最近、村上春樹翻訳ライブラリーから出たばかりの(07年に一度ハードカバーで出たものの新書版)、村上春樹が「一曲」について語っていくエッセイ。最初に村上春樹による翻訳した歌詞がのり、次に英語が原文で載り、最後にごく短い、その曲の説明と、村上春樹によるエッセイが書かれている。
まず村上春樹による詞が、かなり良い。雰囲気が出ているし、原文そのままではなく、すぐに歌えるようなくだけた訳し方になっている。たとえば『自殺をすれば痛みは消える』(これも凄い曲名だな)という曲の、繰り返し出てくるフレーズは『自殺をすれば 痛みは消える。それがいちばんラクかもね』と訳されているが原文はもっと長い。
That suicide is painless(自殺をすれば痛みは消える)
It brings on many changes(いろんなことががらりと変わる)
And I can take or leave it if I please(それを選ぶ選ばないは、あなた次第)
割とぞっとしてしまう歌詞。ただその分印象には凄く残る。僕も今YOUTUBEで聴いてみたのだけれども、良い曲。基本的には子守唄のような曲調なのだけど、繰り返しのフレーズの部分だけ明るく盛り上がるので「自殺を明るく盛り上げてやるぜー!」というような、毒も感じられる。毒だけでも、明るさだけでも恐らく名曲にはならないのだろう。
日本語の歌詞を読み、その後原文を読み、自分なりの解釈をくみ上げてから村上春樹のエッセイを読む。そのようにして読んできたけれども、大体において村上春樹と考えていることがまったく違う事になっていたので、ほんのちょっとした詞だとしても、人によって受け取り方は全然違うものだな、とよくよく思い知らされた。
エッセイで一番心に残ったのは『優れた音楽はいろんなことを音楽的に考えさせてくれる。』というひと言で、それは確かに様々な意味のある音楽の、一つの意味なのだろうなと思った。
- 作者: 村上春樹,和田誠
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
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