『となりのトトロ』は思わぬ副産物も生みました。ぬいぐるみが大ヒットしたのです。いま「思わぬ」といいましたが、実際、このぬいぐるみは映画の公開から二年もたってから商品化されたものでした。映画製作者サイドがあらかじめ興行との相乗効果をねらって製作したものではなく、あるぬいぐるみメーカーの人が「これこそぬいぐるみにすべきキャラクターだ」と惚れ込み、ジブリへ熱心に働きかけた結果、実現したものなのです。
『ジブリの哲学――変わるものと変わらないもの』
僕は幼稚園だか小学生だかまで、ずっと、トトロのぬいぐるみを片時も離さなかったのを覚えている。
両親は共働きで、一人っ子だったこともあってほとんどの時間を一人で過ごしていた。寂しかったことだけは覚えている。その寂しさをトトロのぬいぐるみで紛らわしていたのだろう。本当に、どこに行くのにも持って行っていたし、家の中でも決して手離さなかったから。
たしかディズニーランドにあそびにいく時まで持って行っていて、両親に呆れられたりしたっけ。幼少の僕にとっては、ただのぬいぐるみの枠を超えて、守り神みたいなものだった。
トトロの凄さっていうのは、子供からみると本当に安心させてくれるところにあるんだと思う。でかくて、ふかふかで、もふもふで。言葉は何も云わないのだけど、不安なときはなんとかしてくれるという、なんだかよくわからない安心感がある。
とにかく、子供の時の僕にとってトトロのぬいぐるみはとても大切な物だった。
一時期ではあるけれど、たしかに僕のことを守ってくれたトトロのぬいぐるみ、これを生み出すために熱意を持ってジブリに企画を持ち込んでくれた誰かに感謝の言葉を伝えたい。
ありがとうございます。あなたの熱意で、寂しさがまぎれました。
まあこんなところに書いても伝わらないだろうけれど。
大人からしたらぬいぐるみなんて、「ただの物じゃないか」という感じだけど、子供からしてみたらそれは真剣に、本当の意味で自分を守ってくれる「大切なぬいぐるみ」なのだ。
今でもこのぬいぐるみを手放した時のことは覚えている。
少し大きくなった僕の眼の前で、僕よりもっと子供の誰かが泣いていて、僕は持っていたトトロのぬいぐるみを渡した。彼だったか彼女だったかは覚えてないけれど、それでぴたりと泣き止んだ。
まあ、ただの思い出話。
この後、本を読むようになって一人大好きっこになるがそれはまた別のお話。

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