基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

スティーブ・ジョブズ I

わざわざオススメする必要はまったくないだろうけれど、面白かった。

彼の妻が『弱さも正面から取り上げてほしいと言われた』と語るように、破天荒で人間性としてはとても尊敬できない部分も多い。特に周りの人間に対して躁鬱のように罵倒したり、かと思えば極端に持ち上げたり、冷酷になって平然とクビにしたりする。そして完璧主義者だ。完璧主義と冷酷さを表すこんなエピソードがある。

マウスは、単に上下左右にカーソルを動かすのではなく、あらゆる方向へ自由に動かせるようにしなければならないとふたりは考えた。そのためには、初期のマウスに使われた2個のホイールではなく、ボールを使う必要がある。しかしアトキンソンは、そのようなマウスを商業的に作ることは不可能だと、とあるエンジニアに言われてしまった。ジョブズといっしょの夕食でそのことに愚痴をこぼしたアトキンソンは、翌朝、そのエンジニアが首になったことを知る。後任の第一声は「お望みのマウス、作ってみせますよ」だった。

気に入らなければ平然と首にし、自分の理想とする完璧さを実現できるように恐ろしいほどのパワーで邁進し続ける。「自分の理想の製品を作る」という強烈な一本の芯がスティーブ・ジョブズの中にはあって、みんなそこに巻き込まれたり棄てられたりしながらついていく。絶対にブレないその理想こそが、ジョブズを魅力的な人間にして、また人間性としての弱さに繋がっているんだろうと思う。

「自分が本当は何をしたいのか」を理解して、本当に好きなこと、本当にしたいことをしろとジョブズは言うが、彼ほど熱烈に「自分の理想」を理解することは難しいんじゃないかと思う。あるいは、理想を理解していてもそれに殉ずることはもっと難しい。どこかで妥協してしまうものだから。

ジョブズは「理想を追求する」という点において過剰でさえある。最初に載っているジョブズの部屋の写真には、完璧主義すぎて家具がほとんどない。「家具なんか何でもええやん」と僕などは思ってしまうが、そんなところまで追求するのである。さらには、アップルの製品の中身、部品の配列にまで異常なこだわりを見せる。

チップなどの部品をとりつけるプリント基板の配置まで、美しさを基準にしているからだ。部品は綺麗なものを選ぶ。これに対してエンジニアは反論をする。

「重要なのは、それがどれだけ正しく機能するかだけです。PCボードを見る人などいないのですから」

もっともな疑問のようにも思える。PCボードを見るのは開発者だけだろう。しかし

ジョブズはいつもどおりの反応をする。
「できるかぎり美しくあってほしい。箱のなかに入っていても、だ。優れた家具職人は、誰も観ないからとキャビネットの背面を粗悪な板で作ったりしない」(中略)
「引き出しが並ぶ美しいチェストを作るとき、家具職人は背面に合板を使ったりしません。壁にくっついて誰にも見えないところなのに、です。作った本人にはすべてわかるからです。だから、背面にも美しい木材を使うんです。夜、心安らかに眠るためには、美を、品質を、最初から最後まで貫きとおす必要があるのです」

うーむすごい。強迫観念的ともいえるしつこさで完璧を目指すのだ。こんな人間はそうそう出てこない、と圧倒されてしまう。世界を変えたい、アップルのように良い製品を創りたい、と考える人がいても、彼ほど追求出来る人が果たしているのかどうか。

自分には無理だと思いつつも本書を読んでいて興奮するのは、一人の人間がここまでやれるのか、という単純な驚きで、人間の能力の限界を改めて考えなおさせられるところだ。わあ、人間ってすごい、一人の人間の異常性によって、こんなことまで出来るのか、と興奮するのだ。

人間的な弱さを抱えながら理想に向けて邁進し続けるその姿と、なによりその結果に、僕は人間の能力の象徴を見た。二巻も楽しみにしています。

スティーブ・ジョブズ I

スティーブ・ジョブズ I