村上春樹さんの新刊『小澤征爾さんと、音楽について話をする』を読んでいるのですが、その中にインタリュードとして『文章と音楽の関係』という興味深いテーマがあったのでメモ書き程度に。
村上 僕は文章を書く方法というか、書き方みたいなのは誰にも教わらなかったし、とくに勉強もしていません。で、何から書き方を学んだかというと、音楽から学んだんです。それで、いちばん何が大事かっていうと、リズムですよね。文章にリズムがないと、そんなもの誰も読まないんです。前に前にと読み手を送っていく内在的な律動感というか……。機械のマニュアルブックって、読むのがわりに苦痛ですよね。あれがリズムのない文章のひとつの典型です。
新しい書き手が出てきて、この人は残るか、あるいは遠からず消えていくかというのは、その人の書く文章にリズム感があるかどうかで、だいたい見分けられます。でも多くの文芸批評家は、僕の見るところ、そういう部分にあまり目をやりません。文章の精緻さとか、言葉の新しさとか、物語の方向とか、テーマの質とか、手法の新しさなんかを主に取り上げます。でもリズムのない文章を書く人には、文章家としての資質はあまりないと思う。もちろん、僕はそう思う、ということですが。
この後にもう少し詳しく「文章のリズムとは何か」について話が続いていくので興味があれば読んでもらえればと思うのですが、このテーマは僕は個人的に非常に面白いですね。文章と音楽は、たしかに強い関係がある、と後出しジャンケン的な感想ですけど僕もよく感じます。
後半部の、文芸批評家がそういう部分に目を向けずにテーマとか物語の方向とかを取り上げるっていうのは、うんうんと頷くものの、そこが一番語りやすいところで当然伝えやすい箇所なので、しょうがない部分もあるだろうと思います。
でも出来たら素晴らしいですよね、文章のリズムをはじめとした、言語化しにくい部分をちゃんと表現することができる批評みたいなものが。
僕もよく「この本のここが良かった〜」とよかった点を列挙式に上げていくことがよくあるような気がするんですが、あげればあげるほど僕には対象の素晴らしさについて満足に記述できていないという思いを強くすることになる。
僕が素晴らしいと感じているのは「ここが良かった」というポイントではなく、重要なのは要素要素のつながりであるわけですから、本当に僕が読んで思ったことをある程度伝えようと思ったらそのまま読んだ本を手渡すしか無い(笑)。そしてそうやって「語り落とされていく部分」として「文章のリズム」みたいなのはあるんでしょう。
それっていうのは「これ」ってあげることのできない箇所ですからね。いわば流れとして存在していて、一部分ぶった切って語って終わりにできるようなものではない。僕は村上春樹さんの文章を今さっき引用しましたけど、話の前後につながりがあるので区切るのがつらかったです。たぶんそういうことなんだろうな。
- 作者: 小澤征爾,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/11/30
- メディア: 単行本
- 購入: 10人 クリック: 124回
- この商品を含むブログ (126件) を見る