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リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす

『僕がアップルで学んだこと 環境を整えれば人が変わる、組織が変わる 』を読んだ時の感想で、僕は至極当たり前のことながら「無駄を生まないためには、上流工程を煮詰めることなのだ」ということを考えました。ある製品をつくる、物事をはじめて動かしていくためには、それが下流工程になればなるほどかかる費用も人数も、加えて言えば引き戻せなさもまして行く。しかし本当の上流工程、たとえば製品のデザインなんて部分であれば、極端な話一人のスタッフの労力でいくらでも修正がききます。

だから何か新しい物事を、Iphoneのような今までなかったものを創る時はこの「上流工程をいくら時間がかかってもいいから完璧な物に仕上げるか」だと考えてそこで終わっていました。ところがこの『リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』ではまさにその「上流工程をいかに効率的に、無駄なく回すか」っていう方法論が書かれていて、タイミング的にどんぴしゃだなあ。やっぱり頭の良い人はこういうことを考えて、もうとっくに具体的な方法論にまで落とし込んでいるんだなあ、と感心しきりです。

元々著者はプログラマーということで、リーン・スタートアップという方式にも科学的な、ロジカルな方法論が組み込まれていて面白い。ただ実際言っていることの核は超簡単で、流れとしては3つしかない。アイデアを製品にし、顧客の反応を計測し、そして方向転換するか辛抱するかを判断する。これがスタートアップの基本になります。

それだけだと「なんだ、普通の起業と製品開発となんら変わることはないじゃないか」と思うんですけど、重要なのはこれを非常に短いサイクルで連続させて行うことです。たとえば大雑把な例えですけど、作り上げるために何人かでかはとりあえずおいといて、1年以上かかるシステムがあったとしましょう。これを必死こいて作り上げて、一年後にお客から「こんなものはまったく求めていなかった」と言われる。これが先の見えない起業と製品開発の一番怖いところかもしれません。

しかし……一年かける前に、4日ぐらいで出来るプロトタイプ的なシステムを創って、想定顧客がいるかどうか、はたまた想定顧客に実際使ってみてもらったらどうだったでしょうか? 同じようなことをやったのが世界最大のオンライン靴店であるザッポスの創業者。彼は実験からスタートすることにした。

まず、靴をオンラインで買う顧客がいるという仮説をたてる。そして仮説を検証するため、靴店に頼んで在庫品の写真をとらせてもらう。撮った写真をウェブに掲載し、それを誰かが買ってくれたらお店の売値で買うからといって擬似的なオンライン靴店を作り上げた。

このような実験を行うことによって様々なことがわかる。想定顧客は本当に存在しているのか。顧客は売買する時に実際どのように動くのか。ニーズはどうなのか。また、実際にやらなければ思いつかないようなことも学べる(顧客が靴を返品してきた場合など)。

リーン・スタートアップの肝は、ザッポスの例から学んだような仮説をたて、仮説を確かめられるような製品をつくり、実験を行いデータを取得し、これを学びのフィードバックとして次の仮説に向かい──というサイクルを「いかに早く、無駄なく行うか」にある。その為のスピードアップの方法、方向転換するさい、どのように判断を行うかなどすでに本書でいくつもモデルとして構築されている。こういうパターンではこういう方向転換をするのだというように。

通常こういうのって、発明者の後から続く改良者が段々と詰めていくことによって、システムとして完成されていくものだと思うのだが、リーン・スタートアップに関しては発明者が相当奥まで方法論を構築しているのが興味深い。まあ、それよりも興味深いのはこの徹底的に無駄をはぶくリーン・スタートアップっていうプロセスなのだけど。これは本当に凄いと思う。別に起業して、人に製品を売りたい、っていうだけの人だけに必要なものでもない。事例を問わず無駄を排除したいときに、有効な手法だ。

この世から無駄がなくなったらすごくつまらないけれど、でも無駄がない方が良いことの場合が多いから。活用の場はいろいろありそうだ。

リーン・スタートアップ

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