- 作者: 森博嗣,ささきすばる
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
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なにかが治っていく過程というのは、見ていて楽しい。季節が変わるのに似ている。季節は、決してよりよく変わったりしない。ただ成り行きみたいに、葉が落ちたり茂ったり、空が青くなったり高くなったりするだけだ。そういうのに似ている、この世の終わりかとおもうくらいに気分が悪くて、その状態が少しずつ変わっていく時、別にいいことが起こっているわけではないのに、何かの偉大な力を感じる。
ハネムーン/よしもとばなな
上記は本書のエピグラフ。今回は本書の内容とは違うことを長々と語ることになりそうだ。まずはこのよしもとばななの文章から。
よしもとばななの文章、どこがそんなに凄いんだ?
正直言って最初にこの文章を読んだ時点で、かなり引き込まれていた。というよりも、これを読んだだけで満足してしまったと言っていい。素晴らしい文章だと。一読してわかる。うーんしかし文章の素晴らしさというのはうまく言葉にできないものだ。よしもとばななの文章の、どこが素晴らしいのか? についてちょっと考えてみたのだけれども、上の文でいうならば『なにか』とか『そういうのに』とかいうところを素晴らしいと感じているのだと気がついた。うまく説明できないけれど、そういうなんか言葉にできないぼやぼやしてもごもごした感じの、それこそ『なにか』とか『そういうのに』みたいに、ぼかした表現でしか伝えられないこと。それを伝えるのがもうこれ、破壊的にうまいよ。正直最初に読んだとき絶句してしまった。何か、とか多様しているんだけど、凄い伝わってくるの。凄いなあ。
森博嗣は母星
また本書と全く関係ないのだけれども、森博嗣本についてちょっと思うところあるので。森博嗣は自分にとって母星のようなものだと思うわけですよ。なんて書くと大げさだけど。いろいろ遠出して、いろんな本を読んだ後は森博嗣の、あだち充作品のように、いつものような感じ の話を読んで安心するのが日課のようになっている。とでもいうべきなのかな。そう、自分にとって森博嗣の作品っていうのは極端な面白さを求めているわけじゃなくて、いつも変わらずにそこにある感じというか。常に一定のクォリティで、供給し続けてくれるところを非常に買っているわけですよ。それでいて東野圭吾とかよりも断然好きなのは、発刊順に読んでいくとそこにほのかな実験の香り…というか、作風の推移みたいなのが結構読みとれるところなのね。毎回毎回同じものを書いているような気がするんだけれど、結構中身が違う。これもまたおかしなたとえだけど、手塚治虫的な安心感と面白さといっていいかもしれない。ほとんど森博嗣本は読んでしまっていて、そう言った意味じゃあもう本の感想も書かなくていいかな? ぐらいなんだけれども、やっぱり一応書いておく。以下から前置きが終わってようやく感想。
ようやくここから感想
久しぶりにすっきり爽快…というわけではないが、これはかなり好きな作品となりそうだ。なんといっても終わり方が良い。「人間が死んでも、名前は残る」一見当たり前のように思うが、タイトル他名詞にこだわる森博嗣らしいテーマだと思った。タイトルの意味も、最後のページを読むまで多分全然わからないけれど、その分分かった時のカタルシスはかなり良い。そう言った意味じゃあ素晴らしい構成といえよう。本書は特に謎解きをするわけではなく、サスペンスといった内容だ。ただ、最初に提示された謎がじょじょに解き明かされていく様は完全にミステリィで、最後の最後にタイトルの謎が明かされるという構成にまず拍手したい。他はまあ、いつもの森博嗣だったか。いやいや、でも女の子にちょっかい出しまくる親友と、過去に自分に思いを寄せてた女の子とかいうエロゲ的展開は森博嗣的にはかつてなかったものかもな? あ、エロゲ的なのは結構毎回だった。でもやっぱり女の子にちょっかい出しまくる親友はやっぱり森博嗣の中じゃ特異だなあ。まあそんな感じで。