糸井重里さんが褒めていたのを見て、読んでみようと思った。この『困ってるひと』。
現代医学では治療法がわからない重病におかされて身体は常に体調が悪く本当に「明日をもしれぬ身」になってしまった著者の大野更紗さんが、必死に生きようとする話。困ってるひとっていうのはなんかへんてこなタイトルだけど、そのまんまの意味なんだなと思った。大野更紗さんは何しろこんな状態である。
この原稿を打ち込むキーをたたいている今も、一日ステロイドを二十ミリグラム服用し、免疫抑制剤、解熱鎮痛剤、病態や副作用を抑える薬、安定剤、内服薬だけで諸々三十錠前後。目薬や塗り薬、湿布、特殊なテープ、何十種類もの薬によって、室内での安静状態で、なんとか最低限の行動を維持している。それでも症状は抑えきれず、二十四時間途切れることなく、熱、倦怠感、痛み、挙げればきりのないさまざまな全身の症状、苦痛が続く。
このように破滅的な「困ってる」状態ではなくても、みんな「困ってる」ことは多いだろう。まあ一時的にそういう時期が来ることもあるだろうけれども、ウン十年も困らないで生きることは難しいと思う。そんな中で大野更紗さんはただ生きる為に、常に困っているのだ。実際これは大変なことである。
「生きるのに困る」っていうのはたぶん、人が人生で遭遇する困難の中では最も極端な位置に存在するものだろう。最終防衛ラインというか、最終到達ラインというか。なにしろその「生きるのに困る」を解決できなかったら、すべての悩みから解放されてしまう=死 なのだから。絵を書いている時に「うまくいかないから消そ」と思ってキャンパスを放棄しても最初からやり直せるが自分の人生はそういうもんでもないしなあ。
つまるところ何が言いたいのかといえば、「生きるのに困る」人類の困難最前線で身体を貼っている戦士状態である大野更紗さんの「困難」への戦い方は、そのはるか後方で雑魚と戦っている僕のような「一般兵A」にとっては非常に参考になる、あるいは勇気付けられるものなのだ。
本書には最初に「いわゆる闘病記ではない」と書かれる。これは闘病記というよりかは、生きるのすら困難な状態でどのようにして生き延びるのかといった生存の手引きである。病との戦いだけではなく(これももちろんある)病を抱えて社会でどのようにして生きるのか。視点を一段階上に引き上げているわけだけど、この客観性が面白いのだ。
まあ、それだけじゃないなあ。本書はもっと深い。客観性から生まれるのは周囲の分析、絶望しかない自分の状況をユーモラスに語れる視点。それだけではだめで、主観があって客観が生きる。何より未来の見えない戦いの中にいるさなかだから、この主観がまたすごいのだ。ひとことで書くと、「必死」なんだな。
これはすごい本ですよ。
- 作者: 大野更紗
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2011/06/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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