アニメ制作者たちの方法 21世紀のアニメ表現論入門 (Next Creator Book)
- 作者: 高瀬康司,片渕須直,京極尚彦,井上俊之,押山清高,泉津井陽一,山田豊徳,山下清悟,土上いつき,土居伸彰,久野遥子,藤津亮太,石岡良治,渡邉大輔,泉信行,古谷利裕,吉村浩一,福本達也,原口正宏,吉田隆一,氷川竜介
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2019/02/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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片淵須直監督へのインタビューでは、特に『この世界の片隅に』の映画で執拗に資料にあたって街の情景を再現したことについての発言、『片渕 そうなんです。自分の限界が作品の限界になってしまう。だから現実から元ネタを丸ごと持ってきたほうが、自分らの想像のおよばない要素が入り込んできてくれるのでよい。一からものを描くしかないアニメーションだからこそ余計に、書き手の中にあるものだけでなく、外から取り込むことが大事になると思うんですよ。』にぐっときた他、監督が撮影寄りの処理にも深く関わっていて、光の素材など最後の統一感を出す場所で手をいれているという話をされていて驚く。『最後のところで絵としての完成度を高める作業は、自分でやるのが一番いいなと。一人でやることで統一感も出るでしょうし。』
僕はアニメにおける「撮影」ってなんとなく言葉としては知っていても何をしているのか具体的にイメージがついていなかったのが、本書の制作者側の対談でほとんどの人たちが「撮影」の重要性に触れていて、俄然興味が湧いてきたのも嬉しいポイントであった(ちなみに、本書の中でも撮影とは何なのかについてはアニメの制作工程と共に解説されていたので、それである程度把握することができた)。また、『この世界』で3コマ打ちを採用したことについての、「映像は人間の頭の中でどう認知されるのか」についての理論的な背景など読みどころしかないインタビューである。
で、制作者対談として続くのは井上俊之さんと押山清高さんのdiscussionで、61年生まれの井上さん、82年生まれの押山さんのアニメ業界としての世代・感覚差の話、作画観・技術の変遷の話がおもしろい。ここでも撮影の話はけっこうウェイトを占めて語られている。『押山 撮影処理で作品の画的な個性を出したりと、近年はアニメにおける撮影のウェイトがどんどん高くなっているのは間違いないですね。まずい作画を上手に見せるのも、いい作画を悪くするのも撮影になっていて、だからアニメーターもそっち側をコントロールしたがるようになってきている』
また、ここで語られていて後にも語られる(片渕監督も触れている)のがデジタル作画の利点で、描いたものをすぐにプレビューして動きを確かめられるのでトライアル・アンド・エラーがしやすく、線画と塗りのバランスも確認しやすいという。動きのシミュレート能力は、元よりある人にはそうした機能がなくても頭の中でできるのだろうが、ない人でもキャッチアップできるようになったというのが大きいのだろう。
続くdiscussionは『Fate/Apocrypha』の伝説の第二十二話の担当スタッフである山下清悟さんと土上いつきさんで(それぞれ1987年、1994年生まれ)、「Web系アニメーター」と言われることもある。『山下 そうそう。デジタルでプレビューを繰り返しながら描くことで、失敗した箇所を見つけやすいし直しやすい。、まずラフを繋いでみて、そこから違和感を消していくという作り方になるので、絵ではなく動きベースで作画ができる。』とこちらでもデジタル作画の恩恵について触れている。
土上さんは任天堂のうごくメモ帳(タッチペンでメモやパラパラ漫画が作って人が見れる場所に投稿できるアプリケーション)で最初棒人間バトルを作ったりして遊んでいたところからアニメーターになっておりはえ〜〜(そんな世代がもう第一線で仕事しているなんて)凄い〜〜という他ない。また、ここでも作画のスタイルが3コマ打ちであることの意味について語っていて、別々の対談だけれども内容が響き合っているのがたいへん興味深いところだ。撮影や3コマ打ちの意味については下記記事でも(本書の内容と密接に関連して)語られているので興味がある人は読んでもらいたい。
www.kaminotane.com
批評とか
撮影をつとめる泉津井陽一さんと山田豊徳さんだったり京極尚彦監督だったりとdiscussionやインタビュー自体はまだあって、どれも興味深い内容。
それ以外にも、各対談者らが注目・取り上げたい作品を2ページほどで語る紹介ページであったり、見開きで批評家らがアニメ作品(進撃の巨人とか、若おかみは小学生!とか)について簡単に紹介・批評するページだったり、藤津亮太さんがアニメとメディアとビジネスについて語り、泉信行さんが漫画と共に歩んだアニメ表現を語り、音楽家でもある吉田隆一さんがユーフォニアムやリズと青い鳥について吹奏楽の観点から語り──と参戦者も視点も多く、雑誌的に愉快な一冊になっている。ぱらぱらとおもしろそうなところだけ読んでも、十分にもとはとれるだろう。