基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

アイガー北壁

観てきました。1930年代に、ヨーロッパ最後の難所としてほとんど伝説になっていたスイスの名峰「アイガー北壁」を初登頂しようとする登山家たちの、実話をもとにした物語。日常的な空間とは離された過酷な状況下で、その状況を乗り越えるために時には自分を仲間の為に犠牲にすることを決断しなければいけない、その葛藤が凄すぎて、観ていて思わず胃がキリキリしました。凄い映画だった……。実在の事件が約70年前ということもあってか、観客が20人以上いたにも関わらず平均年齢がどう見ても60近かったのでびっくりしました。

人生に何の希望も持てない若者が、その持てる力を全て注ぎ込んで何らかのゴールにたどり着こうとする。彼らは名声や名誉、それから貧乏だったので単純にお金、それらを獲得して、不可能を可能にしたと世間に知らしめたかったのだ。それは確かに素晴らしいことだけれども、同時にとてつもなく危険なでバカな行為でもあるのです。だからこそ彼らが途中で下した、ケガ人を前にしての「下山するか」「登り続けるか」「決断」の重さと、その状況にくらくらした。それはそのまま「見殺しにするか」「人命を優先するか」の選択につながっているのです。栄光を取るか、それとも人として恥ずかしくない選択を取るのか。

そんな過酷な状況を、観客は観ていることしかできません。作中でヒロインにしてジャーナリストのルイーゼが暖炉の前で暖まっている場面と、登山家が必死に山を登っている場面が交互に映されますがその立場はわたし達と同じです。ルイーゼの上司であるヘンリーは、「記者と読者は、物事が起こるときの準備段階と、終わった後しか知ることが出来ない。」と言っていましたが、物語は、わたし達が知りえるはずがないその場面を想像力で補ってくれます。しかしこの物語は、わたし達が決して触れることが出来ないことを痛感させられる。ヘンリーは他にもこんなようなことを言っていて、なるほど確かにとうなずくことしかりでした。「栄光の登頂か、悲惨な死か、そのどちらかにしか読者は興味がない。「無事に下山した」なんて三面記事にしかならん」。

さて、この映画は「栄光の登頂」を描いたものなのか。「悲惨な死」を描いたものなのか。はたまた「無事に下山した」を描いたものなのか。はたしてこの映画はどれに当てはまるのか、普通の映画であるならば「栄光の登頂」となるところですが……。「この状況だったら自分はどう考えるか」ということを意識せざるを得ないような描写になっていて、より登場人物に感情移入する為には、事前にあまり検索などして行かないことをお勧めします。