくこの明治のあたりなのではないかと今更ながらに思ったりもする。この外国では見られない独特な精神性の移り変わりが、なんとも不思議な哀愁となって漂っている。

 闇討ち、道場破り、武術を使ったうえでの本気の殺し合い。四天王やら十傑やら、気に喰わない奴はたこ殴りにされても文句をいうことはできない。そんな、今からは想像もできない世界だ。そしてそんな悪い意味でも良い意味でも『自由』な時代がすぐに終わりを告げることを読んでいるこっちは知っている。