- 作者: 夢枕獏
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/11
- メディア: 単行本
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熱量は最高潮に。
講道館vs古流柔術諸派
男たちが命を賭けて殴り合っている。試合で、死ぬなんてもってのほかなんという考えが微塵も見当たらない。誰もギブアップしない。みな、死ぬ気で闘っている。他の生き方をしてもいいはずなのに、死ぬ思いをして戦っている。プライドのぶつかり合い。現代では見られなくなったこの戦いが、物語なら体感することができる。
もはや柔術の時代などではないと言われ、それでもなお諦めずに戦ってきた選りすぐりの男たちである。とにかく、すぐ死ぬだの殺すだの。今からすれば、こいつらは野蛮人そのものだ。だが底抜けに魅力的である。キャラクター達の鼓動まで聞こえてきそうな描写は餓狼伝の頃からおなじみだが、キャラクターがまた一段と、素晴らしい。勝った方も負けた方も愛すべき人間たちだ。
恐怖がふきぬける。
死の恐怖ではない。
敗北することへの恐怖であった。
敗北は、死よりもおそろしい。
ならば──
死ねばいい。
そう思った。
死ね。
何だかよくわからんが、文章が凄まじいことはわかる。敗北が死よりも恐ろしいと、口に出す事は簡単にできる。敗北が死よりも恐ろしいからといって、じゃあ死のう。とはなかなかならないものである。その覚悟を、この一瞬で決めた。そこまではわかる。だが最後の『死ね』は完全に想像の範囲外である。想定の範囲内の展開はどんなに凄くても、ある種のカタルシスがない。裏切られた! とでも言うような感覚がそこにはない。だが、たったの二文字でそこを超えてきた。『死ね』は完全に範囲外。二文字にもかかわらずここで受けた衝撃は相当なものだ。いやはや素晴らしい。常に、想像を超えてくる。
前半は警視庁武術大会。四対四の戦いが語られる。前回あれだけ盛り上げてきたので、やはり最高だ。ベストバウトはやはり円太郎vs四朗。何度も投げられる円太郎。才能を持つ者と持たぬ者の対比。過去の回想をさしはさみながら向かってくる円太郎の姿に、たまらない興奮を覚える。それを技で返しつづける四朗にも。 次回でとりあえず最終巻。期待が高まる。