基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

音楽の在りて

萩尾望都先生の短編集。

ほとんどの作品は78年から79年に書けて書かれた短編で、一番新しいものでも1991年。これ程までに昔の作品が今まで単行本化されるには、基本的に需要が無かったと考えるほかない、たぶん。そんなに面白くなかったのかもしれない、なんとなく昔の原稿を発掘したら出てきたから、じゃあ記念に出しておこうかといった感じで出したのではないかと読む前は怪しんでいたのでした。何しろ本業は漫画家ですからね。

しかしこれが良い。ⅠとⅡで別れていて、ⅠはSF、Ⅱは、漫画家や創作や音楽をテーマにした現代物(といっても書かれた当時が79年とかなのでその時代の)現代物。萩尾先生が漫画家について小説で書いているっていうのが面白いです。でもやっぱり、ESPとかが出てくるSFが良いですね、もう想像力が素晴らしい。音楽の在りても、そう言う意味では凄かった。

特に二編目の『子供の時間』とか、もう最高。全ての要素が大好きで、言葉は練られていて、最初から最後の最後まで、キッチリカッキリと構成されていて……。絵が目の前に浮かんでくるかのような文章なんですよね。小説家の文章とは、やっぱり違うような気がする。色の描写が多いんですよ。あれは何色、これは何色、どうでもよさそうで、結構重要です。

あとタイトルが素晴らしい。『音楽の在りて』とか……。極限までそぎ落とされた鋭い言葉へのこだわりは、漫画を読む時に既に目を見張る部分でしたが、文章になっても劣ることはないんだな、と思いました。いくつかは普通の出来でしたけど、そんなことはどうでもよいですね。

社会と考え方がズレていった時にどうしようか、と考えこんでしまうような話が幾つかありました。みんなはこう言っているんだけど、なんだか僕は合わないし、みんなが言っていることが、なんか違うような気がする……とか、そもそもあいつらとは合わない! と最初から拒絶を表しているとか……。

どうすればよいんでしょうか。基本的にとりうる道は、拒絶か、受け入れつつ共存の道をはかっていくか、はたまた革命を起こして自分の考えを正道にしてしまうか、3つぐらいしか思いつかないな。正しい道というのは基本的になさそうに見える。

どれが正しいのではなく、問題なのはそれがどう書かれ、演出されているのかだ、と僕は思います。つまらない方に話がそれてしまいました。この本はだから、つまり、以上のような理由で、とっても面白かったです。

音楽の在りて

音楽の在りて