基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

魔法科高校の劣等生

すごい面白い。「魔法がある世界は世界はこう変わる」という設定も結構盛り込まれていて、それ以上に作品の本質的なところがとてもSF的だと感じる。

ライトノベルは今でも10冊に1冊ぐらいの割合で読むし、好きだけれども、発売日に本屋にわくわくしながら買いに行くほど気に入ったのは久しぶり。ストーリーはすごい中二だがよくできた中二が僕はとても好きなのである。

 魔法が現実の技術となって、一世紀──。
 新入生の季節。この『魔法科高校』にも、一組の血の繋がった兄妹が入学した。
 兄は、ある欠陥を抱える劣等生(ウィード)。
 妹は、全てが完全無欠な優等生(ブルーム)。
 どこか達観したような面持ちを見せる劣等生の兄と、彼に肉親以上の想いを抱える優等生の妹。
 二人がこのエリート校の門をくぐったときから、平穏だった学びの園で、波乱の日々が幕開いた。

いくつか面白いポイントはあるのだけれども、その一つは主人公である兄妹の兄が、とてつもなく凄い完全無欠な能力を持っているが、しかし現代の評価基準には合わず劣等生の名を受けることになってしまっているところでしょうか。そこからの「評価を覆し続ける」逆転劇のようなものが読んでいてとても爽快です。それもよくある「一つだけ最強の能力を持っている」的なアレでなく、唯一の欠陥以外は「すべての能力が規格外」という凄まじい中二病。だが面白い。

世の中に割とある「主人公が最強の能力を持っている」系統の話で、面白い物とあまり面白くないもの違いっていったいなんなんだろうな、って考えていたんですけど、まあ言うまでもなく「設定の作り込み」なんですよね。たいてい「最強の能力」というぐらいだから、その能力というのは足が速いとかそういうのではない。架空の魔法とか、そういったものを扱っている訳だけど、それがどのような体系で、どのように社会の枠組みでとらえられていて、主人公の能力はそれがどのレベルでどう凄いのか、っていうところがわからないと、いくら凄い凄い圧倒的だーうわーと言われてもよくわからないのだ。

で、それが面白い点の二つ目で、「魔法が存在する世界」という設定がかなり作り込まれている。もともとWeb連載だった物なので、紙面というものも存在しないしいくらでも設定が書ける利点はある。本書の「魔法」とは現代の「科学」ににたような物で、適正な能力がある人間ならば一定の手順を通せば「誰でも同じような結果が得られる」それが科学と違うのは、まず「物理法則を魔法は無視することができる」という点と、「適正が存在する」という点だ。

魔法もライトノベルの世界でかなり枝分かれして進化していったように思える。プログラム=魔法的な捉え方をしている魔法や、ふんと気合いを入れたら魔法が発動する系統の魔法や、魔方陣、スペル詠唱的な元々のイメージの魔法や……本書の魔法はそのいろんな魔法の良いところが取り入れられている感がある。そういった魔法設定(と100年後の社会の変化の設定)を楽しむのも非常に楽しいのだ(もっとも一巻の時点では説明が読むに耐えないぐらいへたくそに感じられたが……)

面白い点の三つ目だが、兄妹の仲睦まじき様である。本書の後書きで著者は「主人公達也のコンセプトが「既存の枠組みでは評価できないが故に劣等生の烙印を押された少年」であり」と書いており、さらには作品全体の方向性として

異端者が、異端者である自分を、力ずくで押し通す……そこには多分、私の憧れが込められています。異端者が正統に屈することなく戦い抜き、ついには力尽きて敗れ散っていく、その滅びの美学も魅力的ですが、「それがどうした」と嘯きながら悠々と正統の壁を突き破って進み続ける異端者の物語も捨てがたいと思います。

とも書いている。これを読んで、イレギュラーが「それがどうした」と言える為にはどうしたらいいんだろうと考えていたけれど、キャラクターのあり方にその答えはある。一つ目は「自分を肯定してくれる人を見つけること」であり、二つ目は「自分の正しさを自分で評価し続けること」である、と思う。いくらでも挙げられそうだが三つ目はやはり「押し通すだけの実力」か。このうちの一つ目が本書だと「兄妹」になる。

兄は既存の枠組みでは評価されずに劣等生と呼ばれてしまうのが、妹は「周りの評価がどうなろうとも」兄のことを「正しい」と支え続ける。自分がどんなに正しいと思っていても、周りが全員真逆のことを言っていれば、どうにもこうにも「自分っておかしいのかな…」と考えてしまう物だが、ひとりでも肯定してくれる人がいるという安心感はとても強い物だ。たいていの人の場合その役目は家族にある。

この本の主人公の場合はそもそも一人でいても不安になったりしなそうなタイプだが……、それでも絶対的に主人公を肯定してくれる妹がいるというのは読んでいる方としても凄く安心する。うまくいえないのだがそういうかわることのない関係性というのは、ひとつの「土台」なんだと思う。作品だと「テーマ」とかも土台にあたるんだろうけど。土台があるからこそ、いろいろやっても戻って来れるのだ、抽象的だが。

読み終わってスゲー面白い!! と思えた。いろいろ書いたけれど、やはりそれだけの感想でも良かったかな。

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)