好きな分野がある人は誰でもそうだと思うのだけど、ドリームマッチというものが存在する。野球でたとえれば斎藤佑樹くんと田中くん(よくしらないから適当書いてます)プロレスだったら……ごめんプロレスは全然わかんない。タケシとタモリとか、えーと……、とにかく他にもなんか色々あると思う。あるはずだ。
作家に対してもそれはある。僕にはたとえば対談して欲しい作家がいる。内田樹と森博嗣だが、これはたぶん実現しないだろう。もう一つが西尾維新とJOJOだった。西尾維新がJOJOを書く。これもある意味ではドリームマッチと言えるだろう。西尾威信はデビュー作である戯言シリーズからジョジョネタを使用し、そのジョジョフォロワーっぷりは最初から全開だった。
もちろんジョジョフォロワーの作家というのは大勢いる。ジョジョフォロワーでない作家の方が珍しいかもしれない、というのも言い過ぎではないぐらいだろう。まあ言い過ぎか。その中で西尾維新が突出して『ドリームマッチ』とまで僕に思わせるのは単純に僕が西尾維新の作品が好きだからだ。
僕の中で西尾維新のイメージと言えば「常に何かやってくれる作家」であって、それはジョジョという物語と重なったときに何が起きるのか見てみたい──、という好奇心になる。どきどき。
ジョジョのノベライズは言うまでもなくとても難しいことだけれども(何しろあの絵の魅力が大きいから、もちろんそれだけではない)「それでも西尾維新なら……西尾維新ならきっと何とかしてくれる」と思わせるだけの実績と信頼を僕は勝手に持っている。というわけで長い長い前置きだったけれど僕はわくわくして読み始めた。
これはDIOの物語だ。もう少し正確に書くと、DIOが第三部の時間軸、空条承太郎を迎え撃たんと刺客を送り出し、そして実際に迎え受けるまでの「手記」を翻訳したものになる。手記は「天国へ行く方法」を考える思考記で、同時に100年前のDIOが生まれ、そして吸血鬼になるまでのジョジョ「第一部」の回想が合間に挟まっている。
DIOはジョジョの奇妙な冒険を貫く「ジョジョ」の一族と同様、シリーズでは常にその血統が生存し、どこかにいる。後書きで西尾維新も書いているけれど、作品のジョジョの物語はディオの物語でもある。
その「ディオの物語」を書くというのは、ちょっと無謀すぎる挑戦ではないか。乙一と上遠野浩平という二人のジョジョノベライズがすでにあるが、二人がとった戦略は「メインストーリーという太い幹へ、サブストーリーを接木する」ことだった。
ディオの物語を書くことはサブストーリーを接木することではない。メインストーリーをいわば裏側から見ることである。現在も巻を重ねている長大な物語を一冊である程度書ききろうとしているわけで、傍からみるととんでもないことをやっているなあ、と思ってしまう。
正直に感想を書くと成功しているかどうか、微妙なところじゃないかなあ。成功しているところはもちろんある。それはとても高いレベルだ。ディオが「天国へ行く方法をなぜ求めたのか」、「与えるものと奪うものというテーマ」、「ディオからみたジョースター家」といったジョジョの物語により豊かさをもたらせる読みは素晴らしい。
ジョジョではあまりスポットの当たっていなかった女性に焦点があたっていたのも良い。ジョジョがもっと楽しくなる「読み」だった。
一方で正史に縛られている点もある。ディオの視点から三部の物語を眺めると、手下を次々と承太郎たちに送り込みガシガシ殺されてその数25人。最後にはディオは一人っきりになって戦いに赴くがこれもまた周知の通りである。
そう、ディオの視点からみると「なんで最初からディオがいかないのか」「なんで25人一斉にかからないの? 一人ずつ送り込むの? 馬鹿なの?」と色々違和感があるところを説明しなければならない。そしてその説明をしているのだが、なんか無理やり臭い。
また最初から最後までディオの回想と思考という形をとっているためにずーーーっと一人称の思考、語りが続く。登場人物はこういっていいのかどうかわからないけれど皆無だし、会話シーンもない。
物語と言えるものは三部と一部の回想だけでありそれもすでに読んで知っているからこうして改めて事実を語られても飽きてしまう(もちろんディオの視点が入ることで違う面が見えるのだけど)
まあ要するに退屈。それでも読みは素晴らしいし、ここで示される解釈はとても感動的だ。思わずジョジョの一部を読み直してしまったほど。僕の中でこの最後の場面ってあんまり記憶に残ってなかったけど、小説を読んだおかげで色鮮やかによみがえった。
えっと、まあそんな感じで、僕はなかなか楽しめました(結局)。
JOJO’S BIZARRE ADVENTURE OVER HEAVEN
- 作者: 西尾維新,荒木飛呂彦
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