文芸批評といったものを毛嫌いしている僕ですが
本書はたいへん楽しめました。
良かった一つは問題設定がキチンとしていること。
ゼロ年代の想像力というタイトルが示すとおり、ゼロ年代という新しい想像力が発揮されている場に適当できる批評が存在していないことから、「現代に即した批評」を加えることを目的としています。
あまり批評が楽しめない僕が、本書を楽しめたのはこうしてちゃんと問題設定を行なってくれるような「やたらと親切」なところにあるのかな。
本書には同じテーマ(データベースからコミュニケーションへ)が語る作品を変えただけで、繰り返し繰り返し登場する。
テーマだけを読む人は「全部同じじゃないか」と思うかもしれないが、本書の価値は語り落とされてきたそれらの作品に正しく評価を与えることであって、「今までの批評の文脈から外れてきた作品を拾い上げ、再配置すること」だったのだろう。
僕が批評に求める物があるとすればそこである。既存の作品達を整理し、分類し、出来れば捉え直すこと。
それが行われている本作は結果、優れた作品ガイドとしても機能している。
もっとも最後までネタバレしてしまっているので今更観たり読んだりしようとは思わないが、しかし中途半端に予防線をはりながらネタバレされるよりかはがっつり最後までバラされてしまったほうが良い。どうせ読まないんだから。
「作品を横断的に紹介、もしくは整理し分類し捉え直すこと」において批評がそれを出きるのは一貫したテーマを持っている時だけだ。その切り口を持って作品群を一冊の本の中でまとめあげることができる。そしてあの作品もこの作品にも、共通のテーマが見いだせるのだ、というメタ的な楽しさは、やはり批評特有のものだ。
久しぶりに批評って面白いな、って、素直に思うことが出来ました。
素晴らしい。
- 作者: 宇野常寛
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/09/09
- メディア: 文庫
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