基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

密室入門

「なぜ山(エベレスト)に登るのか?」
ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで訊かれた登山家ジョージ・マロリーは、こう答えた。
「そこに、それがあるからだ」
ミステリ作家への架空の質問に答えよう。
「なぜ密室を書くのか?」
「そこに、それがないからだ」

ミステリ作家有栖川有栖先生と建築家の安井俊夫さんが密室について語る入門書。
密室の定義から、そして何より密室の魅力について語っています。
読みやすく分量も少ないながらも面白いポイントがいくつもある良い感じの本。

メディアファクトリー新書の、こういう「従来の新書よりさらに親しみやすい新書」というコンセプトが好きです。いや、僕が勝手に「そういうコンセプトでやっているんだろうな」と思っているだけなんですけどね。それに、しっかりと調査を重ねた新書も(それも非常に面白い)いくつも出ているのです。

面白かったのが、色々な作品の「密室事例」が紹介されるところです。
世の中には奇想天外な密室があるんだなあと読んでて面白くなる。
しかし著者が苦心して創り上げた「トリック」の部分だけをガシガシ消費していくんだから贅沢の極みですよなあ。
親切なことに書名は出されていないものがほとんどなのですが、もうそこまでいったら書名も出してブックリスト的な価値を持たせて欲しかったなと思う気持ちもあります。

たとえば「逆密室」という言葉の説明の際に使われる具体例なんですが、鉄格子がはまって、鍵もかかっている密室があったとします。そこでバラバラ死体が見つかる。いったいどうやって殺したんだ!? となるんですが、これは、密室で殺されたのではなく鉄格子から入れられたんですね。

「密室で殺された」のではなく「殺した人間を密室に放り込んだ」から「逆密室」。うわあ、うまいこと考えるなあ、って読んでて思わず呟いちゃいましたよ(ツイート的な意味ではなく、電車ので衆人環視の中)。恥ずかしかった。あとは野原で殺人を犯した後、死体をすっぽり包むように家を建ててしまうとか(笑)それは凄い。

あと心理トリックってやつも面白かったなあ。心理や思考に盲点ができる、人間の性質をついたトリックのようです。「怪しい人物は通りませんでしたか」と訊かれて、「怪しい人物は通らなかったよ(警官は通ったけど、怪しくないしな……)」みたいな。地味だけど、それをやられたら「あっ!」ってなるだろうなあ。

他に面白かったポイントは、建築家の安井俊夫さんの建築家らしい話です。
エレベーターの中には、実はプラスで空間があるらしいんですよ。
ランクルームといって、壁にはられているカーペットをはがすと、鍵のかかった扉が現れる。人が一人体を丸めれば余裕で入れる空間で、ここを知っていればバレずに殺害できるかもしれない(笑)もちろん鍵はかかっていますが。

最後に、有栖川有栖先生の密室愛が素晴らしい。
人が好きなモノを楽しそうに語っている姿(見えないけど)っていうのは
読んでいる人間も楽しくさせますね。もちろん、それ相応の内容が伴っていてこそですが。

さらっと読めるので、さらっと読みたい気分のときにおすすめです。

密室入門 (メディアファクトリー新書)

密室入門 (メディアファクトリー新書)