これは傑作。2010年もあと少しのところでいい本を手に入れた。「合理的楽観主義者」であるという著者による「世界楽観論」。誰もが口を開けば「世界は悪くなっているし、これからも未来は暗い」という中で論理的に「世界は良くなっているしこれからもよくなる」と人類史を辿って丁寧に説明してくれる。
私たちはたかだか300年前の人が願ってもかなわなかった数々の事柄を、簡単に成すことができる。飛行機に乗ったり、家に帰ってスイッチを押せば電気がついて電子レンジで食べ物がすぐに暖かくなりすぐに必要なものは何でもコンビニにあり、食べ物は豊富にあって困ることはほとんどない。さらにいえば、インターネットまである。
僕は「過去と未来どちらに行きたいあるいは生まれたい」といわれたら即断即決で「未来」と答えるけれど、過去は悲惨なのだ。資本主義は人の心を卑しくさせた過去の農耕で自然と一体となって労働していたときのほうが人間は幸せなのだと考えた時期もあったが、正直言って環境があまりよいとは思わない(幸せ度の相関はぶっちゃけわからないが)
なぜ人間の身体自体は何万年も前から進化していないのに、人間はこれだけの「繁栄*1」を迎えられたのか? その考え方の中核をなすのが、「アイデアのセックス」という考え方。要するに、文化が生み出され、交換され、その際に「継ぎ足し」されたり「混ぜ合わせたり」するたびに文化は革新を起こし、そのたびに文化は進化してきた。
重要なのは「アイデア」あるいは「知識」なのだ。なぜならこれは火のようにいくらでも共有可能で、無尽蔵であり尽きることはない。アイデアは交配を続け、発明が起こり、さらなる交配を待ちながらどんどん蓄積していく。もちろん交配不可能状況があって(物理的な人間間の断裂など)、過去幾度も繁栄がストップしたことはあったが、常にそこから復興してきた。
「人類の年代記のどこを見ても目に入るのは、戦争や税金、飢饉、大火災、有害な禁止政策、より有害な保護政策と闘う個々の人びとが、政府が鑑賞するそばから創造し、侵略者が破壊するそばから修繕する精勤ぶりである」
人間の性質は変わることがない。いつの世も攻撃と耽溺、供覧と教唆、魔力と破壊力のドラマが進行している。だが、今度はより繁栄した世界でそれが起きるのだ。*2
それならば悲観的になる必要もあるまい、と思う。もちろん楽観的に日々をただすごせばいいというものでもない。大切なのは悲観論に陥ってうじうじと悩むでも楽観論に陥って自堕落に過ごすのでもなく、アイデアの交配、人類を繁栄させるイノベーションであり、これから先世界中がよりよくなっていくためにはどのような変化を起こせばいいのか? と考えていくことなのだろうと思った。
- 作者: マット・リドレー,Matt Ridley,柴田 裕之,大田 直子,鍛原 多惠子
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