基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

議論術速成法──新しいトピカ

議論をするならば事前に読んでおいて損はない一冊。

『驚異の百科事典男』には、百科事典を読みまくったのち、ディベートでもいい線いけるだろうとテレビに出たら全くまともな反論が出来ずに恥だけかいて帰ってくる、というエピソードがあったけれども、ディベート経験者とまったく経験したことが無い人間ではまるで議論が成り立たない。相撲や競技のように議論もまた技術を必要とするからだ。

本書では議論を優位に進める為の技を「盗用」する方法を教える。議論の技を盗用した結果のみを教えられれば教えられたそのものしか使えないが、盗用する方法を知っていればいくらでも自分で技を自分の物にすることができる。入門書とはこのようにあるべきだ、見本となるべき誠実さだ、というぐらい良い一冊だと思う。

他の多くの本と違って本書が誠実だと感じるのは例えばこんな部分だ。

本書のような、議論の技術についての本を書くことは、著者である私が、今後非常に議論がしづらくなることを意味する。議論の技術を公開するとは、可能性としての論的に手の内を明かすことに他ならないからだ。

一時期株をやろうとして株関連の本を読んでいた時に絶えず疑問だったのは、「なぜこの人たちは自分を脅かすかもしれない技術をわざわざご丁寧に人に教えてるんだろう? 役に立たないからじゃないのか?」ということだった。今でも疑問である。

さて、本書で言う技術を盗用する方法とは何かと言えば、端的にいって「論法を蓄えること」になる。要するに、本を読んだり人が議論したりするのを見て、そのやり方をストックしておけ、ということだ。その際に重要なのは、論法を外部に作ってはならない。

たとえば最初は言葉の定義論争に持ち込み、過去との比較、あるいは主張を別の事例に移し替えて批判する……というように、抽象的な型として理解してはならないと言っているのである。ならばどうすればいいのかと言えば、具体的な議論を大量にインプットすることによって分析することになる。

「単純化されたツール」は単純化された分多くの枝葉が斬り落とされてしまっているというわけ。たとえるならば剣道や柔道といった武道で、一連の型の動きだけを覚えればそれで試合に勝てるはずがない。細かい議論中の機微こそ、修得するべき部分なのだ。しかし片っ端から議論の具体例を蓄えればいいというものでもない。

著者がいうには、論法にも人それぞれに見合った論体があるという。まず重要なのは、豊富な具体例の中から、自分にとって「何が合っているのか」を見極めることだ。これはいわゆる決め技、得意技のようなもので、例をあげれば非実在青少年規制に反対する際に「Aを規制するならもっと過激なBを先に規制しろ」という比較の議論も一つの技であり決め技になりうる。

比較によって議論を進めて行くのは一つの型でしかないけれども、実際には様々に変化するわけであって最初の論法はこのたった一つで構わないと言う。どうもこのあたり最初の型を作ってはならない、という教えと矛盾するような気がするのだけれども、要するに「最初から型を選ぶか」「豊富な具体例の中から自分だけの型が浮かび上がってくるか」の違いなのだと思う。

本書には他にも大量に具体例が載せられていて、その中から自分にあった論法を「盗用」すれば良い、と思った。オススメです。

序章 ギリシャの舌はまだ動いている
第1章 論法を蓄える(思考術としてのトピカ
アリストテレスの“雑然たる”論法集―正統篇
アリストテレスの“雑然たる”論法集―異端篇 ほか)
第2章 「常套句」を操作する(論戦での不意打ちを防ぐための処方集
「常套句」の誕生 「常套句」としての通念 ほか)
第3章 選ばれるための条件を知る(われわれの選択を左右する論拠
量と質のトポス 順序のトポス ほか)
第4章 自分の「議論的」気質を発見する(論者の個性と使用する論法との関係 間接的に自己を知る 私のトピカ―福田恒存氏の論争術より)

議論術速成法―新しいトピカ (ちくま新書)

議論術速成法―新しいトピカ (ちくま新書)