基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ソーシャルゲームはなぜハマるのか ゲーミフィケーションが変える顧客満足

非常に丁寧な本で扱っている分野も広いし良い本でした。この本から出てきた新しい視点というのは皆無でしょうが、ソーシャルゲーム界隈のあれこれを眺め把握するためには最適な一冊という印象を受けました。ゲーミフィケーションやモチベーション理論などは単なる先行の優れた書籍の要約なのでそのへんはあまり。

ゲーミフィケーションについて知りたいならば『幸せな未来は「ゲーム」が創る』を、モチベーション理論について知りたいならば『モチベーショn3.0』、『フロー体験 喜びの現象学』を読むといいでしょう。これらは本書でも参照されていますけどかなりおもしろです。

本書は第一部ではウェブの大衆化がもたらしたソーシャルゲームの勃興史を語り、第二部ではソーシャルゲームはなぜハマるのか、その理論を構造的に怪盗ロワイヤル、釣り★スタなどを例にあげて見ていきます。第三部では上で書いたようなゲーミフィケーションやモチベーション理論を解説します。

第一部はソーシャルゲームの成り立ちは知っていましたがデータ面の情報が面白かったです。たとえばアメリカより日本のソーシャルゲーム市場の方が二倍近く規模が大きい、とか課金しているのは10代20代より50代以降の方が多いとか。

ただこれはやっぱり誰もが高性能な携帯電話を持っていて、気軽に課金できるシステムが普及しているという点が大きいんじゃないかな。余談ですけど、これから電子書籍などの電子媒体が普及していく上で最も重要になるのはこの「気軽にお金を支払うことができるシステム」なんじゃないかなと思ってます。

電子書籍ではまず物が無いのも問題ですけど、登録とかがめんどくさくて圧倒的に買うのがめんどくさいですからね。または買う/買わないにして、「寄付」でも問題は同じことです。

話を元に戻すとやはり個人的に面白かったのはソーシャルゲームの構造分析がある第二部ですね。本書ではまず最初にユーザーにどんなタイプがいるのかという分類から始めています。

簡単にまとめちゃうと1.アチーバー(達成家) 2.エクスプローラー(探検家) 3.ソーシャライザー(社交家) 4.キラー(プレイヤーキラー)探検家は世界を旅し発見することを好み社交家は他人と交流することを好みといったように4タイプにわかれています。

で、ゲームの満足度を高めて行く際にこれらのタイプをまんべんなく楽しませられるような要素を投入していくことになります。その後は実際にゲームのシステム面でプレイヤーをいかにしてゲームから離さないかという創意工夫が語られていくのですが、

いやあすごいですねえ。良く考えられているなあと感動してしまいます。しかしソーシャルゲームの目的というのは基本的に「空き時間に」「普段ゲームをしない人にも手軽に楽しんでもらい」「誰もが平等に遊べる」ことを目標としているわけです。

GREEが最初に見つけた金鉱はようするにそういう「普段ゲームをがっつりやらないけどちょっとした空き時間がいっぱいある」ような層なんですよね。これは結局大衆層につながっていくわけです。しかしそれだけ多くの人に遊んでもらい、しかも「基本無料」で「手軽に」楽しめるものとなるとかなりシンプルな物にならざるを得ない。

僕もいくつかこの本を読む前にソーシャルゲームをやってみたんですけど(モバゲーのガンダムのヤツとか)、構造がほとんど全部ここで分析されている『怪盗ロワイヤル』と同じなんですよね。

いくらソーシャルゲームが良く考えられていても、全部が全部同じような構造を持っていたらそう長続きしないんじゃないかなあ。それってつまりソーシャルゲームを一つ飽きたらもうほかの物も全部飽きちゃうってことですからね。

本書では最初に主張としてソーシャルゲームは社会にとって有益である』を掲げていますがこれに僕は疑問を覚えます。たしかにゲーミフィケーションという観点から「ハマらせる」ソーシャルゲームの構造を他の分野に応用するのは非常に有用だとは思いますが、イコールソーシャルゲームが有益と言えるかどうか。

もちろん応用できる時点で有用であるということは言えるとは思うんですけどねえ。だいたいソーシャルゲームがネットでは嫌われているように見えるのはこれがパチンコやギャンブルなどといった依存性を引き起こす娯楽と同一視されているからでしょう。

ただねえ、ソーシャルゲームはギャンブルとかと違ってそんなに底なしにお金を使うみたいな事にはならないでしょう。ソーシャルゲームで破産とか聞いたことないしね。そんなに一日中ハマりこめるようなゲームはそもそもソーシャルゲームには存在しないし、有益ではないかわりに損益でもない。

じゃあ何かというと、まあなんでもないんじゃないかな。やってれば楽しいんだから無益でもないでしょう。著者が本書で主張していることとはズレるでしょうが、楽しいと思えることを有益に含めていいんだったら有益でさえあります。

結局そういうなんでもないとこに僕の意見は落ち着くわけですが、でも個人的にソーシャルゲーム業界というのはみてて楽しいのです。宣伝は過激化していていったいどこまで行くのか見ていて楽しいですし、日本のパイが無くなったときの為に海外展開も視野に入れているでしょうがそれをどのようにして成功させるのか。

というかソーシャルゲーム業界って何もかも速度が早いんですよね。パクリが是とされるような空気もあって、それ自体は有害なんでしょうが、でもパクりって進化を加速させるものだから。

それが見ていて楽しい理由かもしれない。コンシューマゲーム業界とは見違えるほどの速度でありとあらゆる手段を展開しているように見えます。気がついたらオタク向けのコンテンツも充実してきてるし。

何にせよ気になる分野です。僕も作ってみたい。この本は作る側の人間には必須といっていいぐらいオススメですよ。しかしやる側の人間がこれ読むとソーシャルゲームってこういう感じでハメてんだなあと考えてしまってソーシャルゲームを楽しめなくなってしまうので注意。